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本編
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○○○○○○○
シャワーを浴びて、ゆったりと湯に浸かる。こじんまりとした浴槽だが、滅多にない個人スペースなので大変安らぐ。
兄はああいうキャラなので大変友達や先輩後輩、おまけに教師に囲まれ愛されている。一方で俺は大して友達という人間もいないし、先輩関係も大概が兄関係なので、自分と仲の良い先輩がいるかというと疑問である。
兄はたくさんの人に囲まれ、愛されている。それに対し、俺はいつも1人だ。寂しい、だろうか。
…いや、ただでさえ兄の行方を尋ねてくる訪問者や生徒が多い中で、個人の時間が少ない。なんなら兄のようにたくさんの中で戯れるのは苦手だし、いても何もできない。1人でいる方がむしろ好都合な気がする。
別に兄のようにたくさんの友達とかいらないな、と思う相馬であった。
風呂から上がると、部屋の共有スペースに人がいた。
泥棒、ではなく、同質者の旗中(はたなか)だ。
旗中という漢字。ぱっと見、読みづらい。最初ぎちゅうかと思った。
旗中はテーブルの上のチョコを見ていたようだ。俺が近づくと、気づいて嬉しそうに話しかけてきた。
「お客さん来てたの?この菓子系統だと…鮫原先輩でしょ!」
「そう。よく分かったな」
「うんうん。鮫原先輩は律儀だからいいお菓子を持ってきてくれるんだよなぁ。しっかりとした坊ちゃんだ。今夜は良いデザートにありつけそう」
「旗中、風呂入る?」
「水谷、もう入ったの?早くね?まだ16時だよ」
暑かったんだから仕方ないだろ。
タオルで髪を拭きながら、冷蔵庫へチョコ菓子を持っていく。とりあえず冷やしておこう。
一方で、用事は済んだらしい旗中は薄型のノートパソコンとスマホを引っ掴んで自分のベッドの上に座った。
「このペースだと目標金額達成も間近だなー。鮫原先輩の高級菓子のおかげで食費も浮くし」
カタカタとパソコンに何やら入力したり、スマホをサッサッとスクロールしている。途中、「アーッ!あの米大統領株価下げやがったー!」なんて騒いでる。
俺にはよくわからないが『トレード』をしてるらしい。株を買って無働で大儲け、だそうだ。
見ての通り、旗中はケチ小僧のお金大好き太郎なので、兄探しに来た先輩達から菓子を巻き上げている。知らぬ間に、俺の部屋に来たら茶菓子でも持ってこいシステムになっていた。
別に菓子などもらうほどのことはしてないが、こちらも美味い菓子を食べれるに越したことはないので有り難く頂戴している。旗中はお気に入りの先輩手土産ランキングまで作成していた。
(…鯖の本でも読むか)
やることはひとまず終えたので、今日の気分である『鯖』を読む。鯖の塩焼きもいいが、南蛮漬けもうまい。
しばらくして鯖の生態という章を読んでいると、優しめにノックが鳴った。
旗中がひょこっとベッドの隙間から顔を出したが、応対する気はないようだ。
まあ、大体は俺に用事がある客ばかりだろうし。俺はドアの方へ行き、いつものように勢いよく開けた。
またもやいきなり開いたドアに先輩は目を丸くしていたが、ハハッと申し訳なさそうに笑った。
「相馬くんごめんね、榊原会長親衛隊隊長の睦(むつみ)です」
「睦先輩どうも。珍しいですね、どうかされたんですか」
「ああ、えっとお願いがあって…まずは、これ?だっけ?」
俺より数センチ低い背の先輩は、ピンク色の可愛らしい紙袋を俺に差し出した。お洒落なロゴの紙袋だ。どこかのブランド菓子か。
「睦先輩!そこで話すのも何なので入ってどうぞ!紅茶もありますよ!」
「あ、旗中くんありがとう。それじゃあお邪魔します」
この一連の流れは全て旗中の計りのうち。俺が応対している間にアールグレイを沸かす準備をしていた旗中だった。
○○○○○○○
「それで用件とは」
「あ、その、えっと…どこから話そう…結論を言うと、凌賀くんの居場所を知りたいんだよね」
