いつかの笑い話に

深澤雅海

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 優しく重なるだけのキスがついばむようなものになり、舌が入り深いキスになるまでそれほど時間はかからなかった。
 ざらざらした舌を擦りあい、絡ませあい、息が乱れる。
 気持ちが良くて止める気になれない。離れないように両手で隊長の肩を掴んでしまった。
 どちらの吐息なのか、どちらの唾液なのか分からなくなり、その気持ちよさにうっとりしていると唇が離れた。

「昨日は全く君に触れなかった……触らせてくれないか?」
「さわっ!? あっ」
 動揺している間に首筋にキスされた。
 肌を食むように下に下がり、シャツの隙間から鎖骨の形を確かめるように舌でなぞる。

「んっ……たいちょ、誰か来たら……っ」
「獣人が女を追って来たというのに、覗きに来る奴はいない」
 言いながらシャツのボタンを流れるように外されて、肌が空気に触れる。
 鎖骨を舐めながら肌着の上から両胸を掬うように揉まれる。
「んん……っ」
 隊長の舌が鎖骨から胸へと滑る。
 肌着の上から胸の先端を口に含まれ、快感で体が震える。
「ぁあんっ」
「可愛い声だ。もっと聞かせてくれ」
 声が勝手に出て両膝を自然とすり合わせてしまう。

 胸の先端を舌で弄られながら、スカートが下着ごと脱がされる。
 何も抵抗できないうちに、濡れた蜜口を指で撫でられた。
「ゃあっ」
 蜜を指に絡ませるように蜜口の浅いところをかき混ぜられる。
「た、たいちょぉ……っんあっ」
 片手で蜜口を混ぜながら、もう片方の手で肌着をまくられ、直接胸の先端を舐められた。
「あっ……あぁんぅっ……たいっ……ちょっ」
 口に含まれて舌で転がされ、腰が跳ねる。
 その瞬間に隊長の指が奥まで入り、ぷちゅりと水音がした。

 胸の先端を舌で弄られながら、中を指でかき混ぜられる。
 私は気持ちが良くて喘ぎながら体をくねらせた。
「ひゃっ!」
 ある部分を押されてびくりと体が跳ねる。
 隊長は私の胸の先端を吸いながらその部分を何度も撫でた。
「たっい、ちょ……っああっ……あぁんっ……っあ」
 どんどん蜜があふれているのが分かる。
 恥ずかしくて私は両手で顔を覆った。手のひらにかかる自分の息が熱い。それもまた恥ずかしかった。
 隊長はそんな私には構わずに、胸と中を攻め続ける。
「ああああっ!」
 感じる部分を強く押されて、私は達してしまった。

 隊長が胸から顔を離して私を見下ろした。
 私ははぁはぁと息を荒げながら見上げる。
「たいちょ……」
 そっと足を広げられた。
「昨日とは逆に、今日は俺に君を気持ちよくさせてくれ」
 蜜口に、熱いものがくちゅ、と当てられる。
 腰を引き寄せられて先端がめり込む。
 それだけで、昨日の感触を思い出して、体が隊長を欲しがった。
 ゆっくりと挿れられるのをもどかしく感じてしまう。

「……っブランカさん……はぁ」
 その息遣いだけで隊長も気持ちいいのだと分かった。
 ……嬉しい。
 見つめられながら、奥まで挿れられる。
 隊長でいっぱいになっていると思うと嬉しくて中がきゅっと締まる。
「隊長……っ」
 抱きしめてほしくて両手を伸ばすと、優しく笑って抱きしめてくれる。
「ブランカさん……好きだ」
 キスされると幸せな気分になる。
「私も、好きです……んあっ!」
 ずん、と奥を突かれて甘い声が出た。
「気持ちいいか? 今日はただ、感じてくれ」
「あっ……ああっ……やっ……あぁんっ」
 ずん、ずんと繰り返し突かれる。
 隊長の腰に巻いていたタオルが、はらりと私のお腹の上に落ちた。

 昨日は私が動いていたけれど、今日はきゅっと抱きしめられて身動きが取れない。
 お互いの息がかかる距離で見つめあい、繰り返し中を突かれる。
 蜜壺だけではなく、私の全てが隊長で埋め尽くされる。
「たいちょ……ラーン隊長っ……あんっはぁんっ」
「ブランカ、さん、はぁ、はぁ、ああ……っ」
 段々動きが速くなる。激しく打ち付けられて、私は隊長にしがみついた。
「あんっあんっ気持ちっいいったいちょっラーンったいちょっあぁっあんっ」
「ブランカ、さんっ、一緒に、イこうっはっ、はぁっ」
 肌と肌が擦れ合い、息が重なる。
 自然と唇が重なって舌を絡め合う。
 ぱちゅんぱちゅんと腰を打ち付けられる音に、くちゅくちゅと舌が絡み合う音。
 恥ずかしいと思っていたはずなのに、もっともっとと、ずっとこうしていたいと思った。

「ブランカさんっ」
「んぁあああっ!」
 一緒に達した。
 それは昨日と同じことなのに、比べ物にならないくらい満たされた気持ちだった。
 
 隊長はすぐには抜かず、うっとりとした顔で私の頬にキスをした。
「……君には悪いが」
「んんっ!」
 達したはずなのに、隊長のものはまた硬くなっていた。
「獣人は一、二回じゃ満足できない」
「え、隊長、んぁっ!」
「優しくする……」
 ちゅっと音を立ててキスされ、再び律動が始まった。

