2 / 2
続・年齢詐称は然したる問題じゃない
しおりを挟むあいつが帰ってきて、真実を話しパスポートを見せろ、と迫った翌日、娘と姿を消した。 僕も部屋を引き払った。 探れば居所が判明したろうが、追わなかった。
頭を冷やし、切り替えたくて、別の全く違う環境下の、携帯に電波も届かないってほどド田舎に、まんま言ってしまえば、逃げた。
電波が繋がると電話やメールが届くから(そして何度も連絡が来ていた)あの女のいる街に戻ってしまいそうで。 だから、その手の物から逃げたかった。
山の中に移り住んで、数少ないが職もそこで探して、以前同様に他人と関わらず。 することと云えば部屋で独り思いつく事象を思索すること。 それを文字にすること。 出来る限り理路整然と。
どう足掻いても、恨みつらみの泥ドロした思いしか浮かばないのだが、それでもこれ迄を想起し、これからを考えあぐねる種に成らないだろうか、と。
度々呼び起こしてしまうのは、無いことになってしまったが、いつか持つはずの家族。 二人でかの国に移り住む計画。 新たな祖国での新たな抱負。
どれもこれも彼女が彼女であったからこそ、僕に与えられた夢。
未だ棄てられない。 捨て去ることは、彼女に会う以前の自分に戻ることで、今迄が無に帰する。 そんな畏怖の念を抱いてしまって。
だから彼女に追い縋ってたし、この魅力からは逃げ出せなかった。 逃げ出すことに腰が引けてた、かな。
須要にして街に出た夜。 携帯にメールが。
「会いたい。夫から逃げ出したい」と入った。 否、受信していなくて溜まった中の一つ。 目にしたのが最後、脳裏に焼き付いたのが、助けを求めたこの一文だった。
懐かしい番号を表示し、胸が高鳴る。
僕は通話ボタンを押してしまう。
「あなた……ダレ?」まどろっこい応答だ。
「僕と分かってるだろ。 傍に家族が居るのか?」
「……」
「メールを読んだ。 今から助けに行く。」
「いまから? 困る。 来ないで、来ないでください。 プッ ツー ツー ツー ツー …………」
程なく彼女から、打ち立てホカホカのメールが届いた。
『助けてと言ったとき、あなたは来なかった。いま夫も怒ってた娘も落ちついた。いま家庭を大事にしたい思う。私いいとしになった。すぐおばあちゃんになる。あなたは、ほかの人をみつけてください。ぜったいに来ないでください。』
「約二年間ずっと騙してきて、これで納得しろと?」
声を聞いて、メールを読んで、思い出し胸が締めつけられるこの想いは、実年齢を知って今も変わらない。 婆さんになってもお前に変わりはない。 代わりもいないのに他を当たれだと!
たったコレっぽっちで収まるわけがなく、僕は多少、事を起こした。 それは何も良い方へは向かなかった。 だがしかし、それも過ぎ去ってしまえば単にイタい過去だ。
それ以降も僕は、山で隠遁生活を送っている。
学生の身で行きずりの女と同居し、怠惰で学校を辞め、挙句あげく勢いで部屋を引き払い、始末して残った金を握り何処ぞへか立ち去った事を、大家から報告を受け。 更にはその女には夫と、歳が自分と同じくらいの娘がいる、と僕を問い詰め白状させ。 挙句には、そちら様と同年輩の主婦だから追い回さないでくれと、この夫から直訴があった(警察へも届け出たそうな)のが決まり手となり。
例の部屋の敷金を出してくれたのが継母で、その継母と折合いが悪く、これ迄も自ら敷居を高くしてきたが、それでも気分が良い時か心身が弱った折には、帰郷した生家だったのだが、全てを知って後今も怒り心頭の父の元にはもう、戻れない。
どこもかしこも『金の切れ目が縁の切れ目』って事だろう。 “血縁” より “一宿一飯の恩義” より “長い物には巻かれろ” ってもんだ。
総じて『万事塞翁が馬』そう思える様に成った。
今頃は彼女、還暦を迎える歳だろうか、と__。
しかし腰を落ちつければ此処も良いものだ。
流石に昨今は、こんな所まで電波はすんなり入ってくる。 そして今更ながら、方々ほうぼうのサイトをつらつらと流し見ていたりする。 そして追い求めてもいたりする――
――下記のような女性を探しています。
容姿は麗しいに越したことはないですが、それなりの魅力をお持ちならば良し。
条件として特記しますのは、海外国籍 or トライリンガルで、今後海外移住も考慮する方。 手に職または特殊な免状をお持ちなら尚更に良し。
年齢詐称……元もとい、
歳の差、年代幅は問いません!
この様な女性の方、
僕と新たな夢を紡つむいでみませんか?――
僕にとって、年齢詐称は然さしたる問題じゃない!
0
お気に入りに追加
2
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる