病み病みぴんくめろめろピース

COCOmi

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○○○○○○○


次の日の朝。
結局あのまま風呂に2人で入って、変なテンションでそのまま寝た。眠れたかと言うと十分には寝られなかったが、目を瞑ってやり過ごすしかないと思って無理やり寝た。
そして、今日の朝、気まずい空気になるかと思いきや幸はまたいつも通りに戻っていて寝起きから俺を蹴り上げていた。

学校に行くのはどうしても気が引けてしまうのだが、幸はせめて高卒だけでもなっとけと言うからしぶしぶ学校へ向かう。せめて出席の単位だけでももらう必要があった。いつも通り口うるさく幸に言われながら学校へ向かえば、昨日のことはただの夢じゃなかったのかと思うほどほとんど現実味がなくなっていた。
 


今日も学校で大人しく過ごす。俺が騒がなければ何も真新しいことなんて起きない。そんなことに改めて気付かされる。ヒコたんと絡まなくなり大人しくなった俺に誰も干渉してこないからほぼ空気のようなものだ。駿喜だってまだ学校に来られないし、ヒコたんに振り回されて苛立ったり悩んだりすることだってなくなって、穏やかすぎる日々を過ごしていた。
そして今日も何事もなく帰るところだったのだが。
進路調査、と書かれた紙に吐き気が出る。HRで配られ、明後日までに提出しろってことらしい。
めんどくさい、出したくねえ~と思うが、提出は絶対らしく、保護者印も必要らしい。余計出したくねえ~…。

保護者のコメントがないのがまだラッキーで、わざわざ親に言わなくてもいいし、勝手に印鑑押して出してしまえばいいのだ。あんなクソ親にいちいち連絡してブチ切れられても面倒くさいし、バレなきゃいいだけだから、勝手にハン押して出してしまおう。しかし、その肝心の印鑑は幸の家に持っていない。もちろんそのまま飛び出したわけだからそんなもの必要だと思ってなかったのだ。これはどうやら帰りに自分の家に帰らなければならないみたいだ…。

(やっぱり出さないとダメ~…?)

もう家に帰りたくなくて帰りたくなくて深々とため息をつくが、心の中に住む幸が「大切な提出物なんだから、ちゃんとそれぐらいは出しとけ!」ってプリプリと怒ってくる。

……。…しょうがない、久々に家に取りに帰るか…。

幸が「そうだ!そうだ!」と言ってきたため、心の中に住んでる幸の額にデコピンをかましてやった。あーあ、可愛くない!でも幸が言うから仕方ないか。

俺はヒコたんの群れなんか気にせず、さっさと学校から離れ、約2週間以上ぶりになる実家へ向かった。





鍵を忘れてないか不安だったが、ジャラジャラついたチェーンから無くなっておらず、すぐ見つかった。鍵を開けて中へ入る。
幸の家に入り浸ってたせいか、幸の家と違って自分の家は真っ暗で、何の気配もない。これほど暗くて静かなものだったか、と思わず思い耽てしまう。


「…いやいや、さっさと帰ろ」

こんなところにじっと縮こまってるとまた部屋から出られなくなる気がする。俺はリビングに向かい、筆記用具などをしまっていた棚から印鑑を見つけ出した。
最短距離で印鑑をゲットし、さっさと玄関へと向かう。

窓から外を見れば日差しが落ちかけており、幸の家に着く頃には暗くなってそうだ。俺は再度カーテンをきちんと締め直して、玄関へ向かった。

忘れ物がないことを確認すると、靴を履いて家を出る。
何も考えずドアを開けた途端、「あ!」と大きな声が突然聞こえてきて、頭が真っ白になった。


「ゆり!おかえり~!」
「は……なんで……」

ドアを開けた先にはにこりと不気味に笑う聖がいた。
なんでここにいるんだよ。
まるで待ち伏せしていたかのようなタイミングの良さに体が強張る。
一方で俺のそんな様子お構いなしに聖はすごく嬉しそうに俺に近づいてきて、突然体を抱き締めてくる。

