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しおりを挟む「もしかして神さま…?」
うわっ、今不穏な単語が聞こえた気がするんだけど。
「あ、あはっ。どーも、それじゃ」
触らぬ神に祟りなしだよ、そこのイケメンさん。
俺は穏便にかつさっさとこの場から離れようとした。
だがしかし。
「待って、神さま」
このイケメンは瞬間移動をしたのとでも言うのか。いつのまにか、廊下に立っていた俺の腕を掴んでいた。うわっ、背でかっ。
綺麗な顔は尚更、プロポーションも完璧で、腰は高く、すらりとした手足がやけに端正な顔とあいまって美しく映える。特徴的な白髪はそこまで長いと言うわけでもないが、顎下まではあり、少し癖っ毛なのか軽くウェーブがかっていた。
昨日出会った幸やヒコたんもかなりの美形だが、こいつは桁違いに顔面偏差値が高い。手首に痛々しく刻まれた傷がなければ、俺も偶然話しかけられて大興奮していたかもしれない。それぐらい彼は綺麗な容姿をしていた。
俺は本当に本当に本当に穏便に済まそうと思って、無理くりな笑顔を作って男に話しかける。
「えとー、神様ってなんのことですかー?俺人間ですよ~」
「俺のこと、救いに来てくれたんだよね?神さま。俺、死にたくてこの教室で1人自殺しようとしてたの。こんな人生嫌で辛くて苦しくて。でも助けてくれた、見つけてくれた、君が俺の神さまでしょ?神様だから俺の居場所わかったんでしょ?俺が助けて、って思ったから迎えに来てくれたんでしょ?」
えっ、やばーい。はぐらかそうとしたのにむしろ捕まってしまった。
しかもこの感じ。重度な勘違いメンヘラちゃんだ。ヒコたんのこと神だと思ってる俺でもさすがにここまでは、妄想癖激しくない…。
しかも喋らせたことで彼は興奮してしまったのか、先ほどよりもますます掴まれた腕の力が強くなる。ちょっと、床にまで血落ちてるのに。他人の血とかマジで興味ないんだけど俺!!
「あのさ、何勘違いしてるか分かんないですけど、俺ここたまたま通りかかっただけなんで。しかも、血垂れてるし。早く止血したらどうですか?」
「神さま俺のこと心配してくれてるの?あのね、でも、血止まらないんだよね…」
「は?リスカしといて血の止め方も知んないの?」
パッと男の腕を見ればろくに治療もしてなさそうな無数の傷跡が残っている。こう言う感じで放置してると、バイ菌入っちゃっておかしくなっちゃうんですけど。
確かに今回の傷跡は深そうだ。俺は一瞬迷ったが、俺には相手してやる義理もないし、とため息を吐いた。
「保健室行って治療してもらってください。バイ菌入って大変なことになっちゃうと思うんで」
「神さまは一緒にいてくれないの?」
「いや、俺あなたの神さまじゃないんで」
「?」
いや、なんで、言ってる意味がわかんないって顔すんだよ。突然言われた俺の方が意味わかんないわ。面倒くせえな。
半ばイライラとしていたせいか、いつもの癖で顔を少し下に伏せ無言で黙ってしまう。すると数秒間して不意に灯りが暗くなった。
あれ?と不自然さに顔を上げようとする。だがその間も無く、少し背を丸めた男が下からこちらを覗き込んでいた。気づいた頃には顔が至近距離で近づき、微かな吐息が唇にあたる。
「神さま。俺だけの神さま」
瞳がぱっちり合えば、外人みたいな長い睫毛から覗く男の瞳が次第にうっとりとし、糸を引いていった。
あ。なんて思っている間に唇へ温かく濡れた感触を感じる。
昨日もこの感覚体験した。なんなら、今回はマシュマロみたいに柔らかくて弾力がある。
(ま、待て。今キス、した…!?)
驚いてる間に、もう一度唇が軽く触れ合った。いや、初対面だろ、バカ!?なんでだよ!?
「神さま、驚いた顔も可愛い…」
そう言って頬を赤く染める男に、頭がクラクラとしてくる。
突飛な行動をしでかす目の前の意味不明男に、俺はついに冷静さも吹っ飛んでしまった。動揺のあまりに体まで震え出している。
「アンタ、まじで何して…っ」
「神さま、俺の名前は古泉聖(ふるいずみひじり)だよ。聖(ひじり)って呼んで」
俺が憤怒で震えているのにも関わらず、嬉しそうにそう言って血で濡れてる腕で抱きしめてくる。
抱きしめるな!てか、まず止血しろよ!!
そんな聖は俺の頬に手を添えたかと思うと、また顔を近づけてくる。聖はまたキスしようと仕掛けてきたのだ。
なんなの、コイツ!本当バカなの!?
俺は聖がキスしてくるのを咄嗟に避けると、そのまま聖を突き飛ばし、勢いよくこの場から逃げ出す。聖も、俺が逃げ出すことに咄嗟に反応したのか、俺の腰につけていたストラップを引っ張って引き留めようとした。
「…ッ!」
しかし、ここで捕まってしまうと今度こそ逃げられない。そう覚悟した俺は、そのままストラップが引きちぎれたことも目にくれず、聖から脱出して廊下を駆け抜けていった。
「か、神さまぁ~…」
古泉聖の泣きそうな声が遠くから小さく聞こえた。
うるせえ!男の子なんだからいちいち泣くな!
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