11 / 54
1年生編6月
◆生徒会との協力関係
しおりを挟む
「はーい、お邪魔します。バ会長いる?」
生徒会室には行き慣れているらしく、礼奈は戸惑うことなく室内へ入っていく。
「会長は本日もバスケ部の方に参加されてますわ」
涼子の声が聞こえてきたので、海と侑希も顔を覗かせる。
「あら、珍しいですわね。何か御用でも?」
「吉川さんの知り合い? それならちょーどよかった! 私もさ、委員会の仕事残ってるから対応よろしく! じゃっ」
「こちらも忙しいというのに……。お二人共、そんなところにいないで中へどうぞ入ってくださいまし」
「「お邪魔しまーす」」
生徒会室というだけで入りづらくなるのはなぜだろうか。もしかして涼子が魔除けの結界でも張っているのではと疑う。
「あのね、涼子ちゃん。わたしたちのクラスで喫茶店をやるんだけどね」
「カイに合うメイド服を作れってことですわね」
「ちげーよ」
「それは別途相談という形で……」
「いやいやいや。侑希さん?」
「調理室を借りたいからその申請をしたくて、牧瀬先輩に連れてきてもらったの」
「あぁ、調理室。大丈夫ですわ。こちらの書類に必要事項記入してくださる? 細かいメニューとかは分からなければ空欄で問題ありませんわ」
「ありがとう」
侑希が記入中、海はやることがない。生徒会室を見回してみることにした。
広さは普通教室の半分とあまり広くはない。壁は全て鍵付きキャビネットで埋まっており、中には資料らしきものがある。
長机が二つに折り畳み椅子が六つ。生徒たちの長であるはずだが、特別扱いはないらしい。強いて言うならケトルがある。
「外人なんですか?」
隅っこから女子生徒が出てくる。学年色は緑、一つ上だ。
「や、ハーフで……」
「ハーフ! でも綺麗。うちにミスコンがあれば間違いなく優勝だね」
「副会長、カイのことからかってる暇があるなら去年の文化祭資料を集めてほしいのですわ」
「あー、そうだった。どこにしまったっけね」
人口密度高めの部屋のドアが開く。数学教諭の大坪だ。
「文化祭資料なら窓側の赤いシールが貼ってある引き出しだ」
「おおちゃんさっすがー!」
「こら、僕は君たちの先生で顧問だぞ。ちゃんと先生をつけなさい」
「おおちゃん先生♪」
「お前な、副会長になった自覚持てよな」
賑やかな空間だ。カリカリ言っていたボールペンの音は止まったが、窓際の攻防は続いている。
「書けたよ」
「では受け取りまして……」
長めのスカートを引っ掛けることもせずに立ち上がり、
「おおちゃん、一年七組からの申請書ですわ。大至急でハンコをもらってきてくださいな」
「申請書? ああ、調理室ね」
黒い目を細めて、記入項目の確認を行う。
「よし、じゃあ持っていくから……他にはないよな?」
「ないですわ」
「やー吉川が入ってくれて助かるわー。二年生ポンコツばかりだからな」
「ひどい! パワハラだ!」
「お前は去年も生徒会だったんだから、資料の場所くらい覚えてろ! 小平とは未だに会ってねぇしよ……。あとお前ら数学の勉強もちゃんと」
「はいはい。とりあえずハンコお願いしまーす!」
涼子が小言が長い男の背中を無理矢理押し、再び静寂が訪れる。
「涼子ちゃんって先生と仲良しなんだね」
「おおちゃん? 私の担任ですので」
クラス担任、生徒会顧問だなんて都合の良いことをするものだと内心溜息をつきたくなったが、我慢することにした。
「ついでにあなたたちにはこちらもお渡ししておきます」
昨年の文化祭のしおりだ。
「侑希は去年来ているようですから必要ないかもしれませんが、クラスで参考になればと思いまして。理想は近年の出し物と被らないものがいいですわ」
「そうゆうものなんだ」
受け取ったB6サイズのしおりを適当にめくる。絵が上手いところは目を引くものの、そうでなければ見向きもしない。
「せっかく考えたものを後輩に真似をされたら、先輩方もいい気はしないでしょう。下手に小言言われたくないならオリジナルでお願いしますわ」
「そういえば去年ってメイド喫茶あったよねー」
侑希がページを数枚めくる。
「これ。わたし行ってないんだけどね」
きっとイラストの得意なメンバーがいなかったんだ。可哀想に。そんな画力である。
「そのしおりをまとめあげるのも委員会の仕事ですから、頑張ってくださいね」
「こんなのもやるのか……」
やること、やらなければならないことが多過ぎて目が回りそうだ。ほとんどが他人の進行度に左右されるという点も、海には耐え難い。
「うみちゃん、忙しかったら言ってね」
今この部屋にいるメンバーの中で、一番の暇人は海だ。侑希にとっては嫌味ではなくても、涼子にはウケたようで、
「侑希は本当にいい子なんですわね」
と笑っていた。
――侑希ちゃんこそ、百年しかない人生なんだから私なんかに気を使わないで、やりたいことをやってくれ。
海は大体のことを見てきた。やりたいことは体験してきた。これからも侑希の何十倍と時間がある。学校生活にしたって、満足いかなければ涼子のように何度も繰り返せばいい。
「ほら、二人共、用が済んだのでしたら戻った方がいいですわよ。調理室の件は、認可され次第こちらからご連絡します」
「りょーかい。涼子ちゃん、いろいろありがとう。またね」
海も軽く手だけ振り、生徒会室を後にした。
