病み病みぴんくめろめろピース

COCOmi

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○○○○○
結局ヒコたんの家に泊まった俺だったが、昨日に比べ、だいぶ落ち着きを取り戻していた。

「ヒコたん、幸に会いたいんだ」

ヒコたんは俺のその一言に酷く渋った顔をした。

「それはあまり呑めた要求じゃないな」
「どうして…!」
「裕里を傷つけた幸と会わせられるわけないだろう。それに幸もあんな状態だったんだ。会わせられる状態かどうかわからない」
「…ッ、そうだけどっ」

そう食い下がろうとしてもヒコたんは頑なに「だめだ」と言った。ヒコたんはこういうふうになってしまうと、頑固になって引き下がらない。それでも、俺は必死に懇願する。

「ヒコたん、お願い。これは俺と幸の問題なんだ。いつもみたいにヒコたんに頼ってばっかりじゃダメなの。このままなかったことにするなんてダメなの。だからお願い。幸の顔を見るだけでもいいから、幸のところに連れて行って!」
「裕里…」

ヒコたんは驚いた顔していたが、じっと顔を見つめると、しばらくして小さくため息をついた。
「それは今すぐじゃないとダメなのか?」
「うん」
「……。…わかった。一旦、幸に聞いてみる。ただあの幸の様子だとまだ混乱していて、まともに話せないかもしれない。だから、長く話すことはできないぞ」
「っ!いい、いいよ!それでもいいよ!幸の顔を見るだけでもいいんだ、ありがとう、ヒコたん…!」

まさかヒコたんが俺の話を受け入れてくれるとは思わなかった。
それでも、幸に会えるのは嬉しくて。怖さがないというわけじゃない。だが、真相をはっきりさせないといけないと思った。





それから、ヒコたんは幸に連絡をとってくれ、夕方に幸のいる病院へ向かうことになった。


幸と会うのは、病室ではなく、病院についている庭園になった。正直どうして病室でなかったのか疑問に思ったが、そこの庭園は閑散としていてあまり一目につかないらしい。幸は一目に触れて大事にしたくなかったらしい。

病院の庭園はすっかり木々も枯れて、枝ばかりになっていた。幸が運ばれた病院は大病院で、人気も多かったが、この庭園は言っていたとおりとても静かだった。


「裕里、幸がきたぞ」

ヒコたんがそっと耳元で囁いた。

幸はこちらに近づいてくる。
幸の首や手足、耳周りには大きく包帯を巻かれていて、大惨事な見た目ではあったが、落ち着いているようには見え、足取りもしっかりとしていた。

「幸…」
「どうして本当にくるんだよ…」

幸は俺の気持ちとは裏腹に、泣きそうに顔を歪める。そのことに、俺は昨夜あった出来事がやはり夢ではなかったと脳みそが冷えた。

「ここまで来てもらって申し訳ないけど、俺はもうアンタには会いたくない。もうアンタとは一緒にいられない」
「幸っ…、会いたくないなんて、なんで!俺、何かしたっ…?昨日のことだって、きっと誤解してるんだよ!だから、ねえっ…!言ってよ!理由を教えてよ!!」

幸は舌打ちするように顔をしかめて俯いたが、じろりと目だけこちらを見た。

「…昨日も言った通り、俺は雅彦が嫌いなんだよ。劣等感を感じるほどに。その雅彦に惚れ込んでたアンタが俺のものになったことで、俺は雅彦よりも上なんだって勘違いしたかったんだよ。雅彦じゃなくて俺を選んだって思いたくてね。俺の優越感のために、アンタを使ったんだよ。だから、雅彦と俺の知らないところで繋がっていることに腹が立ったし、焦ったし、すごくムカついて、自分もアンタも傷つけた。これが理由。もう俺はアンタと一緒にいたくない。アンタ見てるとさ、自分のことが惨めになるから」

幸はそう少し嘲笑うように言った。昨日は狂ったように怒鳴り散らかしていたのに、今の幸は気味が悪いほど静かに、諦めた目でこちらを見ている。
やだよ、そんな目で見ないでよ。どうしてどうでもいいみたいな目で見るんだよ…!

「そんなの、俺は、幸のこと悪いなんて思ってない!俺のほうがずっと幸に酷いことしてきた。でも、幸は支え続けてくれたんじゃん!励ましてくれてそばにいてくれて。あれは全部嘘だったの!?…いや、嘘でもいい。俺はそれでもいいよ。幸の優越感のために俺を使ってもくれてもいい…!俺のこと気が済むまで使ってくれていいから…!」

幸と一緒にいれるなら。幸との仲を戻せるなら。もうどんな形でもいいや。
そう思って思わず口に出した言葉に、ヒコたんが血相を変えて怒鳴った。

「裕里!何言ってる!そんなのダメだ!お前はまたそうやって昔みたいに自分の身を削ろうとするのかっ!!」

ヒコたんはそう言って取り乱したように俺の前に飛び込んできて、俺の腕を硬く掴む。

「やめてっ、ヒコたん!俺はいいんだよ!」
「良くない!バカなことを言うな!そんなこと言わせるためにお前を幸に会わせたわけじゃない!」
「やだっ!ヒコたんっ!放して!」

