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それから次の日、弟と顔を合わしたのは昼休みだった。いつも友達と教室で飯を食べてるはずの蒼が教室へやってきた。朝は気まずくて俺が弟を避けて学校へ逃げてしまったのだ。
蒼のすらりとした背が窓から離れてても良く見える。
「空(そら)兄ちゃん呼んでもらえますか」
蒼のスッキリとした声はよく教室に響く。あのイケメンな蒼の幸薄そうな兄、空として俺はクラスでよく知れ渡っていた。アルファの風格はどこにいたって蒼を引き立たせる。
和正はちょうど席を外していたから、俺は諦めて自ら蒼の方へ近寄った。
「蒼…なに」
「空兄ちゃんご飯一緒に食べよう」
俺が返事する前に腕を掴まれ、弁当を掲げられた。急いで家を飛び出したせいで弁当をもらうのを忘れてきていた。俺は蒼の弁当と空の弁当二つを掲げられては断る理由も見つからないため、大人しく蒼にしたがった。
蒼と中庭で黙々と母の作った弁当を食べた。秋を迎え少し肌寒い季節になったが日差しは暖かく、外で食べるには清々しい天気だった。
蒼は何も話さず、弁当の中身を口に入れる。
俺も淡々と口におかずを運んだが、心地が悪すぎてうまく喉に通らない。
(蒼はなんで俺と一緒に飯を食べるんだ…?嫌がらせ?俺に罪悪感を植え付けるため?)
嫌な想像だけが膨らみ、自分のやってしまったことと弟の行動の不可解さにまたおかずを一つ飲み込めなくなってしまう。
俺は結局半分以上弁当を残して蓋を閉じた。
弟はその様子を見たからなのかたまたまなのかわからないが、沈黙していた口を開いた。
「兄ちゃんは和正さんのことが好きなの」
「え…あ………う、ん」
ぶっちゃけ返事に困ってしまった。嫌いではないし、アルファである和正は容姿も才能も優れていて魅力的であった。彼はとても器用で、結局セックスの嗜みも上手だった。しかし、好きと言われると困った。好きかどうかよりも気持ちよさが優先してしまった。本来は好きだからするものなのだが、流されて気持ちいいから良いかと享受してしまったのだ。そこに好意があったのかどうかぶっちゃけわからない。
セックスは気持ちよかったから是とは一応答えてみたが、その答えは正しいかわからない。そもそも弟の好きなひとを寝取ったような形で好きだと言ってもずるいし、好きじゃないといえば最低な兄だ。俺には選択肢がそもそも残されていなかった。
蒼は俺の曖昧な返事に眼光を鋭くさせた。
「兄ちゃんはアルファの男が好きなの?」
「よ、よくわかんない…」
「じゃあなんで和正さんの家に行ったの。最近はずっと一緒にいたよね?あの人よく目立つから俺でも知ってるよ」
しまった、和正と一緒にいることが蒼にバレていたのか。だから蒼はあの時和正の家の前に居たんだ。俺と和正に何かあると確信があって、蒼は俺と和正が家から出てくるタイミングを待ったんだ。
俺は顔の血の気が引いていくのを感じた。いつかバレるとわかっていても、和正が俺を招いたとしても、俺がついていったのは紛れも無い事実で俺の責任だ。ずっと蒼はわかってたんだ。
蒼への申し訳なさと自分の阿呆さに視界が真っ黒になっていく。とんでもないことをずっとしていたんだ、俺はずっと蒼を裏切っていたんだ。
俺は目眩がしてガクリと体を前に揺らした。倒れそうになる体を蒼がいち早く気づいて、地面に沈むのを支えられて倒れずに済んだ。
「兄ちゃん、大丈夫…?」
「蒼、ごめん…俺が悪いのに、なんか、ほんとに、こんな、ごめん、ごめん」
頭がよく回らなくてごめんという言葉しか言えない。蒼が上から俺のことを覗き込んでいたが、俺は蒼がどんな顔をしているか見る余裕はなかった。
「兄ちゃん、もういいよ、俺は和正さんのこと諦めるから。でも、和正さんと空兄ちゃんがずっと一緒にいるのも許せない」
「うん、わかってる…俺、お前にたくさん謝って、たくさん、償わなきゃ…」
「兄ちゃん」
「蒼、蒼のために……」
本当は蒼を裏切りたかったわけじゃないんだ。でも俺が弱いから、俺がしっかりしてないから、蒼を傷つけた。
蒼のためなら俺はどんな罰も受けなければならない。
俺のその言葉に蒼はどんな表情をしたのかはよくわからなかった。
蒼のすらりとした背が窓から離れてても良く見える。
「空(そら)兄ちゃん呼んでもらえますか」
蒼のスッキリとした声はよく教室に響く。あのイケメンな蒼の幸薄そうな兄、空として俺はクラスでよく知れ渡っていた。アルファの風格はどこにいたって蒼を引き立たせる。
和正はちょうど席を外していたから、俺は諦めて自ら蒼の方へ近寄った。
「蒼…なに」
「空兄ちゃんご飯一緒に食べよう」
俺が返事する前に腕を掴まれ、弁当を掲げられた。急いで家を飛び出したせいで弁当をもらうのを忘れてきていた。俺は蒼の弁当と空の弁当二つを掲げられては断る理由も見つからないため、大人しく蒼にしたがった。
蒼と中庭で黙々と母の作った弁当を食べた。秋を迎え少し肌寒い季節になったが日差しは暖かく、外で食べるには清々しい天気だった。
蒼は何も話さず、弁当の中身を口に入れる。
俺も淡々と口におかずを運んだが、心地が悪すぎてうまく喉に通らない。
(蒼はなんで俺と一緒に飯を食べるんだ…?嫌がらせ?俺に罪悪感を植え付けるため?)
嫌な想像だけが膨らみ、自分のやってしまったことと弟の行動の不可解さにまたおかずを一つ飲み込めなくなってしまう。
俺は結局半分以上弁当を残して蓋を閉じた。
弟はその様子を見たからなのかたまたまなのかわからないが、沈黙していた口を開いた。
「兄ちゃんは和正さんのことが好きなの」
「え…あ………う、ん」
ぶっちゃけ返事に困ってしまった。嫌いではないし、アルファである和正は容姿も才能も優れていて魅力的であった。彼はとても器用で、結局セックスの嗜みも上手だった。しかし、好きと言われると困った。好きかどうかよりも気持ちよさが優先してしまった。本来は好きだからするものなのだが、流されて気持ちいいから良いかと享受してしまったのだ。そこに好意があったのかどうかぶっちゃけわからない。
セックスは気持ちよかったから是とは一応答えてみたが、その答えは正しいかわからない。そもそも弟の好きなひとを寝取ったような形で好きだと言ってもずるいし、好きじゃないといえば最低な兄だ。俺には選択肢がそもそも残されていなかった。
蒼は俺の曖昧な返事に眼光を鋭くさせた。
「兄ちゃんはアルファの男が好きなの?」
「よ、よくわかんない…」
「じゃあなんで和正さんの家に行ったの。最近はずっと一緒にいたよね?あの人よく目立つから俺でも知ってるよ」
しまった、和正と一緒にいることが蒼にバレていたのか。だから蒼はあの時和正の家の前に居たんだ。俺と和正に何かあると確信があって、蒼は俺と和正が家から出てくるタイミングを待ったんだ。
俺は顔の血の気が引いていくのを感じた。いつかバレるとわかっていても、和正が俺を招いたとしても、俺がついていったのは紛れも無い事実で俺の責任だ。ずっと蒼はわかってたんだ。
蒼への申し訳なさと自分の阿呆さに視界が真っ黒になっていく。とんでもないことをずっとしていたんだ、俺はずっと蒼を裏切っていたんだ。
俺は目眩がしてガクリと体を前に揺らした。倒れそうになる体を蒼がいち早く気づいて、地面に沈むのを支えられて倒れずに済んだ。
「兄ちゃん、大丈夫…?」
「蒼、ごめん…俺が悪いのに、なんか、ほんとに、こんな、ごめん、ごめん」
頭がよく回らなくてごめんという言葉しか言えない。蒼が上から俺のことを覗き込んでいたが、俺は蒼がどんな顔をしているか見る余裕はなかった。
「兄ちゃん、もういいよ、俺は和正さんのこと諦めるから。でも、和正さんと空兄ちゃんがずっと一緒にいるのも許せない」
「うん、わかってる…俺、お前にたくさん謝って、たくさん、償わなきゃ…」
「兄ちゃん」
「蒼、蒼のために……」
本当は蒼を裏切りたかったわけじゃないんだ。でも俺が弱いから、俺がしっかりしてないから、蒼を傷つけた。
蒼のためなら俺はどんな罰も受けなければならない。
俺のその言葉に蒼はどんな表情をしたのかはよくわからなかった。
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