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第二章
第8話
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―ヘイムート公爵三男ゲイツの取り調べ―
辺境の地は想像していた以上に混沌としていました。
治安が悪いとか乱れているとか、そんなレベルの話ではありません。
拳も刃物も日常的に飛び交っていて、町の人たちはほとんど外に出られない。
生活のため仕方なく開けている店も、略奪にあい、店を開けても閉めても商売にはならない。
町の人たちは逃げ出すにも、逃げ場がない。
町の外に生活できる場所なんてない。
仕方なく息を潜めて事態が鎮静化するのを待つしかない。
ただ、今回私と共に派兵された第二隊隊長はとても腕の立つ方でした。
これで悪逆非道の限りを尽くす輩は一掃できる。
あと少しのところだったのです。
そんな時に、怪我をした少女を見つけました。
戦いに巻き込まれたようでした。
治療班に届けようと歩き出しましたが、その辺りでちょうど争いがありました。
だから彼女を守ろうと、森に逃げ込もうとしました。
「どこへ行くの?」
そう聞かれて、勝手に森に連れ込んでは怖がると気が付きました。
親もいるでしょう。家族がいるでしょう。
ですから家に帰るようにと、そこで手を離しました。
それから私は、足を引っ張らないよう森に潜んでいるべきだと気が付きました。
実力の足りない私を守るために他の騎士団の方の手をわずらわせてはいけない。
そう、そう思ったんです。戦略的撤退だったのです。
ですが森の中でなど暮らしたことがない。
仕方なくそうして隣の町まで行き、宿屋に潜んでいました。
そうしたら、私は逃げたことになっており、公爵家から除籍されたと噂が流れてきました。
絶望しました。
もう帰る場所がないと。
そうして今後どうしたらと考えあぐねる私の元に、手紙が来たんです。
ヘイムート公爵を唆したのはスフィーナだと書かれていました。
彼女はミリーの姉なのだから、彼女も人の事を引きずり下ろすことしか考えていないに違いない。
きっとそれくらいのことはするだろう。
なんて汚い奴なのか。そう思いました。
だがこれまでも彼女はミリーにさんざんな無体を働いておきながら、鉄槌が下されることはなかった。
だから私が、裁きを下してやろうと思ったのです。
騎士団の誇りにかけて。
悪女は私が始末してやらねばと思ったのです。
辺境の地では後れを取ってしまった分、ここで騎士として立たねばと己を奮い立たせました。
黄色いドレスを着ていると書いてありましたから、すぐにわかりましたよ。
ご丁寧に肩には大きな花の飾りまであしらってあるとわかれば、一度しか顔を見ていなくともすぐにわかります。
間違えて他の人を傷つけるわけにはいきませんからね。
え? 手紙ですか?
さあ、誰が書いたものやらわかりません。
字にも特に見覚えはないし、送り主の名はありませんでしたから。
え? そんな手紙、今持っているわけないじゃないですか。
宿屋に置いたままですよ。
なかった?
それなら宿屋の女将がゴミだと思って捨てたのでしょう。
見覚えがないと言っていたと言われても、私だって知りませんよ。
大事な物を捨ててしまったことがバレたら罰を受けると恐れて、女将が嘘をついているのでは?
私の狂言などではありませんよ!
あの手紙がなければ私だってこれほどのことはしようとは思いませんでしたよ。
私の他にも困らされている方がいると思ったから、私は正義の刃をふるったのです。
ねえ。
私は罪ですか?
私は公爵家の人間として、騎士団の人間として、人のためを思い、正義の行動を起こしただけなのに。
……え。
父が責任を取って家督を兄に譲った、ですか。
まさか、あれほど己の地位をおびやかしてくれるなと言っていた父が、まだまだ退くつもりなどなかっただろう父が。
領地の一部も国に返還?
そうですか。
そうですか……。
辺境の地は想像していた以上に混沌としていました。
治安が悪いとか乱れているとか、そんなレベルの話ではありません。
拳も刃物も日常的に飛び交っていて、町の人たちはほとんど外に出られない。
生活のため仕方なく開けている店も、略奪にあい、店を開けても閉めても商売にはならない。
町の人たちは逃げ出すにも、逃げ場がない。
町の外に生活できる場所なんてない。
仕方なく息を潜めて事態が鎮静化するのを待つしかない。
ただ、今回私と共に派兵された第二隊隊長はとても腕の立つ方でした。
これで悪逆非道の限りを尽くす輩は一掃できる。
あと少しのところだったのです。
そんな時に、怪我をした少女を見つけました。
戦いに巻き込まれたようでした。
治療班に届けようと歩き出しましたが、その辺りでちょうど争いがありました。
だから彼女を守ろうと、森に逃げ込もうとしました。
「どこへ行くの?」
そう聞かれて、勝手に森に連れ込んでは怖がると気が付きました。
親もいるでしょう。家族がいるでしょう。
ですから家に帰るようにと、そこで手を離しました。
それから私は、足を引っ張らないよう森に潜んでいるべきだと気が付きました。
実力の足りない私を守るために他の騎士団の方の手をわずらわせてはいけない。
そう、そう思ったんです。戦略的撤退だったのです。
ですが森の中でなど暮らしたことがない。
仕方なくそうして隣の町まで行き、宿屋に潜んでいました。
そうしたら、私は逃げたことになっており、公爵家から除籍されたと噂が流れてきました。
絶望しました。
もう帰る場所がないと。
そうして今後どうしたらと考えあぐねる私の元に、手紙が来たんです。
ヘイムート公爵を唆したのはスフィーナだと書かれていました。
彼女はミリーの姉なのだから、彼女も人の事を引きずり下ろすことしか考えていないに違いない。
きっとそれくらいのことはするだろう。
なんて汚い奴なのか。そう思いました。
だがこれまでも彼女はミリーにさんざんな無体を働いておきながら、鉄槌が下されることはなかった。
だから私が、裁きを下してやろうと思ったのです。
騎士団の誇りにかけて。
悪女は私が始末してやらねばと思ったのです。
辺境の地では後れを取ってしまった分、ここで騎士として立たねばと己を奮い立たせました。
黄色いドレスを着ていると書いてありましたから、すぐにわかりましたよ。
ご丁寧に肩には大きな花の飾りまであしらってあるとわかれば、一度しか顔を見ていなくともすぐにわかります。
間違えて他の人を傷つけるわけにはいきませんからね。
え? 手紙ですか?
さあ、誰が書いたものやらわかりません。
字にも特に見覚えはないし、送り主の名はありませんでしたから。
え? そんな手紙、今持っているわけないじゃないですか。
宿屋に置いたままですよ。
なかった?
それなら宿屋の女将がゴミだと思って捨てたのでしょう。
見覚えがないと言っていたと言われても、私だって知りませんよ。
大事な物を捨ててしまったことがバレたら罰を受けると恐れて、女将が嘘をついているのでは?
私の狂言などではありませんよ!
あの手紙がなければ私だってこれほどのことはしようとは思いませんでしたよ。
私の他にも困らされている方がいると思ったから、私は正義の刃をふるったのです。
ねえ。
私は罪ですか?
私は公爵家の人間として、騎士団の人間として、人のためを思い、正義の行動を起こしただけなのに。
……え。
父が責任を取って家督を兄に譲った、ですか。
まさか、あれほど己の地位をおびやかしてくれるなと言っていた父が、まだまだ退くつもりなどなかっただろう父が。
領地の一部も国に返還?
そうですか。
そうですか……。
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