上 下
17 / 26
第二章

第8話

しおりを挟む
 ―ヘイムート公爵三男ゲイツの取り調べ―



 辺境の地は想像していた以上に混沌としていました。

 治安が悪いとか乱れているとか、そんなレベルの話ではありません。
 拳も刃物も日常的に飛び交っていて、町の人たちはほとんど外に出られない。
 生活のため仕方なく開けている店も、略奪にあい、店を開けても閉めても商売にはならない。

 町の人たちは逃げ出すにも、逃げ場がない。
 町の外に生活できる場所なんてない。
 仕方なく息を潜めて事態が鎮静化するのを待つしかない。

 ただ、今回私と共に派兵された第二隊隊長はとても腕の立つ方でした。
 これで悪逆非道の限りを尽くす輩は一掃できる。
 あと少しのところだったのです。

 そんな時に、怪我をした少女を見つけました。
 戦いに巻き込まれたようでした。
 治療班に届けようと歩き出しましたが、その辺りでちょうど争いがありました。
 だから彼女を守ろうと、森に逃げ込もうとしました。

「どこへ行くの?」

 そう聞かれて、勝手に森に連れ込んでは怖がると気が付きました。
 親もいるでしょう。家族がいるでしょう。
 ですから家に帰るようにと、そこで手を離しました。

 それから私は、足を引っ張らないよう森に潜んでいるべきだと気が付きました。
 実力の足りない私を守るために他の騎士団の方の手をわずらわせてはいけない。
 そう、そう思ったんです。戦略的撤退だったのです。

 ですが森の中でなど暮らしたことがない。
 仕方なくそうして隣の町まで行き、宿屋に潜んでいました。
 そうしたら、私は逃げたことになっており、公爵家から除籍されたと噂が流れてきました。

 絶望しました。
 もう帰る場所がないと。
 そうして今後どうしたらと考えあぐねる私の元に、手紙が来たんです。
 ヘイムート公爵を唆したのはスフィーナだと書かれていました。

 彼女はミリーの姉なのだから、彼女も人の事を引きずり下ろすことしか考えていないに違いない。
 きっとそれくらいのことはするだろう。
 なんて汚い奴なのか。そう思いました。

 だがこれまでも彼女はミリーにさんざんな無体を働いておきながら、鉄槌が下されることはなかった。
 だから私が、裁きを下してやろうと思ったのです。
 騎士団の誇りにかけて。
 悪女は私が始末してやらねばと思ったのです。
 辺境の地では後れを取ってしまった分、ここで騎士として立たねばと己を奮い立たせました。

 黄色いドレスを着ていると書いてありましたから、すぐにわかりましたよ。
 ご丁寧に肩には大きな花の飾りまであしらってあるとわかれば、一度しか顔を見ていなくともすぐにわかります。
 間違えて他の人を傷つけるわけにはいきませんからね。

 え? 手紙ですか?
 さあ、誰が書いたものやらわかりません。
 字にも特に見覚えはないし、送り主の名はありませんでしたから。

 え? そんな手紙、今持っているわけないじゃないですか。
 宿屋に置いたままですよ。

 なかった?
 それなら宿屋の女将がゴミだと思って捨てたのでしょう。
 見覚えがないと言っていたと言われても、私だって知りませんよ。
 大事な物を捨ててしまったことがバレたら罰を受けると恐れて、女将が嘘をついているのでは?

 私の狂言などではありませんよ!
 あの手紙がなければ私だってこれほどのことはしようとは思いませんでしたよ。
 私の他にも困らされている方がいると思ったから、私は正義の刃をふるったのです。

 ねえ。
 私は罪ですか?
 私は公爵家の人間として、騎士団の人間として、人のためを思い、正義の行動を起こしただけなのに。

 ……え。
 父が責任を取って家督を兄に譲った、ですか。
 まさか、あれほど己の地位をおびやかしてくれるなと言っていた父が、まだまだ退くつもりなどなかっただろう父が。
 領地の一部も国に返還?

 そうですか。

 そうですか……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪女と言われ婚約破棄されたので、自由な生活を満喫します

水空 葵
ファンタジー
 貧乏な伯爵家に生まれたレイラ・アルタイスは貴族の中でも珍しく、全部の魔法属性に適性があった。  けれども、嫉妬から悪女という噂を流され、婚約者からは「利用する価値が無くなった」と婚約破棄を告げられた。  おまけに、冤罪を着せられて王都からも追放されてしまう。  婚約者をモノとしか見ていない婚約者にも、自分の利益のためだけで動く令嬢達も関わりたくないわ。  そう決めたレイラは、公爵令息と形だけの結婚を結んで、全ての魔法属性を使えないと作ることが出来ない魔道具を作りながら気ままに過ごす。  けれども、どうやら魔道具は世界を恐怖に陥れる魔物の対策にもなるらしい。  その事を知ったレイラはみんなの助けにしようと魔道具を広めていって、領民達から聖女として崇められるように!?  魔法を神聖視する貴族のことなんて知りません! 私はたくさんの人を幸せにしたいのです! ☆8/27 ファンタジーの24hランキングで2位になりました。  読者の皆様、本当にありがとうございます! ☆10/31 第16回ファンタジー小説大賞で奨励賞を頂きました。  投票や応援、ありがとうございました!

