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①出会い

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 颯爽と走るバイクがある。その荷台に乗っている男、それがこの物語の主人公だ。名前は籠屋景。まあ、主人公の話は後でしよう。そして、運転しているのが主人公の友達、渡辺歩である。こいつも後で話をすることにしよう。そして、トンネルにさしかかる。それまでには、青く広がる空に木々の淡い色が視界に入る。バイクの運転者と荷台の男がヘルメットに内蔵されている無線でやり取りをしている。もう春なんだと気づくくらい温かくなっている。温かいのは雲がないこの空の快晴さが起因していると考えられる。でも、風があり少し寒いとも考えさせられた。どっちだよ。
暗いトンネルをくぐればそこは、一面の桜だ。この景色は誰が見ても感動するくらいの観光名所だ。所謂、穴場である。目の前が桜でいっぱいだ。それにこの匂い、いい香りだ。これが俺の目の前の光景だ。桜が太陽の光で光、風が吹けば桜の花びらが舞う。その花びら一枚を手でとると何とも言えない感情が沸き上がる。俺の中の何かが変わろうとする感情が出てきた。
「これがバイクでの景色だ」
運転手の渡辺渉は、籠屋景に感想を求めながら言葉を出した。
「どうだ」
「病は治ったか」
渡辺はバイクのアクセルをあげながら言葉のアクセルもあげた。
病というのは籠屋景の中でゲームに逃げている現在。そして、今もなお逃げ続けている。自分に自信がないただそれだけだ。籠屋景の過去が気になる。それは、後で語ることにしよう。
「治ったどころじゃない」
興奮している籠屋景の姿がある。
桜を見るのは初めてではない、でも、今回は何かが違った、何が違ったのかは分からない。でも、籠屋の中の何かが変わろうとしていた。と籠屋自分のことは自分では気づかなかった。でも、渡辺だけは籠屋の変化を見抜いていた。何十年籠屋といると思ってるんだと渡辺は切れ長の目でちらとこちらを見る。
「何だよ、この景色」
「ゲームのグラフィックの敵じゃないぞ」
ゲームでもこんなに凄い景色はないと言いたいがいっぱいある。しかし、ゲームの絵はただの絵である。こんなにも自分の目で見て体感するといつもの百倍くらい凄い景色に見えるのだ。籠屋景の心を突き刺した。
「こんなに凄い景色は初めてだ」
心からの声であった。これが籠屋景の人生を変える出会いだった。
(出会いか、違うな、素敵な趣味との出会いだ、ツーリングという。)
「喜んでくれて素直に嬉しいよ」
興奮気味の籠屋景の言葉をよそに、渡辺渉は爽やかに言葉を出す。
「俺は・・・・」
籠屋は言葉を続けていた。


そして、一週間後。
俺は、教習所にいる。
何でこうなった。
それは、時間を一時間。
違う。
一日。
嫌、違う。
じゃ、何日前に戻ればいいんだよ。
遡ること一週間前。

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