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第二章
第3話
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隣国と接する辺境の地ガルシアは、隣国で部族同士の争いが続いていたため、敗残兵などが流れてきており、ここ数か月治安が悪化しているとの話題はスフィーナも耳にしていた。
国からも何度か騎士が送られていたが、一向に収まる気配はなく、何よりも死傷率が際立って高かった。
騎士団のほとんどは貴族で構成されており、幼いころから型にはまった訓練ばかりを受けている。
国同士の戦争では対等に戦えても、騎士道もモラルも関係のないごろつきは戦い方が違う。
不意打ちや金的、闇討ち、集団で少数を狙うなど、着実に数を減らされ、次第に騎士たちも行きたがらなくなり、押し付け合いになった。
それがまさか、まだ学生の身であり、見習い騎士であるグレイグに話が回ってくるなど通常では考えられないことだ。
だがそれは国に仕える騎士として名誉なこと。
将来を嘱望されているグレイグだからこそ、その役目を仰せつかったのかもしれない。
そうは思えど、スフィーナは不安でたまらなかった。
行かないでほしいなどとは言えない。
だが、無事で帰ってきてほしかった。
スフィーナはテストを受ける為久しぶりに学院に来ていたが、とても集中ができる状態ではなかった。
それでもなんとか午前の科目を終え、久しぶりに友人たちと昼食を囲んだ。
「スフィーナ、行儀見習いに出ているって本当なの? またミリーがあることないこと吹聴して回っていたけれど」
友人たちはグレイグが辺境に行くことは知らない。
自然とスフィーナが不在中のミリーの様子が話題の中心となった。
「かなり面白かったわよ。なんでも、アンリーク伯爵夫人が部屋から出られなくなって、それもスフィーナの仕業だとか言って頬を膨らませてプンプンしていたわよ。まるで子供みたいね」
「え? お義母さまが部屋に?」
「そう。自分で行儀見習いに出しておきながら、どうやってスフィーナに閉じ込められるっていうのかしら。どうやら鍵穴がさびついてうまく回らなくなってしまったらしいのだけれど、それだって日中から鍵をかけて一体何をしていたのかしらって話よね」
「アンリーク伯爵夫人がせっせと愛人を連れ込んでいるという話は有名ですものね」
「それで二日も出られなくて、窓から食事を運ばせていたんですって」
窓から出ればいいのに。
グレイグがよく窓から出入りしているのを見ているスフィーナはそう思うが、義母はそんなことは考えもしないのだろう。
これもスフィーナを閉じ込めたために指輪の効力が発揮されたのか、それともダスティンが義母を罠にかけたのか。
詳細を聞きたかったが、友人たちもそんな噂を聞いただけで、それ以上詳しいことは知らないようだった。
何より発信元はまず間違いなくミリーなのだから、どれだけ真実が含まれているかなどわかったものではない。
「他にもミリー様はとかくスフィーナの評判を貶めるのに必死だったわ」
「面白かったわねえ。誰にも相手にされなくって」
「ついには孤立してしまって、見るにもおかわいそうな状態になっていたのよ」
「それが!」
ぴっと指を立てて注目を集め、それから声を潜めた。
「ヘイムート公爵の三男、ゲイツ様との婚約が決まってからは毎日腕を組んで学院中を練り歩いてるのだから、毎日ご機嫌よ」
「ミリー様を失笑する声も一気に潜められたわね。さすがに公爵家の方が相手では、滅多なことなど言えないもの」
友人たちは面白くなさそうに口を尖らせたが、スフィーナはどこかほっとしていた。
「ミリーに婚約者が決まったのは私も嬉しいわ」
「そうよね。これでスフィーナにやっかむことも減るかもしれないし。さすがに幸せいっぱいなのだもの」
そんなことを話していると、カサリと木の葉を踏む足音が聞こえ、揃って顔を上げた。
「おや。これはスフィーナ嬢とその友人方。ずいぶんと楽しそうに盛り上がっておいででしたね」
偶然、ではないのだろう。