「兄の」
会長の親衛隊の睦先輩だが、兄を探すなんて珍しい。別に兄を探すのは構わないため、またアプリを起動させ、兄のメッセージ動向をチェックする。旗中は紅茶を飲みながら物珍しそうに話に顔を突っ込んでくる。
「凌賀先輩の居場所を知りたいなんて珍しいですね。会長の親衛隊なのに、会長はいいんですか?」
「あ、それがね…。榊原会長って凌賀くんのこと酷く気に入ってるじゃない?元々は榊原会長が用が合って探してたんだけど、なかなか見つからなくて。それで、会長大抵凌賀くんのお尻を追っかけてるから、凌賀くんの居場所がわかれば会長もいるかな?と。凌賀くんのことなら相馬くんがわかるって聞いて、今ここ、って感じかな?」
ーーつまり、睦先輩→榊原会長→凌賀→相馬という流れになっているわけか。睦先輩も大変だ。2人分追って俺のとこにきたという。
凌賀のメッセージはあれから更新されており、『告白されたけど三笠くんに邪魔されて終わった泣』と来ていた。知らん。
「多分、兄ならもう生徒会室に行ったかもしれません。さっき、鮫原先輩が呼びに来てたので」
鮫原先輩もぶっ飛び生徒会の1人だ。あの人几帳面なのに、生徒会の一員だから謎だ。弱みでも握られているのか。
「そっかぁ。じゃあ生徒会室に行こうかな?」
「睦先輩。もうちょっとお茶してても大丈夫ですよ。どうせあっち側から会いにくると思うんで」
旗中が呑気にそう言ってダージリンを睦先輩に差し出した。睦先輩はわあ、ありがとうと紅茶を飲む。「ちなみにこのダージリンにはクッキーが合うと思うんですけどどうです?」「確かに。今度持ってくるね」「ありがとうございます!」旗中の商売根性は本当に凄い。
そうしていると5分も経たないうちにドアが大きくノックされた。この威厳のある叩き方は聞き覚えがある。
素早くドアを開くと、そこに立っていた人物は皆と同様驚いた表情をしたが、すぐに顔を引き締め直した。
「相馬、凌賀は来てないか」
なるほど。旗中が言っていたことはこういうことか。
睦先輩の探し相手、榊原会長が部屋にやってきた。
シャワーを浴びて、ゆったりと湯に浸かる。こじんまりとした浴槽だが、滅多にない個人スペースなので大変安らぐ。
兄はああいうキャラなので大変友達や先輩後輩、おまけに教師に囲まれ愛されている。一方で俺は大して友達という人間もいないし、先輩関係も大概が兄関係なので、自分と仲の良い先輩がいるかというと疑問である。
兄はたくさんの人に囲まれ、愛されている。それに対し、俺はいつも1人だ。寂しい、だろうか。
…いや、ただでさえ兄の行方を尋ねてくる訪問者や生徒が多い中で、個人の時間が少ない。なんなら兄のようにたくさんの中で戯れるのは苦手だし、いても何もできない。1人でいる方がむしろ好都合な気がする。
別に兄のようにたくさんの友達とかいらないな、と思う相馬であった。
風呂から上がると、部屋の共有スペースに人がいた。
泥棒、ではなく、同質者の旗中(はたなか)だ。
旗中という漢字。ぱっと見、読みづらい。最初ぎちゅうかと思った。
旗中はテーブルの上のチョコを見ていたようだ。俺が近づくと、気づいて嬉しそうに話しかけてきた。
「お客さん来てたの?この菓子系統だと…鮫原先輩でしょ!」
「そう。よく分かったな」
「うんうん。鮫原先輩は律儀だからいいお菓子を持ってきてくれるんだよなぁ。しっかりとした坊ちゃんだ。今夜は良いデザートにありつけそう」
「旗中、風呂入る?」
「水谷、もう入ったの?早くね?まだ16時だよ」
暑かったんだから仕方ないだろ。
タオルで髪を拭きながら、冷蔵庫へチョコ菓子を持っていく。とりあえず冷やしておこう。
一方で、用事は済んだらしい旗中は薄型のノートパソコンとスマホを引っ掴んで自分のベッドの上に座った。
「このペースだと目標金額達成も間近だなー。鮫原先輩の高級菓子のおかげで食費も浮くし」
カタカタとパソコンに何やら入力したり、スマホをサッサッとスクロールしている。途中、「アーッ!あの米大統領株価下げやがったー!」なんて騒いでる。
