病み病みぴんくめろめろピース

COCOmi

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○○○○○

今日もいつも通りだ。
幸のことだって何ら変わりない。涙を流し、怪しむことを洗い流せば全て元に戻った。
幸との関係はいつものようには簡単に壊れなかった。むしろ強固になったとさえ思う。
もうお互い嘘をつかないようにしよう、そう誓い合ったほどだ。

俺だって幸を裏切らないし、幸も俺に裏切らない、そう誓ってくれた。
俺たちはこのまま前に進むべきだ。

そう思って、昨日と同じように放課後のチャイムが鳴ると同時に教室を出た時だった。


「裕里、待ってくれ…っ!」


まさかと思った。
俺はまだ彼に囚われているのか、これは幻聴が聞こえているんじゃないのか…そう思った。そんなはずがない。俺はもういらないはずだ。そう思って何も見ずに前に進もうとする。
だが、そんなことも邪魔するかのように肩を掴まれた。

「裕里っ…!」

勢いよく振り返させられれば、ヒコたんの泣きそうな顔がそこにあった。
胸の奥がぎゅっと絞られる感じがして、心臓がバクバクと跳ね上がる。

(…ああ、駄目だ……。俺はまだヒコたんのことを諦められていない……)

ヒコたんの顔を見ただけですぐに心が揺さぶられてしまった。それはどんな感情であったとしても、俺は自覚せずにはいられなかった。そんな気持ちを認めたくなくて、俺はヒコたんから目線を思わず逸らした。

「な、何の用…です…か」

どもって、小さくか弱い声になる。これ以上関わるとまた引きずられるのは自分でもわかってる。それに幸から聞いたヒコたんの酷い行いに俺も許さずにはいられなかった。俺はヒコたんの『優しさ』という甘さにまんまと依存してしまったのだと思う。一旦目覚めたのだ。俺がまたそこに依存して、元に戻ってしまうのはどうしても避けたかった。


「……」

俺はヒコたんに相変わらず目線を合わせない。合わせたらダメだ、同情していると思われる。…そして今ここで目を合わせる度胸がないだけだが。

無言の時間が続く。

ヒコたんは気まずい空気が流れてるのにもかかわらず俺の肩を掴んだままで、この場から逃してくれるような雰囲気はない。どうしてだ。ヒコたんの真っ直ぐな視線を感じるが、俺は必死に顔を下げてヒコたんと関わりたくないと言う態度を示した。 


(これが互いにとっても良いはずなんだ)

そう思って暫く下を俯いていると、突然ヒコたんの体が大きく動いた。

「すまなかった…っ!!」
「…!」

俺はその光景に驚くしかなかった。
顔を逸らしていた俺の目の端にも映るぐらい、ヒコたんは深々と頭を下げていたのだ。

(な…なんで頭下げているの!?)

急にそんな様子を見せられたら、俺の頭はもちろんパニック状態に陥るしかない。

「え、は、な、なに、えっ、どういう…ひ、ヒコたんどうしちゃったの…っ」
「すまなかった。謝りたいんだ。勘違いとはいえ、裕里に酷い言葉を言った。全て駿喜から聞いたんだ。あれは事故だったんだ、と。お前が嫌がってたのに無理に押し付けてしまったと駿喜が謝っていた。俺はそれなのに、失望したなんて酷い言葉を……。すまなかった」

そう言ってヒコたんはまだ頭を下げたままだった。90度になるぐらいの深々とした辞儀に、俺は呆然とするしかない。

駿喜から聞いた…?あいつ何か言ったのか……?