噂の主であるミリーと連れ立ってゲイツが現れ、一同は立ち上がった。
「ああ、かまわないでくれ。昼食中にお邪魔したのはこちらだからね」
ゲイツは笑みを浮かべていたが、それはここにいる誰よりも高位であることを自覚しているがゆえの、高慢なものだった。
スフィーナと『その友人』と呼んだことからも、彼は個を個と認識しないミリーと同種の人間だと知れた。
「とても楽しそうな声が聞こえたから、興味を引かれて寄ってみただけなんだ」
言葉遣いは丁寧ながらも見下すようにスフィーナを見ているゲイツの隣で、ミリーは満面の笑みを浮かべていた。
「お姉さま、グレイグが辺境の地ガルシアに派兵されたこと、聞きましたわ。なかなか五体満足に帰っていらっしゃる方はいないどころか、生きて帰る方も少ないと聞きましたけれど、将来を嘱望されているグレイグのことですもの、きっと大丈夫ですわ」
ミリーの言葉に、友人たちの間に動揺が走った。
これはまたいつもの嘘だらけの話なのかと互いに探るように視線を走らせあい、そこに青くなり固まったスフィーナの姿を見つけた。
真実だと気が付いた彼女たちは、顔をこわばらせた。
「まあ、私が指名されていれば、必ずや王命を成し遂げて帰ったけれどね。彼は無事に生きて帰れば上々じゃないかな」
まるでゲイツの方が実力者のように語ったが、同年代でグレイグに並び立つ者などいないことは令嬢たちの間でも知られている事実だ。
だが勿論誰も口には出さない。
はしゃいでいるのはミリー一人だけだ。
「そうですわよね、ゲイツ様! でも、ゲイツ様より爵位の低いグレイグが立身出世を果たすには戦功が必要だからと、わざわざ推薦してくださいましたのよね」
その言葉に、スフィーナはばっと顔を上げた。
先程よりもずっと、顔は青ざめていた。
「ああ。彼には期待しているからね。是非とも将来は国を守るため騎士団長として立つ私の傍らにいてほしいと思うからこそ、断腸の思いでその役目を譲ったのだ」
ミリーがゲイツを唆し、グレイグを無理矢理に押し込んだのだ。
ゲイツにとっても、自分より下位でありながら腕の立つグレイグが邪魔であったから。
命を落とすか、騎士として立てなくなるほどの重症を負えばいいとでも思っているのだろう。
その考えが透けて見えて、スフィーナは白くなった指をきつく握りしめた。
ミリーが憐れむようにスフィーナを見下ろしたのがわかった。
「お姉さまはおかわいそうね。せっかくラグート邸で優しく受け入れられ、楽しく毎日を過ごしていらしたと聞きましたのに。万が一グレイグが死んでしまったら、婚約もなかったことになってしまいますし、お姉さまはそれらの全てを失ってしまうのね。なんておかわいそうなのかしら」
スフィーナはぐっと拳を握り締め、ミリーをきつく睨んだ。
「あら? どうなさったの? グレイグにとっては名誉なことですのに。それに王命ですもの、逆らうことはできませんわ。まさか国を守る騎士が行きたくないなどと口にするはずもありませんし。そのお覚悟をお姉さまが無駄にしてしまうなんてことはありませんわよね?」
ミリーは許せなかったのだろう。
アンリーク邸では邪魔者だったはずのスフィーナが、ラグート邸に優しく迎え入れられたことが。
満ち足りた日々を送っていたことが。
だから、こんなことを――。
スフィーナはミリーが許せなかった。
グレイグまで巻き込んだことが。
「スフィーナ……」
気づかわしげな友人の声に、スフィーナは少しだけ平静を取り戻し、一つ息を吐き出した。
そして静かにミリーを見つめる。
「そうね。グレイグが生きて帰らなければ、私は傷心のあまりどなたにも嫁ぐことはできなくなるでしょうね。そうなったら女当主としてアンリーク家を継ぐことにするわ。私は長女だもの。当然のことよね。子供は養子をとりましょう」
「何を仰るの?! アンリーク家の次期当主は私と決まってますのよ!」
「それは私がラグート家に嫁ぐことが決まっていたからにすぎないわ。お義母さまも大層残念がるでしょうね。きっとこんな未来は望んでいらっしゃらないと思うのだけれど」
びくりとミリーの肩が揺れた。
