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しおりを挟む「空、首どうしたの」
クラスメイトで3人目のアルファが話かけてきた。昨日のアルファは髪が少し長くて女ウケの良い甘い顔をしていたが、今日1番に話しかけてきたアルファは派手な顔ではない穏和な雰囲気の物静かな男だった。
「いや、なにも」
「昨日体調悪くて早退したんでしょ?病気?」
「本当に何でもないから…」
肩にアルファの手が伸びてきた。急いで肩をずらして避ける。あまり表情が表に出ない彼が少し傷ついた顔をした。
その表情に空はずきりと心臓が痛み、背を向けて気づかないフリをした。
蒼からキツく言われてある。アルファには近寄ってはダメだと。
一昨日も言われた。しかし、その意味は一昨日の比ではないほど重たく深い。
気づいてしまったのだ。空はベータでありながら、アルファを惹き寄せやすく、アルファに惹き寄せられやすく、そして支配されやすいと。
蒼もきっと知ってしまっただろう。俺がアルファの圧を感じると、それに抗えない体質であることに。
気持ち良いと思ってた和正の性行為も流されたのも全ては和正のもつアルファのせい。アルファの力が俺をそう支配させ俺をそう従わせた。蒼はそう俺に言った。蒼が言うから間違いない、と思う。
どうしてこんな風になるのか俺は自分の体なのにさっぱり理由がわからなかった。でも、言い訳などほっといて現実はそうだ。俺はこの人生ずっとアルファとしか関わらず、昨日蒼の下で跪いた。抗おうと思っても体は一切動かなかった。
大半のクラスメイトは穏やかに生徒たちと談笑するが俺には気にも留めない。ベータたちの横を通り過ぎて座席についた。先ほど話しかけてきたアルファは呆然と入り口に立ったままだ。俺は無心を保って準備をし始める。鞄を机の横にかけた時、ふと目があってしまった。和正が遠くから俺をじっと見つめていた。たった一瞬。しかし、その和正の目に俺は体の力が入らなくなってしまった。鞄がうまくかかっておらず手から離れて地面に落とす。
ドスン!と大きい音がした。俺はその音でハッと意識が戻り、和正の方は見ず鞄を慌てて地面から拾い上げようと椅子から立った。
鞄を掴んで机横のフックにかける。緊張してちょっと慌てた手つきになった。
鞄を落としても周りのクラスメイト達は話しかけてこない。また蒼の言ってることに信憑さが増したような気がした。
「おい」
そう悲観していたところで上から声が降ってきた。
「和正…」
座り込んでいる空に接触しないと誓っていた和正が立っていた。
「お前その包帯なに」
「別に…ちょっと怪我してるだけ」
首に咄嗟に手を当てる。布で巻かれているのに中を暴かれたくなくて手で守ってしまう。
和正は答えに満足していないのか黙ってこちらを見つめ続けている。和正に早くどっか行って欲しくて小声だけどちょっと声を荒げる。
「大丈夫だから、本当に」
「なにが」
和正はこちらをただ黙って見つめていた。和正はどちらかというと口数が多い方だ。クラスの中心でよく騒いでいる部類の方に属する。しかし、和正はただ静かにこちらを見つめていた。
空は視線を注ぎ続ける和正の方をしっかりと見た。そうしなければ退いてくれないかと思ったのだ。
和正と目があう。その途端さざなみが立ったように体が震え、心拍があがる。
和正の目が俺を縛って離さない。体は蒼の時のように意思を反して動かない。
「空、ちょっとこい」
命令にも近い言葉が飛んできて空の体は和正に従った。大人しく和正の後ろをついていく。ここに空の意思はあったかどうかはわからなかった。
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