呪いの騎士と生贄の王女

佐崎咲

文字の大きさ
上 下
9 / 16

第八話 生贄の行方

しおりを挟む
 プリメラが経緯を説明する間に、ブリジットは二つ目の果実も平らげ満足げに息を吐き出した。

「なるほど。本当にプリメラは相変わらずね」

 その相変わらずには『ブラコン』と『無鉄砲』が入るに違いない。

「何故このようなところに?」

 ロードの疑問に、ブリジットはなんということもないように答えた。

「そりゃあ生贄としてこの岩山に置いて行かれたからよ」

 それはわかるのだが。
 何故生きているのか。生きているのなら何故城に戻らなかったのか。
 疑問が晴れない顔をしているロードに、ブリジットはまだわからない? というように続けた。

「魔王はまだ封印されてるんだから、生贄になにかあるわけないじゃない」

 確かに。
 言われてみればその通りだ。

「だったら、何故国は長年生贄なんてものを」
「パフォーマンスよ。いつまでも魔物を一掃できず、被害を抑えることのできない国への不満を逸らすためのね」
「そんなことのために、か――?」
「そんなことのために、よ」

 そのために生贄にされた王女と、生贄にされる予定だった王女が二人そろって頷く。
 国とは何か。政治とは何か。
 そんなことを考え始めたロードに、ブリジットは肩をすくめてみせた。

「当時の王家が占い師に頼ったのだって、何も手立てがないから、やれることをやっていると見せるためでしょう。その結果生贄なんて言い出されて、引くに引けなくなって。それがこの時代まで続いてきたんだから、ホント馬鹿馬鹿しいわ」
「しかし、生き延びていたとは……」
「恐れるべきは魔物だけど、ご丁寧に魔王が封印されている岩のすぐ傍まで騎士たちが守って来てくれたし。気まずげにさっさと帰っちゃったけど、この辺りは魔王を恐れて魔物も近づかないみたいで何も起きないし」
「その食糧はどこから?」

 傍に転がる茶色の大きな種は、ブリジットが先程かじりついていたものだ。
 ブリジットが指を上に向け、それを目で追ったロードはすぐに答えを知った。
 そこにはぽっかりと穴が開いていて、木の枝が張り出しているのが見えたのだ。

「あそこから地上に出られるのか?」
「最初はよじ登るのにも苦労したけどね。岩山に囲まれた小さな盆地になっていて、木の実も川もあるの。結局この岩山の中が一番安全だっていうのは皮肉ね」

 この辺りはいくつかの岩山が連なっている。
 それを越えるのはかなり厳しいだろう。
 来た道を戻るにも、プリメラのように鍛えているのでもなければ無理だ。
 結局ここでこうして生き延びるほかなかったのだろう。
 ロードは顔を暗くしたが、ふと気が付いて疑問を口にした。

「確か今代は生贄にされた王女が二人いたはずでは」
「ああ。イザベラお姉様は魔物狩りに来た傭兵のジョーイについて出てったわ」

 あっさりとした答えに、ロードは目を見開いた。
 しかし王女二人の会話はかまわず続く。

「この間、イザベラお姉様からこっそりお手紙が届きましたわ」
「本当に? ああよかった、無事に出られたのね」
「ええ。男の子が生まれて、上の女の子二人がかわいがってくれてると書いてありましたわ」

 それでプリメラは二人が無事でいることを知ったのかと納得した。
 道もそこから知ったのだろう。
 しかし、プリメラは力なく肩を落とした。

「私が依頼した傭兵たちはみんな戻らなかったわ。前金だけで十分だと逃亡されたのか、命を落としてしまったのかはわからないけれど……」
「だったら、イザベラ王女殿下と一緒にブリジット王女殿下も外に出ればよかったのでは」

 思わずロードが呟くと、ブリジットは苦笑した。

「無理よ。ジョーイはその時既にぼろぼろで、魔物から逃げて私たちのところに転がり込んできたのだもの。傷が癒えても、来たのと同じ道を戻るのだから、お姉様どころかジョーイ一人だって無事に出られるかわからなかった。そんな危ない橋は渡りたくない。だから私はついていかなかったの。罠を張って鳥を捕まえるやり方もお姉様から教わっていたし、ここが一番安全だもの」
「他には誰も?」
「その後も何人か来たけど、外に連れ出してやると言われたって、十二歳の子供が知らない親父についていくほうが怖いわ」

 確かに。外に出られたところでその先どうなるかがわからないし、対等に渡り合えるわけもない。

「だからお姉様たちを助けに行ってくれる人材を私が厳選して送り込んだのだけれど、やっぱり人に頼るのは不確実だって身をもって知ったわ。だから私、鍛えに鍛えて、ブリジットお姉様を迎えに来たの。今度こそ、一緒にここを出ましょう」
「ありがとう。そうね。ここでの暮らしにも飽きたところだし。プリメラも、ここまでほとんど傷もなく辿り着けたなんて、本当に強くなったのね」

