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蒼は俺にある制約を立てた。
和正とは縁を切ること、話しかけない、目も合わせない、最低限の会話しかしない、そして接触があれば必ず蒼に報告すること。
和正とまた何かあっては困るから俺は素直にそれに従った。和正にも蒼のことは特別話さなかったが、この前の騒動で何か後ろめたいものがあったのか和正もすんなり了承した。
そして、もう一つ。アルファにはなるべく近づかないようにすることが蒼から言われた最後の制約だった。
和正の件は納得できたが、アルファと接触を図らないように言われたのは少々疑問があった。
アルファはそもそも存在が少ないからベータの俺は普段関わることは少ない。しかし、アルファと分からず接する可能性は少ないにしてもあるだろうし、なぜアルファ限定なのかも不思議だった。別にオメガでもないんだから、妊娠や番うなんて可能性はこれっぽいもない。
アルファと関われないということは社会では昇格を目指せない。今回の件となんの関係があるのかわからず不満はあったが、それでも俺が犯した過ちを償うにはこれぐらいの罰は軽い方だと俺は受け入れた。
クラスではアルファは4人ほどいる。他クラスではいない場合もあるから多い方だ。その一人に和正もいる。だから、残り3人のアルファとも空は接触禁止となった。
アルファが居ないか確認しながら教室へ入る。
今日は蒼と朝から登校した。今日の蒼はいつもの明るい蒼で、まるであの件が夢だったように普段通り学校へ着いた。ただ、一つ違ったのは蒼が別れる時ギュッと手を握りもう一度"制約"を俺に唱えさせた。それは俺を縛るように、蒼の握った手の感覚を覚えさせた。
教室で大人しく席に着いても、まだ蒼の手の感覚が残っている。その感覚が不思議で握られた左手をさすっていると、たまたま通りかかったクラスメイトが話しかけてきた。
「空、手でも痛いの?」
思わず話しかけてきた人物の方を見上げれば、クラスメイトの一人のアルファが立っていた。スッと机の近くに寄ってきて、背の高い彼は俺の方を覗き込んでくる。俺はその一つの動作でも心臓が飛び上がり、脈がとても早く打ちはじめた。アルファとはあまり話さず、目を合わせず、接触せず…。
俺は自分の左手を凝視するようにアルファの彼の方は見ずに適当に応対する。
「あ、今日寒いから、手冷たいなぁって。気遣ってくれてありがとね」
「なるほどね。そんな手冷たいの?」
(なんで会話を続けてくる…!)
空の心の叫びに答えてくれる訳もなく、クラスメイトのアルファは空の左手を掴んだ。片手で空の指先をさする。
「本当だ、つめてー。空、手袋してきた方がいいんじゃない?」
そうだね、と空はアルファに向かって苦笑した。手を離してと念を送るが、彼は両手で左手を包み込み、たまに優しくなぞるように空の手の甲や指先をさすりあげる。どういって手を離してもらおうか決めかねていた時だった。
「空兄ちゃん」
蒼の凛とした声が聞こえた。
「お、蒼じゃん」
クラスメイトは空の手をパッと離し彼の方へ近寄る。ほっと安心するが、なぜ蒼がここにいるのか。
「どうも先輩。あ、空兄ちゃん、弁当また忘れてたよ」
弁当袋を掲げられ、慌てて空も蒼の方へ駆け寄る。
「あ、ごめん、蒼。ありがとう」
「大丈夫だよ。それより昼休み一緒ご飯食べよ。…話したいことあるんだけどわかるよね?」
耳元で温度の低い声が響く。
弁当袋を受け取った体が固まった。蒼のくりりとした丸い瞳がこちらを見ている。その瞳はいい色をしていなかった。
「それじゃあ、俺教室戻るんで。また後でね、空兄ちゃん」
蒼が肩を叩いたことで呪縛がとける。蒼はそのまま振り返らず教室を去った。しかし、蒼がまだこちらを見ているような視線が肌に残った。
