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2年生編4月
◆新・文化祭実行委員始動
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誰もが右も左も分からなかった一年生時と比べ、二年生の委員会決めはかなりスムーズに終わった。文化祭実行委員も海と侑希以外に立候補者はおらず――藍子の仕込みである可能性はあるが――無事に侑希との約束は果たすことができた。
行事予定としては、委員会の集会が開催されるのはもう少し後だが、二年生のみが当日の内に前委員長の牧瀬礼奈に呼び出されていた。
「みなさん、忙しい中集まってくれてありがとう。去年の文化祭を体験しているから分かると思うけど、文化祭実行委員はめっちゃくちゃ忙しいです」
一クラス二名ずつ委員に選出されるとすれば、礼奈を除いて十六名が集まっているはずなのだが、この教室には十名ほどしかいない。
「そんなわけで今後のスケジュールも詰めていかなければなりません。私たち三年生はサポートしかできませんし、一年生を加えての集会までに委員長を決めます」
どこからか「今決めるんすか」と面倒くさそうな声があがる。
「今です。基本的に激務になります。生徒会や先生方との連携も多いです。ですから強い希望がない場合は、去年実行委員を務め、かつ今回の集まりに出席している方にしてもらいたいと思っています。忙しい部活動との兼任はおそらく不可能なので、そこらへんも考慮してください。誰かやってくれる方はいらっしゃいますか?」
礼奈の目は完全に侑希を射抜いている。
条件を満たすのが、海と侑希、あとは一人、二人いるかだ。侑希が礼奈と話しているところを海も見ているし、全てはお膳立てされているのだろう。
しかし、それでも笑って侑希は「うみちゃんやれば?」なんて言うから、話はややこしくなる。
「何でそういうこと言う?」
目立ちたくなかったので小声で返すが、元委員長の視線の先では意味をなさなかった。教室中の目が海と侑希を射止め、「あいつらがやってくれるのか?」という雰囲気を醸し出す。
「えーっと宮本さんも若宮さんも昨年実行委員会やってくれてたよね? どう? 今年委員長やってみるのは」
一度海をからかって満足したのか、
「他にやりたい方がいなければ、ぜひわたしにやらせてください」
と侑希は立ち上がる。最初から素直に立候補すれば、海が嫌な汗をかく必要もなかった。
「他に我こそはという人いる?」
礼奈が確認を取るが、誰も名乗り出ない。
「では五組の宮本さんにやってもらおうかな。前に出て一言だけよろしくね」
「じゃあ行ってくるね」と侑希が教壇に立ち、軽く自己紹介をする。外国人の美少女と美少女がいつも二人一緒にいるのだ、侑希を知らない生徒はいないだろう。
「今年も忙しくなっちゃうね」
本当に委員長を決めるだけの会だったようで、侑希の挨拶後はすぐに解散。侑希も礼奈からいくつか指示を受け、五分ほどで全解散になった。
「忙しくなるって分かっているのに楽しそうだね」
「楽しいよ。だってせっかくの文化祭だもの。うみちゃんだってなんだかんだ言っても一緒にやってくれるし、楽しいからじゃないの?」
「うーん、そうだね。まぁ暇つぶしになるし」
「素直じゃないね」
十分素直な気持ちだ。海にとって一瞬のように過ぎ去る時間の中でも、なるべくマンネリ化した過ごし方を避けたいと思っている。今後、また人間として、学生として振る舞う機会があるかは分からないが、忙しい委員会に参加することはもうないだろう。
「うみちゃんにはわたしの両腕としてしっかり働いてもらいますからね」
「両腕!?」
「両足もつけたそうかな~あはは」
「アッシー君やれってこと?」
「生徒会室に書類持って行ってとかはリアルにあるかもね」
