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第八話 生贄の行方
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プリメラが経緯を説明する間に、ブリジットは二つ目の果実も平らげ満足げに息を吐き出した。
「なるほど。本当にプリメラは相変わらずね」
その相変わらずには『ブラコン』と『無鉄砲』が入るに違いない。
「何故このようなところに?」
ロードの疑問に、ブリジットはなんということもないように答えた。
「そりゃあ生贄としてこの岩山に置いて行かれたからよ」
それはわかるのだが。
何故生きているのか。生きているのなら何故城に戻らなかったのか。
疑問が晴れない顔をしているロードに、ブリジットはまだわからない? というように続けた。
「魔王はまだ封印されてるんだから、生贄になにかあるわけないじゃない」
確かに。
言われてみればその通りだ。
「だったら、何故国は長年生贄なんてものを」
「パフォーマンスよ。いつまでも魔物を一掃できず、被害を抑えることのできない国への不満を逸らすためのね」
「そんなことのために、か――?」
「そんなことのために、よ」
そのために生贄にされた王女と、生贄にされる予定だった王女が二人そろって頷く。
国とは何か。政治とは何か。
そんなことを考え始めたロードに、ブリジットは肩をすくめてみせた。
「当時の王家が占い師に頼ったのだって、何も手立てがないから、やれることをやっていると見せるためでしょう。その結果生贄なんて言い出されて、引くに引けなくなって。それがこの時代まで続いてきたんだから、ホント馬鹿馬鹿しいわ」
「しかし、生き延びていたとは……」
「恐れるべきは魔物だけど、ご丁寧に魔王が封印されている岩のすぐ傍まで騎士たちが守って来てくれたし。気まずげにさっさと帰っちゃったけど、この辺りは魔王を恐れて魔物も近づかないみたいで何も起きないし」
「その食糧はどこから?」
傍に転がる茶色の大きな種は、ブリジットが先程かじりついていたものだ。
ブリジットが指を上に向け、それを目で追ったロードはすぐに答えを知った。
そこにはぽっかりと穴が開いていて、木の枝が張り出しているのが見えたのだ。
「あそこから地上に出られるのか?」
「最初はよじ登るのにも苦労したけどね。岩山に囲まれた小さな盆地になっていて、木の実も川もあるの。結局この岩山の中が一番安全だっていうのは皮肉ね」
この辺りはいくつかの岩山が連なっている。
それを越えるのはかなり厳しいだろう。
来た道を戻るにも、プリメラのように鍛えているのでもなければ無理だ。
結局ここでこうして生き延びるほかなかったのだろう。
ロードは顔を暗くしたが、ふと気が付いて疑問を口にした。
「確か今代は生贄にされた王女が二人いたはずでは」
「ああ。イザベラお姉様は魔物狩りに来た傭兵のジョーイについて出てったわ」
あっさりとした答えに、ロードは目を見開いた。
しかし王女二人の会話はかまわず続く。
「この間、イザベラお姉様からこっそりお手紙が届きましたわ」
「本当に? ああよかった、無事に出られたのね」
「ええ。男の子が生まれて、上の女の子二人がかわいがってくれてると書いてありましたわ」
それでプリメラは二人が無事でいることを知ったのかと納得した。
道もそこから知ったのだろう。
しかし、プリメラは力なく肩を落とした。
「私が依頼した傭兵たちはみんな戻らなかったわ。前金だけで十分だと逃亡されたのか、命を落としてしまったのかはわからないけれど……」
「だったら、イザベラ王女殿下と一緒にブリジット王女殿下も外に出ればよかったのでは」
思わずロードが呟くと、ブリジットは苦笑した。
「無理よ。ジョーイはその時既にぼろぼろで、魔物から逃げて私たちのところに転がり込んできたのだもの。傷が癒えても、来たのと同じ道を戻るのだから、お姉様どころかジョーイ一人だって無事に出られるかわからなかった。そんな危ない橋は渡りたくない。だから私はついていかなかったの。罠を張って鳥を捕まえるやり方もお姉様から教わっていたし、ここが一番安全だもの」
「他には誰も?」
「その後も何人か来たけど、外に連れ出してやると言われたって、十二歳の子供が知らない親父についていくほうが怖いわ」
確かに。外に出られたところでその先どうなるかがわからないし、対等に渡り合えるわけもない。
「だからお姉様たちを助けに行ってくれる人材を私が厳選して送り込んだのだけれど、やっぱり人に頼るのは不確実だって身をもって知ったわ。だから私、鍛えに鍛えて、ブリジットお姉様を迎えに来たの。今度こそ、一緒にここを出ましょう」
「ありがとう。そうね。ここでの暮らしにも飽きたところだし。プリメラも、ここまでほとんど傷もなく辿り着けたなんて、本当に強くなったのね」
嬉しそうにはにかむプリメラを見つめ、ブリジットは少しだけ笑みを浮かべた。
「ただし。城には戻らないわ」
「なぜ?」
思わず訊ねたロードに、ブリジットは肩をすくめてみせた。
「子供を生贄に差し出す親のところに戻りたいと思うわけがないでしょ?」
返す言葉もない。
「大丈夫よ。そう言うと思って、イザベラお姉様の近くに家を借りてあるの」
「ありがとう。ひとまずそこで暮らしを整えて、私なりの生き方を見つけるとするわ」
