病み病みぴんくめろめろピース

COCOmi

文字の大きさ
上 下
34 / 51

30

しおりを挟む

俺は幸を教室に送ると、そのまま外へ出てきた。
幸はもともとチケットを持っていたため、店内を利用するが、俺は顔も見たくもないクラスメイトに接客されるなんて御免だ。
さっさと教室の外へ出てしまうと、相変わらずヒコたんは勧誘をしていた。

ヒコたん…寂しいけど、今は忙しそう…。

シュン…と自分ながら落ち込んでしまう。昔ならそのまま輪の中に特攻して言ってたが、最近はそういう行動を取るのも気後れするぐらい、ヒコたんに対してさまざまな感情を抱いてしまう。
ヒコたんにとって俺はそこら辺の1人…。そう思うと、ヒコたんから向けられる笑顔も辛くなるし、駿喜や幸のことで、自分は笑顔さえ向けてもらう資格が無いと自己嫌悪に陥る。

ヒコたんのそばにいて良いのか。

そんなことを、少しずつだが俺は迷い始めていた。


しかし、突然大きな声が響く。

「裕里!!待ってくれ!」
「ヒコたん…」

まさか、と思った。
教室を立ち去ろうとしていたときに、人を掻き分けヒコたんがこちらに駆け寄ってきた。ヒコたんは俺の前に立つと、相変わらずの笑顔で口を開いた。

「さっきは幸を連れて来てくれてありがとうな。俺が迎えに行こうと思ってたんだが忙しくて出られなくて…。幸にはこっちで知り合いがいなかったから裕里がいてくれて助かった。ありがとう」
「ううんううんっ、いいの!」 

俺は大したことないよと首を振る。幸を知り合いという部類に入れていいのか俺は正直わからないが、それでもヒコたんはありがとうともう一度感謝を述べてくれた。

ヒコたんはふと、俺がカバンを持って教室を出ようとしたことに気づいたようだ。


「?裕里、もう帰るのか?」
「あ…うん。もうシフト終わったし、やることもないから」
「そうなのか」

うん、と頷き、視線を下げる。
本当は初めてのヒコたんと文化祭だから一緒に楽しみたかった。それでも、俺にはもう誘う勇気すらなくて下に俯くしかなかった。


「裕里、もしよかったらなんだが…文化祭、一緒にまわるか?」
「え…?」

信じられない言葉に思わず顔を上げる。
ヒコたんは少し眉を下げて照れているような、それでも慈しむような瞳でこちらを見る。

「最近裕里といる機会が少なかったし、なんたまか元気もない気がする。せっかくの文化祭なんだ、裕里にも楽しい思い出作って欲しい」

そうニコリと微笑まれる。
ヒコたんが俺に気を遣ってくれたことも嬉しかったが、何より俺の変化に微かでも気づいていてくれたことが嬉しかった。
ヒコたんが俺を見ていてくれたことに、俺はヒコたんにとって無価値な人間じゃないんだと気持ちがふわりふわりと高上していく。

感極まって黙ってしまってる俺に、ヒコたんは不安そうに伺ってきた。

「どうだ?やっぱりやめとくか…?」
「ううん!回りたい!ヒコたんと一緒に文化祭回りたい!」

(嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい!)

もうその気持ちが胸の中でいっぱいでいっぱいで。
こんな気持ちは久々だった。
俺が一方的に好きだったヒコたんが、俺のことを誘ってくれた。その求められたということに、俺はまたヒコたんを好きになってもいいんだと自信がついていく。

俺は気持ちが溢れそうになって思わずガバッと目の前のヒコたんに飛び込んだ。

「ヒコたん、好き…好き…っ!」
「あはは、俺も好きだぞ裕里」

舞い上がりすぎて思わずヒコたんに抱き着いてしまったがヒコたんはしっかり俺のことを受け止め、抱きしめてくれる。ギュッと背中に回した腕で体全体を抱き締めると、ヒコたんもそれに応えるように抱きしめ返してくれた。その匂いや体温が心地良い。


俺の好きな人はヒコたんだけ。この好きな人と絶対離れたくない。


俺はヒコたんの気持ちをまだ諦めたくなかった。









ヒコたんとメイド服で回るのもなんだかな、という話になり、休憩をもらうついでにヒコたんは着替えに行くことにした。

「裕里、ここで待っててくれ。裕里の好きなスイーツ食べに行こうな」
「うん!待ってるね、ヒコたん~!!」

ブンブンと手を振れば、ヒコたんは美少女だけど男らしく手を振って教室の奥へと入って行った。


(やばい、やばい、やばい…!楽しみすぎて…!やばい…!!)