後日行われた今年度の委員会の集まりで、海は初めて下級生と顔をあわせることになった。一年前を彷彿させる数々の視線。「二年生の先輩に金髪の人いるって聞いてたけど」「帰国子女って聞いたよ」「うわぁ、目も青い!」なんて話が海の耳には届いてくる。
しばらくぶりの反応に戸惑いたかったが、それよりも侑希だけが多くの人間の前に立ち、委員長として振る舞っている姿に戸惑う。
世話になっているのは海の方だという自覚はもちろんあるが、どうしても親のような気持になってします。これは魔女として、人間に対する情だろう。もちろん魔女が人間に抱く情は愛情などのプラスのものではない。
しかし、大魔女が少女たちに抱いた感情は決してマイナスだけではなかった。
「うみちゃん」
「ん、あ、もう委員会終わった?」
「やーっぱり話聞いてなかったでしょ。もう今年は先輩なんだよ、若宮先輩」
「委員長にパシられるなら、聞かなくてもいいかなぁって」
「よくないよ!」
軽く右頬をつねられる。
「早速お仕事です」
「えぇ、委員会もう終わったじゃん」
「生徒会とも話をしておかないといけないから。代替わり前だけどねー」
生徒会は毎年五月に選出される。とは言っても、メンバーの全員が入れ替わるわけではなく、必ず経験者が会長か副会長に就任するのが習わしらしい。
「私が行く必要ある? 副委員長と行けばいいんじゃない?」
「副委員長は事務仕事はするけど挨拶系は嫌なんだって」
「私もやだなー」
「涼子ちゃんがいるんだからいいでしょ」
袖が伸びる心配などまるでせず、侑希は海が羽織っているジャージを思い切り引っ張る。
――シルヴィアがいるから嫌なんだよ。
生徒会室へ嫌々向かうと、中には同じように無理矢理連れてこられたような現生徒会長の小平藤一郎が、牧瀬礼奈に耳をつままれた状態で座っていた。
そんな二人を無視するように、涼子は大量にある書類とにらめっこをしている。
「あ、来た来た! ほら、とうちゃん。新しい文化祭実行委員の子たちだよ」
「分かったから! その呼び方をやめろ! えーっとさすがに君たちは覚えているよ。宮本さんと若宮さん、今年は頼んだぞ。俺はもうすぐ退任だから、後のことは吉川に任せる!」
礼奈の隙を盗み、あっという間に小平生徒会長は生徒会室の外へと飛び出していく。言い訳のように廊下から残した言葉は「大会近いから! 任せた!」である。大きなため息をついた礼奈も、今回ばかりは彼を追わないようだ。
「やっぱり次は涼子ちゃんが会長やるの?」
小平がいなくなったろころで、やっと涼子が手を止めて腰を上げた。
「決まったわけではありませんわ。会長に立候補もしますし、会長を含めた先輩たちにバックアップはしてもらいますが」
「今のところ吉川さん意外に立候補しそうな人いないから大丈夫だよ」
と礼奈が生徒会長の椅子に座る。
「文化祭実行委員だって宮本さんしか立候補者でなかったし、今年の二年生は大人しいね。まぁ、うちのとうちゃんが目立ちたがり屋なだけなんだけどさ」
「生徒会だなんて、現実は面倒な事務仕事をするだけですから。特に東高みたいな校風だと人気は出辛いでしょう」
「何で涼子は立候補したんだ?」
「海は少し黙っていてください」
涼子も涼子で、海がこの場に来たことは面白くないらしい。
「まぁまぁ、わたしが委員長になって、おそらく涼子ちゃんが生徒会長になるんだろうし、これから文化祭について連携していこうよ。うみちゃんはわたしのパシリだから、どんどん使ってね」
「なっ……!」
「そうですわね。委員会のメンバーであるなら、たくさん手伝ってもらいますわ。もちろん生徒会選挙も」
「あ、そのことなんだけど」
海が文句を言う前に、侑希が遠慮がちに右手を上げる。
「わたしは今回お手伝いができません」
涼子は分かっていたとばかりに涼しい顔をしていたが、海は一人で涼子を手伝うなど聞いていない。
「一年生のあの子、出馬するんですものね」
「さすが涼子ちゃん。情報早いねぇ。うん、アキちゃんが出るからそっちを手伝うことになったの」
「アキ……?」
「ピンクの子ですわ」