 嬉しそうにはにかむプリメラを見つめ、ブリジットは少しだけ笑みを浮かべた。

「ただし。城には戻らないわ」
「なぜ?」

 思わず訊ねたロードに、ブリジットは肩をすくめてみせた。

「子供を生贄に差し出す親のところに戻りたいと思うわけがないでしょ?」

 返す言葉もない。

「大丈夫よ。そう言うと思って、イザベラお姉様の近くに家を借りてあるの」
「ありがとう。ひとまずそこで暮らしを整えて、私なりの生き方を見つけるとするわ」

 プリメラは少しだけ寂しそうに笑って、頷いた。
 それからプリメラは立ち上がった。

「じゃあ、少しそこで待ってて。魔王を滅ぼしてくるから」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら

夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。  それは極度の面食いということ。  そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。 「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ! だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」  朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい? 「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」  あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?  それをわたしにつける??  じょ、冗談ですよね──!?!?

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

自己肯定感の低い令嬢が策士な騎士の溺愛に絡め取られるまで

嘉月
恋愛
平凡より少し劣る頭の出来と、ぱっとしない容姿。 誰にも望まれず、夜会ではいつも壁の花になる。 でもそんな事、気にしたこともなかった。だって、人と話すのも目立つのも好きではないのだもの。 このまま実家でのんびりと一生を生きていくのだと信じていた。 そんな拗らせ内気令嬢が策士な騎士の罠に掛かるまでの恋物語 執筆済みで完結確約です。

【完結】もったいないですわ!乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢は、今日も生徒会活動に勤しむ~経済を回してる?それってただの無駄遣いですわ!~

鬼ヶ咲あちたん
恋愛
内容も知らない乙女ゲームの世界に転生してしまった悪役令嬢は、ヒロインや攻略対象者たちを放って今日も生徒会活動に勤しむ。もったいないおばけは日本人の心! まだ使える物を捨ててしまうなんて、もったいないですわ! 悪役令嬢が取り組む『もったいない革命』に、だんだん生徒会役員たちは巻き込まれていく。「このゲームのヒロインは私なのよ!?」荒れるヒロインから一方的に恨まれる悪役令嬢はどうなってしまうのか?

サラシがちぎれた男装騎士の私、初恋の陛下に【女体化の呪い】だと勘違いされました。

ゆちば
恋愛
ビリビリッ! 「む……、胸がぁぁぁッ!!」 「陛下、声がでかいです!」 ◆ フェルナン陛下に密かに想いを寄せる私こと、護衛騎士アルヴァロ。 私は女嫌いの陛下のお傍にいるため、男のフリをしていた。 だがある日、黒魔術師の呪いを防いだ際にサラシがちぎれてしまう。 たわわなたわわの存在が顕になり、絶対絶命の私に陛下がかけた言葉は……。 「【女体化の呪い】だ!」 勘違いした陛下と、今度は男→女になったと偽る私の恋の行き着く先は――?! 勢い強めの3万字ラブコメです。 全18話、5/5の昼には完結します。 他のサイトでも公開しています。

聖獣の卵を保護するため、騎士団長と契約結婚いたします。仮の妻なのに、なぜか大切にされすぎていて、溺愛されていると勘違いしてしまいそうです

石河 翠
恋愛
騎士団の食堂で働くエリカは、自宅の庭で聖獣の卵を発見する。 聖獣が大好きなエリカは保護を希望するが、領主に卵を預けるようにと言われてしまった。卵の保護主は、魔力や財力、社会的な地位が重要視されるというのだ。 やけになったエリカは場末の酒場で酔っ払ったあげく、通りすがりの騎士団長に契約結婚してほしいと唐突に泣きつく。すると意外にもその場で承諾されてしまった。 女っ気のない堅物な騎士団長だったはずが、妻となったエリカへの態度は甘く優しいもので、彼女は思わずときめいてしまい……。 素直でまっすぐ一生懸命なヒロインと、実はヒロインにずっと片思いしていた真面目な騎士団長の恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID749781)をお借りしております。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

おいしいご飯をいただいたので~虐げられて育ったわたしですが魔法使いの番に選ばれ大切にされています~

通木遼平
恋愛
 この国には魔法使いと呼ばれる種族がいる。この世界にある魔力を糧に生きる彼らは魔力と魔法以外には基本的に無関心だが、特別な魔力を持つ人間が傍にいるとより強い力を得ることができるため、特に相性のいい相手を番として迎え共に暮らしていた。  家族から虐げられて育ったシルファはそんな魔法使いの番に選ばれたことで魔法使いルガディアークと穏やかでしあわせな日々を送っていた。ところがある日、二人の元に魔法使いと番の交流を目的とした夜会の招待状が届き……。 ※他のサイトにも掲載しています

処理中です...