きっと、既に義母から叱責を受けているのに違いない。
勝手なことをするな、と。
これは義母の思い描いている道とは違うはずだ。
あの義母が意趣返しのためだけにそんな穴だらけの道を選ぶとは到底思えなかった。
「そ、そんな、婚約者であるお姉さまがまるでグレイグが生きて帰らないようなことを仰るなんて、ひどいわ」
「さっきミリーが教えてくれたんじゃない。生きて帰る方は少ない、と。婚約者だもの、そんなことを言われてはそれは心配するに決まっているわ」
スフィーナの冷たい怒りを帯びた視線と、ミリーの熱く激昂した視線が絡み合い、そして離れた。
「行きましょう、ゲイツ様。お昼休みが終わってしまいますわ」
上から見下ろすような笑みを向けたゲイツとその背中にも怒りがあらわなミリーとを見送り、一同は細く長い息を吐き出した。
スフィーナがこれほどまでに怒りを抑えきれないと思ったのは初めてだ。
怒りに目がくらんだ。
全ての思考が支配されそうになっていた。
口汚く罵るところだった。
だがスフィーナは、なんとか踏みとどまることができた。
気遣う友人たちの目があったから。
おかげで、ミリーと義母と同じ場所に落ちずにすんだ。
「スフィーナ……」
友人の気づかわしげな声に、スフィーナはついに堪え切れない涙をあふれさせた。
背を撫でてくれる手が優しかった。
「みんな、ごめんね。ありがとう」
スフィーナにはグレイグだけではない。
たくさんの友人がいる。
ダスティンがいる。
アンナや、リン、たくさんの使用人たちもいる。
そしてたとえグレイグがいなかったとしても、ケリーもオスマンもスフィーナを変わらず可愛がってくれるだろうことはわかっている。
それでも。
グレイグを失うかもしれないと思うと、スフィーナは怖くてたまらなかった。
スフィーナに何ができるのか。
どうしたらグレイグを失わずに済むのか。
考えているうちに夜は明け、翌日。
事態は急展開を見せた。
国からも何度か騎士が送られていたが、一向に収まる気配はなく、何よりも死傷率が際立って高かった。
騎士団のほとんどは貴族で構成されており、幼いころから型にはまった訓練ばかりを受けている。
国同士の戦争では対等に戦えても、騎士道もモラルも関係のないごろつきは戦い方が違う。
不意打ちや金的、闇討ち、集団で少数を狙うなど、着実に数を減らされ、次第に騎士たちも行きたがらなくなり、押し付け合いになった。
それがまさか、まだ学生の身であり、見習い騎士であるグレイグに話が回ってくるなど通常では考えられないことだ。
だがそれは国に仕える騎士として名誉なこと。
将来を嘱望されているグレイグだからこそ、その役目を仰せつかったのかもしれない。
そうは思えど、スフィーナは不安でたまらなかった。
行かないでほしいなどとは言えない。
だが、無事で帰ってきてほしかった。
スフィーナはテストを受ける為久しぶりに学院に来ていたが、とても集中ができる状態ではなかった。
それでもなんとか午前の科目を終え、久しぶりに友人たちと昼食を囲んだ。
「スフィーナ、行儀見習いに出ているって本当なの? またミリーがあることないこと吹聴して回っていたけれど」
友人たちはグレイグが辺境に行くことは知らない。
自然とスフィーナが不在中のミリーの様子が話題の中心となった。
「かなり面白かったわよ。なんでも、アンリーク伯爵夫人が部屋から出られなくなって、それもスフィーナの仕業だとか言って頬を膨らませてプンプンしていたわよ。まるで子供みたいね」
「え? お義母さまが部屋に?」
「そう。自分で行儀見習いに出しておきながら、どうやってスフィーナに閉じ込められるっていうのかしら。どうやら鍵穴がさびついてうまく回らなくなってしまったらしいのだけれど、それだって日中から鍵をかけて一体何をしていたのかしらって話よね」
「アンリーク伯爵夫人がせっせと愛人を連れ込んでいるという話は有名ですものね」
「それで二日も出られなくて、窓から食事を運ばせていたんですって」
窓から出ればいいのに。
グレイグがよく窓から出入りしているのを見ているスフィーナはそう思うが、義母はそんなことは考えもしないのだろう。