婚約破棄され森に捨てられました。探さないで下さい。

拓海のり
ファンタジー
属性魔法が使えず、役に立たない『自然魔法』だとバカにされていたステラは、婚約者の王太子から婚約破棄された。そして身に覚えのない罪で断罪され、修道院に行く途中で襲われる。他サイトにも投稿しています。

この野菜は悪役令嬢がつくりました!

真鳥カノ
ファンタジー
幼い頃から聖女候補として育った公爵令嬢レティシアは、婚約者である王子から突然、婚約破棄を宣言される。 花や植物に『恵み』を与えるはずの聖女なのに、何故か花を枯らしてしまったレティシアは「偽聖女」とまで呼ばれ、どん底に落ちる。 だけどレティシアの力には秘密があって……? せっかくだからのんびり花や野菜でも育てようとするレティシアは、どこでもやらかす……! レティシアの力を巡って動き出す陰謀……? 色々起こっているけれど、私は今日も野菜を作ったり食べたり忙しい! 毎日2〜3回更新予定 だいたい6時30分、昼12時頃、18時頃のどこかで更新します!

婚約破棄された公爵令嬢は虐げられた国から出ていくことにしました~国から追い出されたのでよその国で竜騎士を目指します~

ヒンメル
ファンタジー
マグナス王国の公爵令嬢マチルダ・スチュアートは他国出身の母の容姿そっくりなためかこの国でうとまれ一人浮いた存在だった。 そんなマチルダが王家主催の夜会にて婚約者である王太子から婚約破棄を告げられ、国外退去を命じられる。 自分と同じ容姿を持つ者のいるであろう国に行けば、目立つこともなく、穏やかに暮らせるのではないかと思うのだった。 マチルダの母の祖国ドラガニアを目指す旅が今始まる――   ※文章を書く練習をしています。誤字脱字や表現のおかしい所などがあったら優しく教えてやってください。    ※第二章まで完結してます。現在、最終章について考え中です(第二章が考えていた話から離れてしまいました(^_^;))  書くスピードが亀より遅いので、お待たせしてすみませんm(__)m    ※小説家になろう様にも投稿しています。

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

無能とされた双子の姉は、妹から逃げようと思う~追放はこれまでで一番素敵な贈り物

ゆうぎり
ファンタジー
私リディアーヌの不幸は双子の姉として生まれてしまった事だろう。 妹のマリアーヌは王太子の婚約者。 我が公爵家は妹を中心に回る。 何をするにも妹優先。 勿論淑女教育も勉強も魔術もだ。 そして、面倒事は全て私に回ってくる。 勉強も魔術も課題の提出は全て代わりに私が片付けた。 両親に訴えても、将来公爵家を継ぎ妹を支える立場だと聞き入れて貰えない。 気がつけば私は勉強に関してだけは、王太子妃教育も次期公爵家教育も修了していた。 そう勉強だけは…… 魔術の実技に関しては無能扱い。 この魔術に頼っている国では私は何をしても無能扱いだった。 だから突然罪を着せられ国を追放された時には喜んで従った。 さあ、どこに行こうか。 ※ゆるゆる設定です。 ※2021.9.9 HOTランキング入りしました。ありがとうございます。

傷付いた騎士なんて要らないと妹は言った~残念ながら、変わってしまった関係は元には戻りません~

キョウキョウ
恋愛
ディアヌ・モリエールの妹であるエレーヌ・モリエールは、とてもワガママな性格だった。 両親もエレーヌの意見や行動を第一に優先して、姉であるディアヌのことは雑に扱った。 ある日、エレーヌの婚約者だったジョセフ・ラングロワという騎士が仕事中に大怪我を負った。 全身を包帯で巻き、1人では歩けないほどの重症だという。 エレーヌは婚約者であるジョセフのことを少しも心配せず、要らなくなったと姉のディアヌに看病を押し付けた。 ついでに、婚約関係まで押し付けようと両親に頼み込む。 こうして、出会うことになったディアヌとジョセフの物語。

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

処理中です...