和正とは縁を切ること、話しかけない、目も合わせない、最低限の会話しかしない、そして接触があれば必ず蒼に報告すること。
和正とまた何かあっては困るから俺は素直にそれに従った。和正にも蒼のことは特別話さなかったが、この前の騒動で何か後ろめたいものがあったのか和正もすんなり了承した。
そして、もう一つ。アルファにはなるべく近づかないようにすることが蒼から言われた最後の制約だった。
和正の件は納得できたが、アルファと接触を図らないように言われたのは少々疑問があった。
アルファはそもそも存在が少ないからベータの俺は普段関わることは少ない。しかし、アルファと分からず接する可能性は少ないにしてもあるだろうし、なぜアルファ限定なのかも不思議だった。別にオメガでもないんだから、妊娠や番うなんて可能性はこれっぽいもない。
アルファと関われないということは社会では昇格を目指せない。今回の件となんの関係があるのかわからず不満はあったが、それでも俺が犯した過ちを償うにはこれぐらいの罰は軽い方だと俺は受け入れた。
クラスではアルファは4人ほどいる。他クラスではいない場合もあるから多い方だ。その一人に和正もいる。だから、残り3人のアルファとも空は接触禁止となった。
アルファが居ないか確認しながら教室へ入る。
今日は蒼と朝から登校した。今日の蒼はいつもの明るい蒼で、まるであの件が夢だったように普段通り学校へ着いた。ただ、一つ違ったのは蒼が別れる時ギュッと手を握りもう一度"制約"を俺に唱えさせた。それは俺を縛るように、蒼の握った手の感覚を覚えさせた。
教室で大人しく席に着いても、まだ蒼の手の感覚が残っている。その感覚が不思議で握られた左手をさすっていると、たまたま通りかかったクラスメイトが話しかけてきた。
「空、手でも痛いの?」
思わず話しかけてきた人物の方を見上げれば、クラスメイトの一人のアルファが立っていた。スッと机の近くに寄ってきて、背の高い彼は俺の方を覗き込んでくる。俺はその一つの動作でも心臓が飛び上がり、脈がとても早く打ちはじめた。アルファとはあまり話さず、目を合わせず、接触せず…。
俺は自分の左手を凝視するようにアルファの彼の方は見ずに適当に応対する。
「あ、今日寒いから、手冷たいなぁって。気遣ってくれてありがとね」
「なるほどね。そんな手冷たいの?」
(なんで会話を続けてくる…!)
空の心の叫びに答えてくれる訳もなく、クラスメイトのアルファは空の左手を掴んだ。片手で空の指先をさする。
「本当だ、つめてー。空、手袋してきた方がいいんじゃない?」
そうだね、と空はアルファに向かって苦笑した。手を離してと念を送るが、彼は両手で左手を包み込み、たまに優しくなぞるように空の手の甲や指先をさすりあげる。どういって手を離してもらおうか決めかねていた時だった。
「空兄ちゃん」
蒼の凛とした声が聞こえた。
「お、蒼じゃん」
クラスメイトは空の手をパッと離し彼の方へ近寄る。ほっと安心するが、なぜ蒼がここにいるのか。
「どうも先輩。あ、空兄ちゃん、弁当また忘れてたよ」
弁当袋を掲げられ、慌てて空も蒼の方へ駆け寄る。
「あ、ごめん、蒼。ありがとう」
「大丈夫だよ。それより昼休み一緒ご飯食べよ。…話したいことあるんだけどわかるよね?」
耳元で温度の低い声が響く。
弁当袋を受け取った体が固まった。蒼のくりりとした丸い瞳がこちらを見ている。その瞳はいい色をしていなかった。
「それじゃあ、俺教室戻るんで。また後でね、空兄ちゃん」
蒼が肩を叩いたことで呪縛がとける。蒼はそのまま振り返らず教室を去った。しかし、蒼がまだこちらを見ているような視線が肌に残った。
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