ヒコたんの行動もだが、駿喜の行動にも意味不明で混乱する。確か、父も駿喜が何か言っていたと言っていた。そのおかげで俺には大きな罰はなかった。こうやって学校にも通えている。
でも意味がわからない。なんで俺を庇ったのか。アイツの考えてることが読めない。いや、駿喜もヒコたんも…。皆、何を考えてるのか一切わからない。

俺は混乱して、そのままその場から離れようと背を向ける。俺はまた何かとんでもないことに巻き込まれそうになっているんじゃないか。この平和ボケしてきた頭はそんな本能的な危機を感じ始める。逃げよう。
…だが、ヒコたんは地面に蹲り始めた。それは土下座をするように。

放課後とはいえ、何人か生徒もちらほらいる。

周りがざわざわとし始め、責め立てられるような感覚になる。
俺はこの感覚をデジャヴだと思った。
つまり、前にも経験している、と言うことだ。

ヒコたんが地面に手をつき始めたところで、俺は腕を掴んだ。

「ま、待って!は、話、聞くから…」

必死にそう言うと、ヒコたんはやっと顔を上げた。

俺はいつからこんなことに慣れてしまったんだろうか。俺の弱いところをまるで示されていたようだ。だけども、俺はそれを止められそうになかった。





人気のないところへ移動し、やっと落ち着いてヒコたんに向き合った。
ヒコたんは相変わらずキラキラと綺麗で、久々に見たからか、より眩しく見えた。

「裕里、ごめん…。俺はあのときお前に傷付ける言葉を言ったし、それよりも前からお前のことたくさん傷つけていた…。気づかなかったとしてもそれはやってはいけなかったことだ。すまなかった」

まるで軍人が敬礼するかのように、深々と頭を下げるヒコたん。それぐらいしっかりとした謝罪を行う。
何十秒という間頭を下げ、更に頭を上げても真剣な顔でヒコたんはこちらを見ていた。どうしてそんなこと。俺は戸惑ってしまう。

「今更そんなこと言われても…」

俺はどうすればいいかわからない。俺はヒコたんと絶縁することに決めたのだ。今はヒコたんの元恋人である幸のところにいさえいる。
ヒコたんにとって何も得がないし、俺如きどうせ『他の奴ら』と同じ目で見ているんだったら、俺はそんな絆いらない。もうヒコたんに縛られたくないのだ。

「ヒコたん…俺こそごめん…いろいろ付き纏って…でも俺もう、ヒコたんに迷惑かけないから…だから…」

もう俺とは関わらないでくれ。

そこまでははっきり言えなかった。どうしても心のぎりぎりで心臓を掴んで、ヒコたんから離れたくないと喚く奴がいるのだ。

『ヒコたんが好き、好きなの。ヒコたんは俺にとって神様なんだよ。ヒコたんが俺を救ってくれたんだ。ヒコたんがいないと俺は!』


それでも頭を振る。
もうそんな狂信的なことを言ってばかりじゃダメなんだ。

俺は意を決して言葉を吐き出していく。

「俺はヒコたんに何もしてあげられないし、これ以上迷惑も掛けたくない。ヒコたんは面倒くさくて嫌われ者の俺みたいなやつに優しくしてくれた。声をかけてくれた。一緒にいさせてくれた。俺はもうそれで十分だよ。もう十分ヒコたんに優しくしてもらった。だから、これ以上一緒にいてもだめなんだ」


嫌だ。嫌なんだ。もうこれ以上、勝手な思い上がりで感情を押し付けるのは、人生を依存してしまうのは。全て、ヒコたんが悪いわけじゃない。俺がヒコたんの優しさにつけこんだ罰でもあるんだ。ヒコたん自身をちゃんと見てなかったのも俺だ。俺だってダメだったんだ。

俺は、俺は自分のことを、ちゃんと見つめ直さなればならない。メンヘラだからって、ブスだからって、弱いからって、そんなので逃げて被害者面しててもダメなんだ。 
それは、ヒコたんと離れてずっと考えていたことでもあった。
自分が被害者面して守ってもらうんじゃない。自分が居たいと思った人、自分が愛したいと思った人といることが一番大切なんだ……だから俺はヒコたんとは……。


