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チャイムの鳴る音がした。
HRはとっくに始まっている。しかし和正はそんなの気にせず人通りの少ない廊下を歩いて行く。空はただ黙々と歩く和正の後ろをついて行く。途中で引き返せばよかったと空は後悔するもここまでついてきては引き返せない。
和正は勝手に空き教室のドアを開けると中へ入った。空は少しためらいがちにドアの前で立っていると、入れよと和正が言った。
空は諦めて中へ入った。ここは基本的に移動教室で使われる部屋だ、つまり人が常時出入りしない。そんな教室は何個かあるから一日中使われないことだって多々ある。
蒼に言われたからかわからないが嫌な予感がした。しかし、その予感をわかった上で空は入った。
「空にはいろいろ聞きたいことあるけど…まずはその首、弟のせいだろ」
空は責めた口調の和正に何も言えなかった。なんて返せばいいか思いつかなかったのだ。しかしその黙った空の様子に和正は答えが是と捉えた。
「あんまり他人の家族関係とかに口出したくないんだけどさ。お前の弟おかしいぞ」
空はじっと和正を見た。和正は睨んだような目つきでこちらを見ていた。まるで俺を憎んでいるように錯覚してしまう。なんでそんな目で見てくるんだ。
「お前に手を出したことは俺も悪いとは思ってる。でも、あんなやり方で脅すのはおかしいだろ、人じゃねえ」
「それ、どういうこと…」
眉をしかめた空に和正はチッと舌打ちした。
「何も聞かされてないのかよ。なのに弟の言いつけは大人しく聞くんだな」
まるで蒼と空を卑下したような言い方に嫌な感覚を空は覚えた。和正は基本的に今まで優しかったから初めてこんな酷い言い方をされた。
空は恐怖に似た嫌悪感にじわりじわり蝕まれる。
「首の包帯外せよ」
「ゃ、やだ…」
「なんで」
「っ和正、俺の質問に答えてないから」
「弟に言われてないなら俺が言う必要はない」
「な、なんで!和正は俺が知らないことにも腹を立ててるんだろ!」
和正はジロリと空を見た。
少しの沈黙のうち、口を開いた。
「撮ってたんだよ、俺とお前がセックスしてる様子を」
空はそれが夢かと思った。でも、地につく足が震えていて、体を支えられなくて転びかけたことに現実へと戻される。
和正は未だ冷めた目で空を見ていた。空はどう言っていいかわからなくて顔を俯かせるしかなかった。和正の目が見れない。
汗が滲んだ感覚がした。
「お前の弟は俺と空がセックスしてる様子を撮って、それを世間にばら撒くって言ってきやがったんだ。しかも、既にうちの親にその動画を送ってやがって、内容は把握されてた。おかげで俺は親にゲイってこともバレて勘当扱いだ。動画だって1回だけじゃねえ。いろんな場所で何個も撮ってやがった。お前、これでもあいつ信じるって言うの?兄貴と男のセックス動画を何十回も盗撮して、脅して、人の人生壊したやつを」
空はただ嘘であって欲しいと思った。
蒼が俺たちのヤッている姿を見ていたことも、盗撮していたことも、それを出しに和正を脅したことも、そんな恐ろしいことしてでも俺と和正を追い詰めようとしたことも。全部全部嘘であったらいいと思った。
いつのまにかその場に崩れ落ちていた空は、和正の手で抱きしめられていた。倒れ込むのをギリギリ和正が助けたのだろう。
何もできなくてぼんやりと腹を抱える和正の手を見ているとしゅるりと布が解けた。
首の拘束感が解ける。
和正の目には空の首元が映っているだろう。首の両側を包む赤い痣とうなじにある歯形。するりと首を一周撫でられた。
「こんなことしたって意味ないのにな」
和正はもう一度うなじを撫でた。
その行為に空は心臓がキュッとなった。空の体にはない特性、役に立たないのにそこを狙われていると空はわかった。
空はベータだ。番うことは一生ない。アルファに歯向かえなくても拘束されることはない。
でも空は不安でたまらなかった。
ゆっくりと和正が空のうなじへ顔を近づけた。
暖かい息がかかる。うなじへしっとりとした感覚がした。
その時だ。ベータの空でもわかる微かな甘い香りが部屋へ漂った。