「おかえり~!寂しかったよ、ゆり~!」
「っ…やめろ!!!てか!お前なんでここにいるんだよ!」
「え?ゆりの帰り待ってたんだよ?」

聖は相変わらず綺麗な顔をニッコリとさせた。
は?意味わからないんだけど。自分の家でもないのにおかえりーなんで出迎えるこいつに悪寒がする。

「お前…っ」
「…それにしても、ヒコたんと別れたらしいね」

いい加減にしろ、と口を開こうとした時、聖が口角を不気味に上げそう言い放った。俺の言葉を失わせるには十分すぎる言葉だった。


「は…?」
「よかったね!やっとせいせいする~!」

聖の言葉に噛みつこうとしていた気がそがれてしまう。一方で、聖はまるでおめでたいことかのようにパチパチと拍手する。
ケラケラと聖は笑った。

「いや、だってさ、ヒコたんゆりのこと全然好きじゃなかったじゃん?無事に玉砕できて本当によかったね!」

そう言って本当愉快そうに、嬉しそうに、笑う。

何言ってんの、何言ってんの、何言ってんの、何言ってんの……。

まだ塞がってもいない傷口を勝手にぐちゃぐちゃ荒さられた気分だった。俺がイラついてるのがわからないのか聖は満面の笑みでまた抱きしめてくる。

予想外の行動になされるがままになってしまう。

しかし、そうやって喜んでいたのも束の間、突然俺の腕をふり払ったかと思うと、逆に俺の首元を掴み上げて、笑みを無くした顔で俺の顔を覗き込んだ。


「…でもさ、ゆりってば、どうして馬鹿なの?なんであんなちっこい奴のとこに逃げるわけ?未練タラタラで面倒くさそーなトラウマ持ってて、あれ、いちいち比較してきてだるくなるよ?あーあ、なんですぐ俺のとこに来ないのかな。俺が一番依存させてあげるのにさ」

聖の突然の変貌に身体を引く。
しかし、腕をキツく掴まれて逃げられない。
ジッと俺を見てくる聖に冷や汗が出そうになるが、はたと手に持っていたバッグに気付き、急いでそれを聖に向かって振り回す。
しかし、聖はそれを避けても俺の手を離さなかった。

「っ…!おい、いい加減はなせよッ!気持ち悪いんだよ!」
「ダメ、ダメだよ。だってゆり、また気づかなかったんだもん。あいつが信頼するには十分じゃないやつなんだってば。俺が教えてあげないとまた同じこと繰り返してるしさ」
「は…っ?」

言ってる意味がわからない。次々に意味の分からないことを言われてもう頭がパンクしそうだ。宇宙語を話されてもこっちはわからねえよ!
話が見えない聖他の会話に思考を放棄しかけた時。
突然、聖は携帯の画面を見せてきた。いきなり顔の前にずいっと出され、見たくなくとも目に入る。

「見て。これが証拠。ゆりがあんな目にあってたのに、助けも呼ばないんだからさ。確信犯だよね?」

そうやって見せつけられたのは、見覚えのある後ろ姿と、その奥に俺と駿喜が揉み合いになってる写真。
手前の人間は壁か何かの後ろから見ている。そう、それは幸の姿が写っていた。

「お前っ…この写真なんだよ!」
「俺が撮ったやつじゃないよ。残念ながらその場にいなかったからね。でも、貰ったんだ。だってこれ、ヒコたんの従兄弟くんに間違いないでしょ?こんな派手なジャケット着るのは彼ぐらいだろうし、背の高さもピッタリ。こんな写真撮られるっていうことはあの場にいてたっていうことは事実じゃん?」

聖の言葉に何も言えない。
だってそうだ、これは幸に間違いない。着ていた服もあの日と一緒だ。でも、なんでこんな写真が…。

「ゆり、いい加減わかった?だからアイツは一緒にいてもダメだって。あの陽キャくんに襲われてたところを助けるどころか、遠くから見てたんだよ?この時助けてたらあんなことも起きなかったし、陽キャくんも怪我しなくてすんだだろうしさ。それなのに、そのことを反省しないどころか、ヒーロー気取りでゆりのこと助けるとか言って連れ出したんだよ?自分やることやってるくせに本当に最低な野郎だね」

聖の言葉に呆然とする。
まさか、幸がそんなことするはずがない。
それこそ、『たまたま』だったのかもしれない。こんなところにいたのも、写真を撮られたのも、全て偶然に過ぎなかったかもしれない。

それでも。
それでも、もし、これが事実だったら…。
もしわざと俺たちのことを見逃して放っていたのなら。
もし俺がヒコたんにあんな風に振られるのをわかっていたのなら……。