学校で青春というものに、引きこもりかつ不登校だった俺はそう言ったイベントに無縁だったため、こんなことでもテンションが爆上がりする。
教室の近くだと店の邪魔になるから、教室から少し離れたあまり人気のない場所で合理する事になった。
俺はヒコたんと何を見ようか、窓越しから校舎の外を眺めながらルンルンとヒコたんを待っていた。


「あ、ゆりちゃん、ここにいた」
「…は?」

ルンルンだった機嫌は急降下。
ヒコたんの爽やかな声とは全く違う浮ついた下品な声。その声に、顔を見なくても相手が誰だかわかって機嫌が悪くなる。


「ねえ、ゆりちゃんこっち見てよ」

そう言って、下を向いていた俺の顎を掴んで上を向かせた。キスするように顎を傾けられ、近くなった顔に不快感を感じる。

「離せよ、駿喜」

駿喜は俺の顔を上から見下ろすとクスッと笑った。

「いつも思うけど俺にちょっとは優しくしてくんない?」
「何言ってんだよクズ!お前なんか話したくもねえ」
「ほんっと生意気」

そうニヤッと笑う駿喜にイラッとして唾すら吐いてやろうかと構える。しかし、顎から手を離しあっさり俺から離れたため、その機会は残念ながら無くなった。

「それにしてもここで何してんの?」
「は?あんたにいう必要ある?」
「あるよ。俺と一緒に文化祭まわろ」
「はぁー???」

ガチで意味わからなさすぎて、顎があんぐり開いてしまった。相当馬鹿にした顔になってると思う。それでも、駿喜に誘われること自体が違和感ありすぎて「なんで」と言って知ってしまう。

「ゆりちゃんと仲良くしたいんだよ。それに俺、前から誘ってたじゃん」
「は?そうだっけ?全く覚えてない」
「記憶力ないとか、ゆりちゃん脳みそカッスカスなんだね」
「はぁ!?」

こいつマジで馬鹿にしてきてブチ切れそう。
「お前のことなんか眼中にねえんだよ!」って叫ぶが、「イケメンすぎて眩しくて見えないか~」
と煽られて終わってしまう。こういうところがうぜえ!

俺と回ろうとしつこい駿喜に俺はため息をつく。

「あのさ、俺、ヒコたんと文化祭回るの誘われたの。だから、お前とは行かない」
「…は?雅彦に?なんで?」

いや、なんでってなんだよ。
俺がヒコたんに誘われないとでも思ってんのか。さっきまで俺も誘われないどころか誘っても断られるかもしれないと不安になっていたのだが、ヒコたんからご指名で誘われたからそんなの吹き飛んだ。

こいつ失礼すぎんだろと駿喜を睨む。
だが、一方で俺の睨みなど気にしないぐらい駿喜は目を丸くしてこっちを見ていた。

「なんでそんなに驚いてんだよ」
「いや…雅彦が……」
「なんだよ…。まあ、そんなんいいからさ。俺はヒコたんと回るからお前はどっか行けよ」
「いつ誘われたの?」
「おい、話聞いてんの!?……ちょうどさっきだけど」
「それなら、俺の方が先に誘ってるじゃん」
「はぁー??なんでヒコたんに誘われたのにお前と行くんだよ。ヒコたん優先に決まってるじゃん」

それにお前と行きたいなんて、一言も言ってないし。
そう続けようとした時。


急にガッと腕を掴まれた。

「…お前やっぱりムカつく」

そう言って、無理矢理腕を引っ張られる。

「ちょ、は、離せよっ!」

突然の展開に必死に抵抗しようとするが、俺が駿喜に力で抗えるはずもなく。
俺は駿喜に腕を掴まれ、そのまま奥に連れていかれてしまった。



しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

Original drug

佐治尚実
BL
ある薬を愛しい恋人の翔祐に服用させた医薬品会社に勤める一条は、この日を数年間も待ち望んでいた。 翔祐(しょうすけ) 一条との家に軟禁されている 平凡 一条の恋人 敬語 一条(いちじょう) 医薬品会社の執行役員 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

美形な幼馴染のヤンデレ過ぎる執着愛

月夜の晩に
BL
愛が過ぎてヤンデレになった攻めくんの話。 ※ホラーです

言い逃げしたら5年後捕まった件について。

なるせ
BL
 「ずっと、好きだよ。」 …長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。 もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。 ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。  そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…  なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!? ーーーーー 美形×平凡っていいですよね、、、、

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

花香る人

佐治尚実
BL
平凡な高校生のユイトは、なぜか美形ハイスペックの同学年のカイと親友であった。 いつも自分のことを気に掛けてくれるカイは、とても美しく優しい。 自分のような取り柄もない人間はカイに不釣り合いだ、とユイトは内心悩んでいた。 ある高校二年の冬、二人は図書館で過ごしていた。毎日カイが聞いてくる問いに、ユイトはその日初めて嘘を吐いた。 もしも親友が主人公に思いを寄せてたら ユイト 平凡、大人しい カイ 美形、変態、裏表激しい 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

鬼ごっこ

ハタセ
BL
年下からのイジメにより精神が摩耗していく年上平凡受けと そんな平凡を歪んだ愛情で追いかける年下攻めのお話です。

ヤンデレだらけの短編集

BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。 全8話。1日1話更新(20時)。 □ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡 □ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生 □アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫 □ラベンダー:希死念慮不良とおバカ □デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。 かなり昔に書いたもので芸風(?)が違うのですが、楽しんでいただければ嬉しいです!

処理中です...