「裕里、俺はお前が好きだ」


心臓が止まった。
いや、時間が止まったのかもしれない。一斉に何の音も聞こえなくなる。

な……なにを、なにを、言った…?ひ、こたんは、な、にを…。


「俺、お前と離れていてわかったんだ。お前は俺に迷惑をかけたと言ったが、そうじゃない。俺自身もお前を求めていた。お前のことが好きなんだ。今までお前に迷惑をかけられたなんて一つも思ったことなんてない。むしろ俺のそばにいてくれたのは嬉しかったし、今こうやってお前が離れていくのは本当に耐えられなかった。俺はお前といる時間が大切なんだ。それに俺の方こそお前に酷いことをした。あの言葉だけじゃない、お前は優しいやつだからそうなんだろうとお前の気持ちに対して自分の考えを押し付けて、いつも勝手にわかったフリになっていたんだ。すまない。だからこそ、もっとお前のことが知りたいと思った。お前と一緒にいたいんだ」


(なに、何が起こってるの)

胸の奥どころじゃない、身体中が心臓と一緒になったみたいにドク、ドク、ドクと大きな脈動音を立てる。
息ができない。詰まる。喉奥が痛い。

『アイツがお前のことを特別に愛するはずがない』

『お前、アイツの恋人じゃねえのかよ』

『ヒコたんといても無駄なのにね』

『裕里、俺はお前が好きだ』

頭の中でいろんな言葉が飛び交う。
わからないわからないわからない、なにが、なにが起こって。


何かが手に触れた。
手を持ち上げられ、それはヒコたんの手に包まれていた。

「裕里、お前が好きだ。恋愛感情として」

身体中に熱が駆け巡った。
顔も手も足も全部真っ赤になっていると思う。あれだけヒコたんのこと嫌いだ、信じられないと思っていたのに。
ヒコたんに見つめられれば全てどうでも良くなる。

好きだ、好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き!!!!!
好きすぎておかしくなりそうなの、ヒコたんっ!!!


蓋をしていた感情が湧き上がってきて、あふれでようとしてくる。息が荒くなり、全身の血が沸騰しそうだ。
しかし、咄嗟に腕をキツくつねる。
急激な痛みに正常な判断が戻ってくる。

(ッ…!だめだ、だめだ、だめだ!俺には、俺には、まだ、幸が。幸がいるから…!)

俺の暴走しかけた心を繋ぎ止めるのも、俺を守ってくれたのも、全て幸だった。幸のことは裏切れない。そう思って、俺はキューッと喉が締まりながらも声を絞り出した。


「っひ、ひこたん、お、俺その、まだ気持ちの整理とかっ!つかなくてっ…!その、気持ちに、こたえること、とかはっ…」
「もちろんそうだよな。俺もこんな突然にいうことは間違ってると思う。なんなら、俺は裕里に嫌われているだろうしな」
「えッ!?そんなことないっ!!」

待て、そんなことないのかっ?!

咄嗟に否定した自分に、自分でも思わず吃驚してしまう。なんて言ったって自分の口が勝手に開いて宣言していた。
それは反射的なものなのか、自分の本音なのかわからないが、ヒコたんは俺の言葉に張り詰めていた緊張を解いていく。


「やっぱり裕里は優しいな…。もちろん急にそんなこと言われたって俺も無理だと思っている。だから恋人になって欲しいとまでは思わない。ただ俺がお前のこと好きだということを知って欲しいんだ」

そう爽やかに微笑まれてしまえば、もう俺は唾を飲み込む動作しかできなかった。

俺にはこれが夢としか思えない。
それでも手から感じる暖かさや、そのまま吸い込まれるように抱きしめられた全身の太陽のような香りや、耳に熱く触れた息遣いや全てが俺の気持ちを昂らせる。
すきだ、ヒコたん、俺やっぱり、好き。


あまりにも単純な俺の心はヒコたんのことなんか一切忘れることなんかできていなかったのだ。一言で頭が狂うぐらいにも。
それでも、一本の糸が俺を繋ぎ止めてくれている、俺はそれを離したくない。


「と、友達、からなら…」
「そうだな、友達からまたやり直そう。改めて、友達としてよろしくな、裕里」

掴んでいた手にヒコたんの手が差し込まれ、握手する。
ヒコたんの眩しい笑顔に俺は、背中の陰がまた濃くなったことを知らなかった。


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