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⑪今までの価値観とこれからの価値観

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 新緑から三十分経ち。
俺らは仲間になる。
色々な話を聞けた。リーダーは妻子持ちで、他の三人は未婚である。
趣味が茶道って言ってた北条雅史は実家が茶道の有名な所だし。写真が趣味な時遼馬は、この前惜しくも銀賞を取ったとか。たわいない話。でも、それが心地よかった。自分が今まで飛び込んでこなかったことが今できている。自分にない価値観を俺に見せてくれる。
今、青春している。

これがツーリングなんだ。

ツーリングへの価値観が変わった。

自分は友達が少ない。嫌、作ってこなかった。でも、今はそれを後悔している。もっと出来ることを増やしとけばと。このバイクのおかげで自分の人生が豊かになる。
一人じゃなく、大勢で出来ることをしなかった。自分の人生の半分はゲームで人とは関わってこなかった。でも、今は違う。
こんなに人と関わることをしなかったのに、人と関わることがこんなにも夢や希望に満ちているなんてすごい発見である。でも、これが普通である。
自分は病にかかっていた。
桜を見るまでは。
そうだ、あれから自分の人生が動き出だした。


バイクは目的地に到着し
ログハウスで建てられている。休憩所なるものがある。
「飯食うぞ」
「美味いんだ、ここの飯は」
「歩の飯より美味いんだ」
「これは妻には内緒な」
ご飯がいつもより美味しく感じた。やっぱりご飯は一人よりも皆で、食べる方が美味しい。そう感じさせてくれる。俺は、いつも一人だった。だから、冷たさも感じる。その冷たさを溶かしてくれるのがこいつらだ。
最初は不安しかなかった。誰でもそうだ、新しいことをすることは緊張する。俺は、中学からずっとゲームでひきこもっている。友達は渉しかいないと俺は思っている。大学の時もそうだ、サークルにも入らずにゲームをしていたら、渉が外へ無理やり連れだした。渉には感謝しかない。こうやって笑いあえる。友達? 嫌、仲間が出来た。
きっとこれは、怪我をした俺への神様からの粋な計らいだ。
だったら、もっと早くしてほしかったと考えてしまう。
そう、俺はほとんど一人だった。それが、今日から変わるんだと期待に胸が躍った。それもそのはず、俺の世界に土足で入って来てくれる。土足はいいのか、まあ、いいとしよう。
「おい、聞いてるか」
籠屋は首を縦に振る。
「何だ、美味そうにお前だけ喰いやがって」
リーダーは籠屋の次に時に言葉を投げる。
「やめてくださいよ」
いつものいじりだと皆は分かっているが、籠屋も何となく察する。
「それより、来週はどうするよ」
北条が話を割って入って来る。
「春と秋は毎週皆バイク乗ってるから」
「君もどう」
「行きます。行かせてください」
楽しいと感じられる時間になっている。
「おおっ」
「いい返事だな」
「そうだ、梅雨になる前に一度メンテの時間を作ろうぜ」
メンテナンスは車検の時にするのではと疑問に思ったがその場では言えない。まだ、遠慮があるなと心を落ち着かせる。
「いつもは、五月の四週目に神部さんの家でメンテさせてもらってる」
「リーダーの家は一軒家なんだぜ」
その年で一軒家、さぞかし稼いでいるんだろうなと籠屋は思う。
「どや」
北条が言葉を出す。
「なんでお前が威張るんだよ」
リーダーが北条に突っ込も。
「わっははは」
食べながら。
メンテの話をする。
俺には分からない専門用語が多すぎてついて行けない。
でも、俺は変わるんだ。
あの桜の景色を見てから考え方が変わった。
友達の渉にも言われた。
俺の心の病が桜を見て治ったのか。
昔みたいだって。
自信満々のころの。
まあ、病は治るか分からんが、漫画にもあるよな。桜を咲かそうとした馬鹿な奴が、でも、俺はそんな馬鹿が大好きである。
世界は見たいように変わる。俺自身がその桜を見ただけで世界を変えたいと願ったんだ。だから、この景色は世界を変えて見えるんだ。今は昔と違って、見たい景色に変わる。
俺の中にも変わりつつある。そう気づけた。誰のおかげか。
そう、渉のおかげだ。
俺は、いい友達を持っている。
食事が終わると。周りで記念撮影をして、帰る。
「この写真な」
「森田モーターズのボンのホームページに載せるんだよな」
ボンは森田モーターズのツーリングサイトとなるものを作っている。お客さんはぼちぼちいるみたいだ。この写真を見てツーリングに来てくれる人がいればいいなと考えている。そしたら今度は俺が先輩だ。先輩か、いい響きだな。
「じゃ、もっと男前に撮ってもらうんだった」
籠屋は本当に残念そうに言葉を出した。
「そのままで、お前は男前だよ」
リーダーの毒舌がギアを入れてくる。ようやく温まってきたと渡辺渉は四人を見ている。
「わっはははは」
「何か嫌味」
北条も笑いながら言葉を出す。
「わっはははは」
バイクに五人は乗って、また、雑談をしながらバイクを走らせる。
俺は、この雑談中に言葉を探している。
いつからだろう、俺が一人ボッチになったのは。
そうだ、中学のあの事故のせいだ。

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