生徒会室には行き慣れているらしく、礼奈は戸惑うことなく室内へ入っていく。
「会長は本日もバスケ部の方に参加されてますわ」
涼子の声が聞こえてきたので、海と侑希も顔を覗かせる。
「あら、珍しいですわね。何か御用でも?」
「吉川さんの知り合い? それならちょーどよかった! 私もさ、委員会の仕事残ってるから対応よろしく! じゃっ」
「こちらも忙しいというのに……。お二人共、そんなところにいないで中へどうぞ入ってくださいまし」
「「お邪魔しまーす」」
生徒会室というだけで入りづらくなるのはなぜだろうか。もしかして涼子が魔除けの結界でも張っているのではと疑う。
「あのね、涼子ちゃん。わたしたちのクラスで喫茶店をやるんだけどね」
「カイに合うメイド服を作れってことですわね」
「ちげーよ」
「それは別途相談という形で……」
「いやいやいや。侑希さん?」
「調理室を借りたいからその申請をしたくて、牧瀬先輩に連れてきてもらったの」
「あぁ、調理室。大丈夫ですわ。こちらの書類に必要事項記入してくださる? 細かいメニューとかは分からなければ空欄で問題ありませんわ」
「ありがとう」
侑希が記入中、海はやることがない。生徒会室を見回してみることにした。
広さは普通教室の半分とあまり広くはない。壁は全て鍵付きキャビネットで埋まっており、中には資料らしきものがある。
長机が二つに折り畳み椅子が六つ。生徒たちの長であるはずだが、特別扱いはないらしい。強いて言うならケトルがある。
「外人なんですか?」
隅っこから女子生徒が出てくる。学年色は緑、一つ上だ。
「や、ハーフで……」
「ハーフ! でも綺麗。うちにミスコンがあれば間違いなく優勝だね」
「副会長、カイのことからかってる暇があるなら去年の文化祭資料を集めてほしいのですわ」
「あー、そうだった。どこにしまったっけね」
人口密度高めの部屋のドアが開く。数学教諭の大坪だ。
「文化祭資料なら窓側の赤いシールが貼ってある引き出しだ」
「おおちゃんさっすがー!」
「こら、僕は君たちの先生で顧問だぞ。ちゃんと先生をつけなさい」
「おおちゃん先生♪」
「お前な、副会長になった自覚持てよな」
賑やかな空間だ。カリカリ言っていたボールペンの音は止まったが、窓際の攻防は続いている。
「書けたよ」
「では受け取りまして……」
長めのスカートを引っ掛けることもせずに立ち上がり、
「おおちゃん、一年七組からの申請書ですわ。大至急でハンコをもらってきてくださいな」
「申請書? ああ、調理室ね」
黒い目を細めて、記入項目の確認を行う。
「よし、じゃあ持っていくから……他にはないよな?」
「ないですわ」
「やー吉川が入ってくれて助かるわー。二年生ポンコツばかりだからな」
「ひどい! パワハラだ!」
「お前は去年も生徒会だったんだから、資料の場所くらい覚えてろ! 小平とは未だに会ってねぇしよ……。あとお前ら数学の勉強もちゃんと」
「はいはい。とりあえずハンコお願いしまーす!」
涼子が小言が長い男の背中を無理矢理押し、再び静寂が訪れる。
「涼子ちゃんって先生と仲良しなんだね」
「おおちゃん? 私の担任ですので」
クラス担任、生徒会顧問だなんて都合の良いことをするものだと内心溜息をつきたくなったが、我慢することにした。
「ついでにあなたたちにはこちらもお渡ししておきます」
昨年の文化祭のしおりだ。
「侑希は去年来ているようですから必要ないかもしれませんが、クラスで参考になればと思いまして。理想は近年の出し物と被らないものがいいですわ」
「そうゆうものなんだ」
受け取ったB6サイズのしおりを適当にめくる。絵が上手いところは目を引くものの、そうでなければ見向きもしない。
「せっかく考えたものを後輩に真似をされたら、先輩方もいい気はしないでしょう。下手に小言言われたくないならオリジナルでお願いしますわ」
「そういえば去年ってメイド喫茶あったよねー」
侑希がページを数枚めくる。
「これ。わたし行ってないんだけどね」
きっとイラストの得意なメンバーがいなかったんだ。可哀想に。そんな画力である。
「そのしおりをまとめあげるのも委員会の仕事ですから、頑張ってくださいね」
「こんなのもやるのか……」
やること、やらなければならないことが多過ぎて目が回りそうだ。ほとんどが他人の進行度に左右されるという点も、海には耐え難い。
「うみちゃん、忙しかったら言ってね」
今この部屋にいるメンバーの中で、一番の暇人は海だ。侑希にとっては嫌味ではなくても、涼子にはウケたようで、
「侑希は本当にいい子なんですわね」
と笑っていた。
――侑希ちゃんこそ、百年しかない人生なんだから私なんかに気を使わないで、やりたいことをやってくれ。
海は大体のことを見てきた。やりたいことは体験してきた。これからも侑希の何十倍と時間がある。学校生活にしたって、満足いかなければ涼子のように何度も繰り返せばいい。
「ほら、二人共、用が済んだのでしたら戻った方がいいですわよ。調理室の件は、認可され次第こちらからご連絡します」
「りょーかい。涼子ちゃん、いろいろありがとう。またね」
海も軽く手だけ振り、生徒会室を後にした。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる