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2年生編6月
◆創造主と育成主
しおりを挟む二年生初めての中間考査が終わり、校外活動も終えた六月。文化祭実行委員長の仕事ぶりのおかげで、文化祭の準備もスムーズに進んでいる。それでいても委員会としての忙しさが減るわけでもなく、親という存在がいない海が三者面談に参加することは時間の無駄でしかなかった。まだ、担任が人間であれば暇つぶしにもなったかもしれないが、担任は同じく魔女で交流もある藍子。わざわざ時間を作ってまで話すこともない。
「面談する意味あります?」
一応教室内であったことと、嫌味も込めて海は敬語を使った。頬杖をついて、明らかに教師を前にした態度ではない。
「色々調整をするより、最初から枠を設けてゆっくりした方がお得でしょう」
藍子からすればサボりタイムにあたるらしい。
「最近忙しいみたいですが、楽しんでいます?」
「私はともかく、シルヴィアは楽しそうだけど」
「できればあなたにも楽しんでいただけると幸いなのですが……」
「私が楽しんだところで先生様にメリットないでしょ」
「あなたに恩を売れば、今後どこかでいいことがあるかもしれませんからね」
「残念ながら、私はあまり魔女に優しくないんだ」
明らかに不機嫌な海を見ても藍子はひるまず、いつも通りの薄い笑みを浮かべたまま。
「最後に一応聞いておきますが、学生生活の中で……私生活でもいいですが、気になることとかありますか?」
「ないよ。そっちは? なにか報告するようなことあるの?」
「うーん。今のところないですかね。新入生も入った時期ですから多少気になることはありますが、そこはシルヴィアと連携を取っています」
面談は規定時間よりも大幅に短縮されて終了し、特段雑務を押し付けられているわけではない海は真っ直ぐに昇降口へと向かう。
各学年が一斉に保護者面談を行っていることもあり、昇降口には何組か見慣れない大人たちが見受けられる。その中でも目立ったのは、両親共々揃っていて、なおかつピンク色の髪が見える家族だった。
秋桜は、両親らしき少し年老いたスーツ姿の男性と質素なワンピースをまとった女性を、初めて見る笑顔で見送っている。
「親がどっちも来るなんて珍しいね」
知人がいることに気づいていなかったのか、あからさまに驚いた顔をして二歩秋桜は後ずさった。
「み、見てました?」
「見てたって、君が親に笑顔で手を振っているのを?」
「…………」
「仲良いんだね」
そういえば侑希のところも親子関係は良好だったなと思い出しながら、秋桜と先程の親の顔を思い浮かべる。
――あまり似てなかったような。
「……似てなかったですよね。うち、里親なんですよ。そのせいか過保護なくらい二人共よくしてくれて。この歳になったらさすがに恥ずかしいんで、やめてほしいですけどね」
嫌がっている口ぶりはしているものの、目は嬉しそうに細まる。
「カイ先輩の親御さんはもう帰っちゃったんですか?」
「うちは来てないよ。海の向こうだからね」
「あー海外にいるんでしたっけ。会えないの寂しくないんですか?」
寂しいも何も元からそんなものいない。
「えっと、アキ、ちゃん?」
海は苗字を思い出せず、仕方なく侑希が呼んでいた呼称を口にする。極力顔に出さないように気をつけてくれたのだろうが、戸惑いは伝わってきた。
「わざわざちゃんづけしなくて大丈夫ですよ」
「なんかごめん。アキはこれから生徒会に行くの?」
「いえ。一年生側の文化祭準備の手伝いをしに行こうかと思いまして。あまり侑希先輩に負担かけたくないし」
侑希と彼女は同じ中学校出身だ。去年の文化祭も侑希に案内をしてもらっていた。
「……もしかして侑希ちゃんがいるからこの学校に来たの?」
「は? 何言ってるんですか?」
脳内では、『秋桜は頭がいい』⇒『頭がいいのにわざわざ東高校を選んだ』の理由は、『侑希と仲がいいから』と一応結論まで流れがあったが、海が面倒くさがって結末だけを口にしたため、秋桜はついに隠すことなく嫌な顔をした。
「侑希先輩は関係ないです。家から近いことと、少し偏差値下げて推薦を狙った方が確実だと思ったからです。行事が盛んだったり、真面目な校風がよかったことももちろんありますが……。さすがにこのご時世追っかけで自分の人生決めたりしませんから」
「あぁ、そう……」
強かそうな性格だ。見た目とは裏腹に、確実な選択肢を選んでいくような人間。面白味という観点からすると落第点。
「そろそろ行きますね。先輩、帰るなら早めに帰った方がいいですよ。夕方から雨って天気予報で言ってましたから」
赤色の上履きがかけていく様子を見送り、狭い空を見上げる。確かに言われたように雲は暗い色に変わり、風も冷たくなっている。侑希の元へ行けば必ず仕事はあるだろう。
――今日はいいか。
ふと自分が気まぐれな魔女であったことを思い出す。日本の雨は好きじゃない。
明日以降、頼まれた時に手伝えばいいだろう。
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