そう一回思うと、何もかもが嘘で塗り固められていたように感じてしまう。

また、俺は裏切られたのか?それともまた俺が勝手に自分の都合のいいように思い込んでしまっていたのか?それでも俺は幸はそんなことするはずないって思ってたのに。

…幸のこと信じてたのに。



足がガクガクと震え出す。やばい、ここで倒れたらまずい、と何処か冷静な自分が身体を必死に叱咤する。
それでも、体の震えは聖にバレてしまっているのか、聖は俺の体を抱き込み、耳元で囁いてくる。

「ね?ゆりはとっても可哀想。また騙されちゃったね?だから俺のところに来ればよかったのに。俺だったらゆりのことは裏切らないし、ゆりに依存するし、ゆりを俺に依存させてあげるのに。バカだね、ゆりは」

耳縁をちゅっとリップ音を立ててキスをされる。まるで恋人を甘やかすような行為に、背筋が凍り、気持ち悪さから鳥肌が浮き立つ。どうしてそんなことを言えるんだ。どうして俺をここまで追い詰めるんだ。どうして俺が欲しい答えを全部知ってるんだ。

なんだこれ。なんだこれ。なんだこれ…………いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ!

抱きしめられていた身体をなけなしの力でドンっと押し、無理矢理引き剥がす。
聖は抵抗してくるかと思ったが、わかっていたかのように案外あっさりと離れた。だがしかし、俺の腕を掴む手は離さないでいた。
逃げようとする俺の体をその手が引き止めてしまう。


「ゆり、わかったんだよね。君は俺の神様かと思っていたんだけど、ゆりは神様ほど完璧じゃない。なんなら間違えた方向に進んだりさえする。もしかしてゆりが神様だと思ってたのは俺の幻想だったのかもしれない。でもさ、気づいたんだよ。俺たちはそんな簡単に途切れるような絆じゃないって。むしろ、俺が思っていた逆のことだったかもしれないって」

もうこれ以上聖と関わりたくなくて顔を必死に逸らすが、伏せていた顔を無理矢理掴まれて、グッと聖の顔が寄る。

「…だからさ、俺決めたんだ」

「ヒッ…!」

自分の口から勝手に恐怖の声が上がった。

目を見開き、身体を縮こまらせ、怯えていた顔をしているのに、聖は俺なんかを見てないようにうっとりとした顔で笑う。
それは本当に惚れ惚れとするような笑みで。そうして言った。


「俺がゆりの神様になってあげる。俺が間違ってしまったゆりの全部を正してあげるよ!ゆりは俺の神様じゃない、俺がゆりの神様なんだ。俺だけがゆりの生きる標なんだよ!」


あはははははははははははははははははは!!!

歓喜に満ちた1人の笑い声が響き渡る。まるで言いたかったことを言えたような、まるで難解な問題が解けたような、まるでプロポーズが成功したかのような、そんな喜びに満ちた汚らしい笑い声だった。

「俺が四六時中ゆりのこと見ててあげるからねゆりの危険は俺が全部取り払って上がるゆりが寂しかったらセックスでも心中でもなんでもしてあげるよもし俺といたくないのならもちろんそれもいいよ俺は神様だからゆりには優しくしなきゃゆりが仲良くなりたいんだったらどんなビッチでもヤリチンでも許してあげるもし危険が及びそうになったら俺が守ってあげればいいもんね傷ついたら俺が可哀想なゆりを全部癒してあげる許してあげる責めてあげるこれ以上にないゆりの依存場所になってあげるよゆりは安心して俺に導かれればいい俺だけがゆりの神様だものだからねだからさだからだしだからこそ俺のことは裏切らないでね俺は神様なんだ神様はずっと信じなきゃいけないものだからね」


「ね、ゆり」

目の焦点が一気に聖の顔に集まる。もう何も考えられない。ただ、世界の誰よりも美しい聖の顔が俺に愛おしそうに微笑んでいることはわかる。

俺は目の前がパチパチと弾け出す。世界がどんどん一色に染まり、かとおもうと、新しく絵の具から垂らされたように色がベチャベチャと追加されていく。それはピンクと紫と黒と赤と白と黄色とオレンジと青と…………………。







気づけば俺は呆然と家の前で立ち尽くしていた。
聖はいつの間にかいなくなっていた。いた形跡すらなく。


いろんな考えなければならないことやわからないことがある。だけど、俺は今はどうしなければならないかもう決まっていた。既に決められていたように。

『まずは従兄弟くんのこと嫌いにならなきゃね』

そう頭の中で声がこだまする。



俺は……この真相を幸に聞かなければならなかった。

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