「あぁ、あの」
「安心して。さすがにいきなり生徒会長目指すとか言っていたのはちゃんと止めたから!」
見た目だけではなく、中身もそれなりに派手なところがあるようだ。
「……侑希ちゃんが手伝わないなら、私、手伝いたくないんだけど」
なぜ好んで涼子の手伝いをしなければならないのか、前回は侑希がいたから仕方なく手伝っただけだ。
「ふーん。いつも恩を返せとおっしゃるのはそちらですのに、手伝ってくださらない?」
クラス替えのことを暗に言っているのだろう。
「分かった分かった。ビラ配りくらいなら手伝ってやる」
「もう少し働いてもらいたいんですが……まぁ、あなたの容姿が一番インパクトありますからね」
「見た目しか使えないみたいな言い方やめろ」
「今のところそんな立ち位置になっていますけれど。……では、生徒会選挙はお互い頑張りましょうということで、文化祭については予算をある程度こちらで組みますので、そちらは大枠の決定をお願いします」
「りょーかい」
前文化祭実行委員の礼奈が補足をする。
「今回も部活動の参加は、例年通りの吹奏楽部の演奏、軽音部のステージ使用があるね。あとは去年から始まった水球部の催しが今年もあるけれど、大枠も予算も去年に近い形で平気だよ」
生徒会長の机にあった資料を侑希と涼子に渡す。
「吉川さんはすでに読んでいると思うけど、去年の資料だから。念のため家には持って帰らないでね」
そうして次回の日程が取り決められ、もう少し話をすり合わせると侑希と涼子だけが生徒会室に残ることになった。つまり、海は礼奈と二人きりで廊下に出ることとなり気まずい。
「また実行委員やってくれてありがとうね?」
「いえ、先輩たちに比べたら忙しくありませんし……」
「それは去年の話だよー。まぁ私たちも劇やら手伝いやら受験勉強で忙しいけど、若宮さんも十分忙しくなるんだよ」
思わず心の声が表情に出てしまったのだろう。海を見て礼奈が苦笑いをした。
「高校三年間なんて一瞬で消えちゃうから、後悔しないように過ごした方がいいよ」
少し寂しそうに笑うのは、彼女の高校生活が後一年経たずして終わってしまうからだろうか。海にはその気持ちを理解することはできなかった。
行事予定としては、委員会の集会が開催されるのはもう少し後だが、二年生のみが当日の内に前委員長の牧瀬礼奈に呼び出されていた。
「みなさん、忙しい中集まってくれてありがとう。去年の文化祭を体験しているから分かると思うけど、文化祭実行委員はめっちゃくちゃ忙しいです」
一クラス二名ずつ委員に選出されるとすれば、礼奈を除いて十六名が集まっているはずなのだが、この教室には十名ほどしかいない。
「そんなわけで今後のスケジュールも詰めていかなければなりません。私たち三年生はサポートしかできませんし、一年生を加えての集会までに委員長を決めます」
どこからか「今決めるんすか」と面倒くさそうな声があがる。
「今です。基本的に激務になります。生徒会や先生方との連携も多いです。ですから強い希望がない場合は、去年実行委員を務め、かつ今回の集まりに出席している方にしてもらいたいと思っています。忙しい部活動との兼任はおそらく不可能なので、そこらへんも考慮してください。誰かやってくれる方はいらっしゃいますか?」
礼奈の目は完全に侑希を射抜いている。
条件を満たすのが、海と侑希、あとは一人、二人いるかだ。侑希が礼奈と話しているところを海も見ているし、全てはお膳立てされているのだろう。
しかし、それでも笑って侑希は「うみちゃんやれば?」なんて言うから、話はややこしくなる。
「何でそういうこと言う?」
目立ちたくなかったので小声で返すが、元委員長の視線の先では意味をなさなかった。教室中の目が海と侑希を射止め、「あいつらがやってくれるのか?」という雰囲気を醸し出す。
「えーっと宮本さんも若宮さんも昨年実行委員会やってくれてたよね? どう? 今年委員長やってみるのは」
一度海をからかって満足したのか、