プリメラは少しだけ寂しそうに笑って、頷いた。
それからプリメラは立ち上がった。
「じゃあ、少しそこで待ってて。魔王を滅ぼしてくるから」
「なるほど。本当にプリメラは相変わらずね」
その相変わらずには『ブラコン』と『無鉄砲』が入るに違いない。
「何故このようなところに?」
ロードの疑問に、ブリジットはなんということもないように答えた。
「そりゃあ生贄としてこの岩山に置いて行かれたからよ」
それはわかるのだが。
何故生きているのか。生きているのなら何故城に戻らなかったのか。
疑問が晴れない顔をしているロードに、ブリジットはまだわからない? というように続けた。
「魔王はまだ封印されてるんだから、生贄になにかあるわけないじゃない」
確かに。
言われてみればその通りだ。
「だったら、何故国は長年生贄なんてものを」
「パフォーマンスよ。いつまでも魔物を一掃できず、被害を抑えることのできない国への不満を逸らすためのね」
「そんなことのために、か――?」
「そんなことのために、よ」
そのために生贄にされた王女と、生贄にされる予定だった王女が二人そろって頷く。
国とは何か。政治とは何か。
そんなことを考え始めたロードに、ブリジットは肩をすくめてみせた。
「当時の王家が占い師に頼ったのだって、何も手立てがないから、やれることをやっていると見せるためでしょう。その結果生贄なんて言い出されて、引くに引けなくなって。それがこの時代まで続いてきたんだから、ホント馬鹿馬鹿しいわ」
「しかし、生き延びていたとは……」
「恐れるべきは魔物だけど、ご丁寧に魔王が封印されている岩のすぐ傍まで騎士たちが守って来てくれたし。気まずげにさっさと帰っちゃったけど、この辺りは魔王を恐れて魔物も近づかないみたいで何も起きないし」
「その食糧はどこから?」
傍に転がる茶色の大きな種は、ブリジットが先程かじりついていたものだ。
ブリジットが指を上に向け、それを目で追ったロードはすぐに答えを知った。
そこにはぽっかりと穴が開いていて、木の枝が張り出しているのが見えたのだ。
「あそこから地上に出られるのか?」
「最初はよじ登るのにも苦労したけどね。岩山に囲まれた小さな盆地になっていて、木の実も川もあるの。結局この岩山の中が一番安全だっていうのは皮肉ね」
この辺りはいくつかの岩山が連なっている。
それを越えるのはかなり厳しいだろう。
来た道を戻るにも、プリメラのように鍛えているのでもなければ無理だ。
結局ここでこうして生き延びるほかなかったのだろう。
ロードは顔を暗くしたが、ふと気が付いて疑問を口にした。
「確か今代は生贄にされた王女が二人いたはずでは」
「ああ。イザベラお姉様は魔物狩りに来た傭兵のジョーイについて出てったわ」
あっさりとした答えに、ロードは目を見開いた。
しかし王女二人の会話はかまわず続く。
「この間、イザベラお姉様からこっそりお手紙が届きましたわ」
「本当に? ああよかった、無事に出られたのね」
「ええ。男の子が生まれて、上の女の子二人がかわいがってくれてると書いてありましたわ」
それでプリメラは二人が無事でいることを知ったのかと納得した。
道もそこから知ったのだろう。
しかし、プリメラは力なく肩を落とした。
「私が依頼した傭兵たちはみんな戻らなかったわ。前金だけで十分だと逃亡されたのか、命を落としてしまったのかはわからないけれど……」
「だったら、イザベラ王女殿下と一緒にブリジット王女殿下も外に出ればよかったのでは」
思わずロードが呟くと、ブリジットは苦笑した。
「無理よ。ジョーイはその時既にぼろぼろで、魔物から逃げて私たちのところに転がり込んできたのだもの。傷が癒えても、来たのと同じ道を戻るのだから、お姉様どころかジョーイ一人だって無事に出られるかわからなかった。そんな危ない橋は渡りたくない。だから私はついていかなかったの。罠を張って鳥を捕まえるやり方もお姉様から教わっていたし、ここが一番安全だもの」
「他には誰も?」
「その後も何人か来たけど、外に連れ出してやると言われたって、十二歳の子供が知らない親父についていくほうが怖いわ」
確かに。外に出られたところでその先どうなるかがわからないし、対等に渡り合えるわけもない。
「だからお姉様たちを助けに行ってくれる人材を私が厳選して送り込んだのだけれど、やっぱり人に頼るのは不確実だって身をもって知ったわ。だから私、鍛えに鍛えて、ブリジットお姉様を迎えに来たの。今度こそ、一緒にここを出ましょう」
「ありがとう。そうね。ここでの暮らしにも飽きたところだし。プリメラも、ここまでほとんど傷もなく辿り着けたなんて、本当に強くなったのね」
嬉しそうにはにかむプリメラを見つめ、ブリジットは少しだけ笑みを浮かべた。
「ただし。城には戻らないわ」
「なぜ?」
思わず訊ねたロードに、ブリジットは肩をすくめてみせた。
「子供を生贄に差し出す親のところに戻りたいと思うわけがないでしょ?」
返す言葉もない。
「大丈夫よ。そう言うと思って、イザベラお姉様の近くに家を借りてあるの」
「ありがとう。ひとまずそこで暮らしを整えて、私なりの生き方を見つけるとするわ」
プリメラは少しだけ寂しそうに笑って、頷いた。
それからプリメラは立ち上がった。
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