俺にはよくわからないが『トレード』をしてるらしい。株を買って無働で大儲け、だそうだ。
見ての通り、旗中はケチ小僧のお金大好き太郎なので、兄探しに来た先輩達から菓子を巻き上げている。知らぬ間に、俺の部屋に来たら茶菓子でも持ってこいシステムになっていた。
別に菓子などもらうほどのことはしてないが、こちらも美味い菓子を食べれるに越したことはないので有り難く頂戴している。旗中はお気に入りの先輩手土産ランキングまで作成していた。
(…鯖の本でも読むか)
やることはひとまず終えたので、今日の気分である『鯖』を読む。鯖の塩焼きもいいが、南蛮漬けもうまい。
しばらくして鯖の生態という章を読んでいると、優しめにノックが鳴った。
旗中がひょこっとベッドの隙間から顔を出したが、応対する気はないようだ。
まあ、大体は俺に用事がある客ばかりだろうし。俺はドアの方へ行き、いつものように勢いよく開けた。
またもやいきなり開いたドアに先輩は目を丸くしていたが、ハハッと申し訳なさそうに笑った。
「相馬くんごめんね、榊原会長親衛隊隊長の睦(むつみ)です」
「睦先輩どうも。珍しいですね、どうかされたんですか」
「ああ、えっとお願いがあって…まずは、これ?だっけ?」
俺より数センチ低い背の先輩は、ピンク色の可愛らしい紙袋を俺に差し出した。お洒落なロゴの紙袋だ。どこかのブランド菓子か。
「睦先輩!そこで話すのも何なので入ってどうぞ!紅茶もありますよ!」
「あ、旗中くんありがとう。それじゃあお邪魔します」
この一連の流れは全て旗中の計りのうち。俺が応対している間にアールグレイを沸かす準備をしていた旗中だった。
○○○○○○○
「それで用件とは」
「あ、その、えっと…どこから話そう…結論を言うと、凌賀くんの居場所を知りたいんだよね」
「兄の」
会長の親衛隊の睦先輩だが、兄を探すなんて珍しい。別に兄を探すのは構わないため、またアプリを起動させ、兄のメッセージ動向をチェックする。旗中は紅茶を飲みながら物珍しそうに話に顔を突っ込んでくる。
「凌賀先輩の居場所を知りたいなんて珍しいですね。会長の親衛隊なのに、会長はいいんですか?」
「あ、それがね…。榊原会長って凌賀くんのこと酷く気に入ってるじゃない?元々は榊原会長が用が合って探してたんだけど、なかなか見つからなくて。それで、会長大抵凌賀くんのお尻を追っかけてるから、凌賀くんの居場所がわかれば会長もいるかな?と。凌賀くんのことなら相馬くんがわかるって聞いて、今ここ、って感じかな?」
ーーつまり、睦先輩→榊原会長→凌賀→相馬という流れになっているわけか。睦先輩も大変だ。2人分追って俺のとこにきたという。
凌賀のメッセージはあれから更新されており、『告白されたけど三笠くんに邪魔されて終わった泣』と来ていた。知らん。
「多分、兄ならもう生徒会室に行ったかもしれません。さっき、鮫原先輩が呼びに来てたので」
鮫原先輩もぶっ飛び生徒会の1人だ。あの人几帳面なのに、生徒会の一員だから謎だ。弱みでも握られているのか。
「そっかぁ。じゃあ生徒会室に行こうかな?」
「睦先輩。もうちょっとお茶してても大丈夫ですよ。どうせあっち側から会いにくると思うんで」
旗中が呑気にそう言ってダージリンを睦先輩に差し出した。睦先輩はわあ、ありがとうと紅茶を飲む。「ちなみにこのダージリンにはクッキーが合うと思うんですけどどうです?」「確かに。今度持ってくるね」「ありがとうございます!」旗中の商売根性は本当に凄い。
そうしていると5分も経たないうちにドアが大きくノックされた。この威厳のある叩き方は聞き覚えがある。
素早くドアを開くと、そこに立っていた人物は皆と同様驚いた表情をしたが、すぐに顔を引き締め直した。
「相馬、凌賀は来てないか」
なるほど。旗中が言っていたことはこういうことか。
睦先輩の探し相手、榊原会長が部屋にやってきた。
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