HRはとっくに始まっている。しかし和正はそんなの気にせず人通りの少ない廊下を歩いて行く。空はただ黙々と歩く和正の後ろをついて行く。途中で引き返せばよかったと空は後悔するもここまでついてきては引き返せない。
和正は勝手に空き教室のドアを開けると中へ入った。空は少しためらいがちにドアの前で立っていると、入れよと和正が言った。
空は諦めて中へ入った。ここは基本的に移動教室で使われる部屋だ、つまり人が常時出入りしない。そんな教室は何個かあるから一日中使われないことだって多々ある。
蒼に言われたからかわからないが嫌な予感がした。しかし、その予感をわかった上で空は入った。
「空にはいろいろ聞きたいことあるけど…まずはその首、弟のせいだろ」
空は責めた口調の和正に何も言えなかった。なんて返せばいいか思いつかなかったのだ。しかしその黙った空の様子に和正は答えが是と捉えた。
「あんまり他人の家族関係とかに口出したくないんだけどさ。お前の弟おかしいぞ」
空はじっと和正を見た。和正は睨んだような目つきでこちらを見ていた。まるで俺を憎んでいるように錯覚してしまう。なんでそんな目で見てくるんだ。
「お前に手を出したことは俺も悪いとは思ってる。でも、あんなやり方で脅すのはおかしいだろ、人じゃねえ」
「それ、どういうこと…」
眉をしかめた空に和正はチッと舌打ちした。
「何も聞かされてないのかよ。なのに弟の言いつけは大人しく聞くんだな」
まるで蒼と空を卑下したような言い方に嫌な感覚を空は覚えた。和正は基本的に今まで優しかったから初めてこんな酷い言い方をされた。
空は恐怖に似た嫌悪感にじわりじわり蝕まれる。
「首の包帯外せよ」
「ゃ、やだ…」
「なんで」
「っ和正、俺の質問に答えてないから」
「弟に言われてないなら俺が言う必要はない」
「な、なんで!和正は俺が知らないことにも腹を立ててるんだろ!」
和正はジロリと空を見た。
少しの沈黙のうち、口を開いた。
「撮ってたんだよ、俺とお前がセックスしてる様子を」
空はそれが夢かと思った。でも、地につく足が震えていて、体を支えられなくて転びかけたことに現実へと戻される。
和正は未だ冷めた目で空を見ていた。空はどう言っていいかわからなくて顔を俯かせるしかなかった。和正の目が見れない。
汗が滲んだ感覚がした。
「お前の弟は俺と空がセックスしてる様子を撮って、それを世間にばら撒くって言ってきやがったんだ。しかも、既にうちの親にその動画を送ってやがって、内容は把握されてた。おかげで俺は親にゲイってこともバレて勘当扱いだ。動画だって1回だけじゃねえ。いろんな場所で何個も撮ってやがった。お前、これでもあいつ信じるって言うの?兄貴と男のセックス動画を何十回も盗撮して、脅して、人の人生壊したやつを」
空はただ嘘であって欲しいと思った。
蒼が俺たちのヤッている姿を見ていたことも、盗撮していたことも、それを出しに和正を脅したことも、そんな恐ろしいことしてでも俺と和正を追い詰めようとしたことも。全部全部嘘であったらいいと思った。
いつのまにかその場に崩れ落ちていた空は、和正の手で抱きしめられていた。倒れ込むのをギリギリ和正が助けたのだろう。
何もできなくてぼんやりと腹を抱える和正の手を見ているとしゅるりと布が解けた。
首の拘束感が解ける。
和正の目には空の首元が映っているだろう。首の両側を包む赤い痣とうなじにある歯形。するりと首を一周撫でられた。
「こんなことしたって意味ないのにな」
和正はもう一度うなじを撫でた。
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空はベータだ。番うことは一生ない。アルファに歯向かえなくても拘束されることはない。
でも空は不安でたまらなかった。
ゆっくりと和正が空のうなじへ顔を近づけた。
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その時だ。ベータの空でもわかる微かな甘い香りが部屋へ漂った。
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