「ま、あんっ、待って、ぁっ、たい、ちょっ、んっ」
「名前を、呼んで、くれ」
「あっ、ああっラーン、たいちょ、待って、待って」
「君は、昨日、待って、くれなかった、だろ?」
「やぁ、ああっ、やぁあんっ」
 うっとりとした顔で何度もぱちゅんぱちゅんと繰り返し突かれる。
 昨日のことを言われると言い返せない。
 でも、昨日のこともあり、逃げるように旅をしてきたこともあり、私の体力は限界が近かった。
 一、二回じゃ満足できないって……
 あと、何回……?
 快感で目が回る。
 このままじゃ、喘ぐことすら苦しくなってしまう。
 まって、と繰り返しても、隊長は止まってくれなかった。

「ブランカさん、ブランカ……」
 うっとりとした顔で私の名前を呼ぶ隊長の顔を見ながら、私は意識を手放した。



*****


 目を覚ますと、隊長に抱きしめられた状態でベッドに寝ていた。
 二人とも服は着ていないけれど毛布が掛けられている。
 隊長を見ると目が合った。
「隊長」
「無理をさせてしまった、すまない」
 すまないで済むものではないけれど、抱きしめられた体温がとても気持ちが良くて私は笑った。

「君のことになると、俺は選択を間違えるようだ……」
「……昨日のことを言っているんですか?」
 昨日は私が隊長の意志を無視して強引にことを進めていたから、隊長に悪いところはない。

「もっと前だ。前から君に惹かれていたし、あの、毛布の匂いを嗅いでいるのを見られた時に、ちゃんと言っておくべきだった」
「匂いを嗅いでいた?」
「君が抱きしめて持ってきた毛布に君の匂いが移っていたんだ」
「!!」
 毛布の柔らかさにもふもふしているのかと思ったけど違ったんだ!
 顔が真っ赤になるのが分かる。
 隊長は優しく笑って私の額にキスをした。

「ブランカさん、俺の番になってくれないか」
「番?」
「人間でいう……妻、だな。これからずっと一緒にいてほしい」
 それはつまり……でも。
「でも私、母の看病のために故郷に戻るんです。一緒に暮らすのは難しいです」

 私は母の体調が悪化したこと、看病のために故郷に帰ること、隊長とは一緒に暮らせないから、二度と会えないと思ったから昨日あんなことをしたのだと話した。

「確かに俺はこちらで暮らすことはできないが……君の母上を連れて行くことはできないのか」
「母の体調じゃ長時間の移動は難しいです……」
 隣の村まで移動するのすら難しいのに、馬車でここまで来て、ここから船に乗って、さらに馬車に乗って山を越えるというのは無理だ。

「では、俺の友人に頼んで、空で運んでもらうのはどうだろう」
「空?」
「ホンニュ国には住んでいないが、友人に鳥獣人がいる」
「鳥!?」
「俺の国では人をかごに乗せて空を飛ぶ交通手段もある。何も問題はない。多少は怖いかもしれないが」
「空を、飛ぶ……」

 子供の頃、鳥のように空を飛んでみたいと思ったことはあるけれど、実際に飛ぶことなんて考えたこともない。
 私はぽかんと口を開けて隊長を見た。

「君のためにできることなら何でもする。俺の番になってくれ。大切にする」
「隊長……」
「もちろん、君だけではなく君の母上も、友人も、すべて大切にしたいと思っている。駄目か?」
 毛布の中で抱きしめられて、じっと見つめられる。
 いつもはピンと立っている隊長の耳が、今は倒れて不安そうに見えた。

「私も、隊長と一緒にいたいです。その、よろしくお願いします」
「ブランカさん! ありがとう!」
「んぐっ、たいちょ、、くるし」
「す、すまない!」
 ぱっとすぐ解放された後、そっと体を寄せられる。
「我々はお互い、色々話をするべきだと思う」
「はい……私もそう思います。今まで話さなかった分も」
「そうだな、どこから話そうか」
「どこからでも……ううん、最初から」

 これからずっと一緒にいるなら、時間はたくさんある。

「ずっと最初から話していきましょう。隊長のことならなんでも知りたいです」

 隊長は優しく笑って、私の頬をそっと撫でた。
 毛布からぴょこんと出た尻尾が、ぶんぶん元気よく揺れていてちょっと笑ってしまった。

「隊長、あの、昨日はすみませんでした。隊長が私を好きでいてくれたとしても、ひどいことをしたと反省してます」
 こうして両想いになれたとしても、罪悪感は残っていた。
 ぶんぶん揺れていた尻尾がぴたりと止まる。
 毛布の中で、足を絡ませて引き寄せられる。

「大丈夫だ。これからずっと一緒なら、きっといつか笑い話になる」

 そう言って楽しそうに笑った。

 私は嬉しくて、力いっぱい隊長を抱きしめた。
 私に尻尾があったら、きっとはち切れそうなくらい揺らしていただろう。
 
 罪悪感がなくなったわけじゃない。
 それでも、ラーン隊長の言うように、いつかの笑い話にできる。
 そう、予感していた。



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