必死にヒコたんの腕を剥がそうとするが、それどころか反動を使って体を抱きしめられてしまう。暴れるがヒコたんは一向に離れない。
それでも俺は放してと叫ぼうとしたところで、幸が声を張り上げた。

「もうこんなのはやめろよッ!おれは…、俺は……もうアンタの顔を見たくないんだよっ…
!!」

その言葉にガンッと目の前が真っ暗になった。さっきまで暴れていたのに、俺の体は急に動かなくなる。

「裕里っ」

思わず力が抜けてしまった俺を急いでヒコたんが抱き止める。

「なんで…っ?なんで、だって、俺は…」

肩を震わせながら、手を幸の方へ伸ばす。幸に触れたくて、縋りつきたくて、手をのばした。


しかし、その手はヒコたんの手によって阻まれる。

「裕里は俺と付き合う。もうお前にも会わせないように、俺が一生こいつを守っていく」
「ヒコたん、何言ってっ…」

そんな勝手なことと、思っている間にヒコたんは俺の顎を掬い取り、無理矢理唇を重ねた。
強引に強く押し付けられ、身動きすらできない。
ヒコたんらしくない無理矢理のキスに戸惑いながら抵抗する。
しかし、幸はその様子を顔を真っ青にして見ていて。
目から涙をいっきに溢れ出させるとその場から走り出してしまう。

(幸…っ!)

今すぐにでも幸のもとへ走り出したかったが、ヒコたんの力は強くて逃げ出すことはできない。

なんとかして、ヒコたんから唇を離した。


「ッ、ヒコたんなんであんなことしたの!こんなんじゃ、幸にっ」
「裕里落ち着け。言っただろ。幸がまともな判断ができなくなったら話を止めると。お前まで変な気を起こしていた。話し合いなんて無理だ!」
「でも、だからって、急に、あんなこと…っ!」
「落ち着けッ、裕里!」

ぐっと肩をつかまれ、ヒコたんの顔が思いっきり視界に入ってくる。ヒコたんの焦ったような目と、強く掴まれた肩が痛い。

「これは幸にも頼まれたんだ。幸がゆりと別れるために」

俺は言葉を失った。
どういうこと…?

「幸はもう無理だったんだ。お前が幸に会って話をしたいと言う旨を伝えても、もう幸にはそんな気持ちはなかったんだ。お前と顔も会わせたくない、お前といると心が苦しくなって、自分が嫌いな自分になって、自傷行為が止まらなくて、もう耐えられないんだ、と。実はお前に会うのも幸の精神状態ではギリギリだったんだ。だがな、幸はお前に会う代わりに条件を出した。裕里のためにも、はっきりお前と決別したいと」


「そんな…っ、そんなのっ、納得できないっ!」

あまりにも一方的すぎる。どうしてこんなことになったんだ。俺は初めから幸と仲違いさせられるために会わせられたのか。自分勝手すぎる。俺の気持ちはどうなるんだ。そんな、でも、でも……。
もうこの時の俺は自分の気持ちで頭いっぱいいっぱいになってしまっていて、物事を冷静に考えることはできなかった。

「ヒコたん、携帯かして」
「裕里、お前、何言って…」

ヒコたんの右ポケットに入っているスマホを無理やり取り出す。ヒコたんのスマホはいつもこの位置に入っていて、スマホはパスワードロックすらかかっていない。全部俺がヒコたんのことを追いかけてきて知り尽くしていた知識だった。
連絡帳を開き、真っ先に幸に電話をかける。
コール音は鳴るが、電話には出ない。


「出てよ、出てよ、幸…っ」
「裕里!もうやめろ!裕里っ!」

ヒコたんの携帯だとか、もう着信拒否されているかもしれないとか、そんなことが頭に浮かばないくらい無我夢中でかける。幸の声がもう一度聞きたかった。
十何回かかけた時だった。

「………」

繋がった!
俺は耳に携帯を押し当てる。

「幸…っ!俺、まだ、俺…っ!!」

「ははっ、相変わらずしつこいね。思わず出ちゃったよ。でもさ、………もう俺のことは忘れてよ」

その消え入りそうな声ともに、電話は勝手に切られてしまった。

「幸っ…!幸っ…!!」

携帯からは幸の返事は返ってこない。ヒコたんが携帯を取り上げた。ヒコたんが何か言っているが、耳に何か水が入ったように、ぐわんぐわんと音が錯乱して、うまく聞き取れない。
ヒコたんが俺を抱き抱えてどこかに連れて行こうとする。そのときに、もう一度携帯の画面が見えた。

通話終了。
その画面を見たとき、これで本当に終わってしまったんだと、俺は絶望した。



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