「他にやりたい方がいなければ、ぜひわたしにやらせてください」
と侑希は立ち上がる。最初から素直に立候補すれば、海が嫌な汗をかく必要もなかった。
「他に我こそはという人いる?」
礼奈が確認を取るが、誰も名乗り出ない。
「では五組の宮本さんにやってもらおうかな。前に出て一言だけよろしくね」
「じゃあ行ってくるね」と侑希が教壇に立ち、軽く自己紹介をする。外国人の美少女と美少女がいつも二人一緒にいるのだ、侑希を知らない生徒はいないだろう。
「今年も忙しくなっちゃうね」
本当に委員長を決めるだけの会だったようで、侑希の挨拶後はすぐに解散。侑希も礼奈からいくつか指示を受け、五分ほどで全解散になった。
「忙しくなるって分かっているのに楽しそうだね」
「楽しいよ。だってせっかくの文化祭だもの。うみちゃんだってなんだかんだ言っても一緒にやってくれるし、楽しいからじゃないの?」
「うーん、そうだね。まぁ暇つぶしになるし」
「素直じゃないね」
十分素直な気持ちだ。海にとって一瞬のように過ぎ去る時間の中でも、なるべくマンネリ化した過ごし方を避けたいと思っている。今後、また人間として、学生として振る舞う機会があるかは分からないが、忙しい委員会に参加することはもうないだろう。
「うみちゃんにはわたしの両腕としてしっかり働いてもらいますからね」
「両腕!?」
「両足もつけたそうかな~あはは」
「アッシー君やれってこと?」
「生徒会室に書類持って行ってとかはリアルにあるかもね」
後日行われた今年度の委員会の集まりで、海は初めて下級生と顔をあわせることになった。一年前を彷彿させる数々の視線。「二年生の先輩に金髪の人いるって聞いてたけど」「帰国子女って聞いたよ」「うわぁ、目も青い!」なんて話が海の耳には届いてくる。
しばらくぶりの反応に戸惑いたかったが、それよりも侑希だけが多くの人間の前に立ち、委員長として振る舞っている姿に戸惑う。
世話になっているのは海の方だという自覚はもちろんあるが、どうしても親のような気持になってします。これは魔女として、人間に対する情だろう。もちろん魔女が人間に抱く情は愛情などのプラスのものではない。
しかし、大魔女が少女たちに抱いた感情は決してマイナスだけではなかった。
「うみちゃん」
「ん、あ、もう委員会終わった?」
「やーっぱり話聞いてなかったでしょ。もう今年は先輩なんだよ、若宮先輩」
「委員長にパシられるなら、聞かなくてもいいかなぁって」
「よくないよ!」
軽く右頬をつねられる。
「早速お仕事です」
「えぇ、委員会もう終わったじゃん」
「生徒会とも話をしておかないといけないから。代替わり前だけどねー」
生徒会は毎年五月に選出される。とは言っても、メンバーの全員が入れ替わるわけではなく、必ず経験者が会長か副会長に就任するのが習わしらしい。
「私が行く必要ある? 副委員長と行けばいいんじゃない?」
「副委員長は事務仕事はするけど挨拶系は嫌なんだって」
「私もやだなー」
「涼子ちゃんがいるんだからいいでしょ」
袖が伸びる心配などまるでせず、侑希は海が羽織っているジャージを思い切り引っ張る。
――シルヴィアがいるから嫌なんだよ。
生徒会室へ嫌々向かうと、中には同じように無理矢理連れてこられたような現生徒会長の小平藤一郎が、牧瀬礼奈に耳をつままれた状態で座っていた。
そんな二人を無視するように、涼子は大量にある書類とにらめっこをしている。
「あ、来た来た! ほら、とうちゃん。新しい文化祭実行委員の子たちだよ」
「分かったから! その呼び方をやめろ! えーっとさすがに君たちは覚えているよ。宮本さんと若宮さん、今年は頼んだぞ。俺はもうすぐ退任だから、後のことは吉川に任せる!」
礼奈の隙を盗み、あっという間に小平生徒会長は生徒会室の外へと飛び出していく。言い訳のように廊下から残した言葉は「大会近いから! 任せた!」である。大きなため息をついた礼奈も、今回ばかりは彼を追わないようだ。
「やっぱり次は涼子ちゃんが会長やるの?」
小平がいなくなったろころで、やっと涼子が手を止めて腰を上げた。
「決まったわけではありませんわ。会長に立候補もしますし、会長を含めた先輩たちにバックアップはしてもらいますが」
「今のところ吉川さん意外に立候補しそうな人いないから大丈夫だよ」
と礼奈が生徒会長の椅子に座る。
「文化祭実行委員だって宮本さんしか立候補者でなかったし、今年の二年生は大人しいね。まぁ、うちのとうちゃんが目立ちたがり屋なだけなんだけどさ」
「生徒会だなんて、現実は面倒な事務仕事をするだけですから。特に東高みたいな校風だと人気は出辛いでしょう」
「何で涼子は立候補したんだ?」
「海は少し黙っていてください」
涼子も涼子で、海がこの場に来たことは面白くないらしい。
「まぁまぁ、わたしが委員長になって、おそらく涼子ちゃんが生徒会長になるんだろうし、これから文化祭について連携していこうよ。うみちゃんはわたしのパシリだから、どんどん使ってね」
「なっ……!」
「そうですわね。委員会のメンバーであるなら、たくさん手伝ってもらいますわ。もちろん生徒会選挙も」
「あ、そのことなんだけど」
海が文句を言う前に、侑希が遠慮がちに右手を上げる。
「わたしは今回お手伝いができません」
涼子は分かっていたとばかりに涼しい顔をしていたが、海は一人で涼子を手伝うなど聞いていない。
「一年生のあの子、出馬するんですものね」
「さすが涼子ちゃん。情報早いねぇ。うん、アキちゃんが出るからそっちを手伝うことになったの」
「アキ……?」
「ピンクの子ですわ」
「あぁ、あの」
「安心して。さすがにいきなり生徒会長目指すとか言っていたのはちゃんと止めたから!」
見た目だけではなく、中身もそれなりに派手なところがあるようだ。
「……侑希ちゃんが手伝わないなら、私、手伝いたくないんだけど」
なぜ好んで涼子の手伝いをしなければならないのか、前回は侑希がいたから仕方なく手伝っただけだ。
「ふーん。いつも恩を返せとおっしゃるのはそちらですのに、手伝ってくださらない?」
クラス替えのことを暗に言っているのだろう。
「分かった分かった。ビラ配りくらいなら手伝ってやる」
「もう少し働いてもらいたいんですが……まぁ、あなたの容姿が一番インパクトありますからね」
「見た目しか使えないみたいな言い方やめろ」
「今のところそんな立ち位置になっていますけれど。……では、生徒会選挙はお互い頑張りましょうということで、文化祭については予算をある程度こちらで組みますので、そちらは大枠の決定をお願いします」
「りょーかい」
前文化祭実行委員の礼奈が補足をする。
「今回も部活動の参加は、例年通りの吹奏楽部の演奏、軽音部のステージ使用があるね。あとは去年から始まった水球部の催しが今年もあるけれど、大枠も予算も去年に近い形で平気だよ」
生徒会長の机にあった資料を侑希と涼子に渡す。
「吉川さんはすでに読んでいると思うけど、去年の資料だから。念のため家には持って帰らないでね」
そうして次回の日程が取り決められ、もう少し話をすり合わせると侑希と涼子だけが生徒会室に残ることになった。つまり、海は礼奈と二人きりで廊下に出ることとなり気まずい。
「また実行委員やってくれてありがとうね?」
「いえ、先輩たちに比べたら忙しくありませんし……」
「それは去年の話だよー。まぁ私たちも劇やら手伝いやら受験勉強で忙しいけど、若宮さんも十分忙しくなるんだよ」
思わず心の声が表情に出てしまったのだろう。海を見て礼奈が苦笑いをした。
「高校三年間なんて一瞬で消えちゃうから、後悔しないように過ごした方がいいよ」
少し寂しそうに笑うのは、彼女の高校生活が後一年経たずして終わってしまうからだろうか。海にはその気持ちを理解することはできなかった。
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