これもスフィーナを閉じ込めたために指輪の効力が発揮されたのか、それともダスティンが義母を罠にかけたのか。
詳細を聞きたかったが、友人たちもそんな噂を聞いただけで、それ以上詳しいことは知らないようだった。
何より発信元はまず間違いなくミリーなのだから、どれだけ真実が含まれているかなどわかったものではない。
「他にもミリー様はとかくスフィーナの評判を貶めるのに必死だったわ」
「面白かったわねえ。誰にも相手にされなくって」
「ついには孤立してしまって、見るにもおかわいそうな状態になっていたのよ」
「それが!」
ぴっと指を立てて注目を集め、それから声を潜めた。
「ヘイムート公爵の三男、ゲイツ様との婚約が決まってからは毎日腕を組んで学院中を練り歩いてるのだから、毎日ご機嫌よ」
「ミリー様を失笑する声も一気に潜められたわね。さすがに公爵家の方が相手では、滅多なことなど言えないもの」
友人たちは面白くなさそうに口を尖らせたが、スフィーナはどこかほっとしていた。
「ミリーに婚約者が決まったのは私も嬉しいわ」
「そうよね。これでスフィーナにやっかむことも減るかもしれないし。さすがに幸せいっぱいなのだもの」
そんなことを話していると、カサリと木の葉を踏む足音が聞こえ、揃って顔を上げた。
「おや。これはスフィーナ嬢とその友人方。ずいぶんと楽しそうに盛り上がっておいででしたね」
偶然、ではないのだろう。
噂の主であるミリーと連れ立ってゲイツが現れ、一同は立ち上がった。
「ああ、かまわないでくれ。昼食中にお邪魔したのはこちらだからね」
ゲイツは笑みを浮かべていたが、それはここにいる誰よりも高位であることを自覚しているがゆえの、高慢なものだった。
スフィーナと『その友人』と呼んだことからも、彼は個を個と認識しないミリーと同種の人間だと知れた。
「とても楽しそうな声が聞こえたから、興味を引かれて寄ってみただけなんだ」
言葉遣いは丁寧ながらも見下すようにスフィーナを見ているゲイツの隣で、ミリーは満面の笑みを浮かべていた。
「お姉さま、グレイグが辺境の地ガルシアに派兵されたこと、聞きましたわ。なかなか五体満足に帰っていらっしゃる方はいないどころか、生きて帰る方も少ないと聞きましたけれど、将来を嘱望されているグレイグのことですもの、きっと大丈夫ですわ」
ミリーの言葉に、友人たちの間に動揺が走った。
これはまたいつもの嘘だらけの話なのかと互いに探るように視線を走らせあい、そこに青くなり固まったスフィーナの姿を見つけた。
真実だと気が付いた彼女たちは、顔をこわばらせた。
「まあ、私が指名されていれば、必ずや王命を成し遂げて帰ったけれどね。彼は無事に生きて帰れば上々じゃないかな」
まるでゲイツの方が実力者のように語ったが、同年代でグレイグに並び立つ者などいないことは令嬢たちの間でも知られている事実だ。
だが勿論誰も口には出さない。
はしゃいでいるのはミリー一人だけだ。
「そうですわよね、ゲイツ様! でも、ゲイツ様より爵位の低いグレイグが立身出世を果たすには戦功が必要だからと、わざわざ推薦してくださいましたのよね」
その言葉に、スフィーナはばっと顔を上げた。
先程よりもずっと、顔は青ざめていた。
「ああ。彼には期待しているからね。是非とも将来は国を守るため騎士団長として立つ私の傍らにいてほしいと思うからこそ、断腸の思いでその役目を譲ったのだ」
ミリーがゲイツを唆し、グレイグを無理矢理に押し込んだのだ。
ゲイツにとっても、自分より下位でありながら腕の立つグレイグが邪魔であったから。
命を落とすか、騎士として立てなくなるほどの重症を負えばいいとでも思っているのだろう。
その考えが透けて見えて、スフィーナは白くなった指をきつく握りしめた。
ミリーが憐れむようにスフィーナを見下ろしたのがわかった。
「お姉さまはおかわいそうね。せっかくラグート邸で優しく受け入れられ、楽しく毎日を過ごしていらしたと聞きましたのに。万が一グレイグが死んでしまったら、婚約もなかったことになってしまいますし、お姉さまはそれらの全てを失ってしまうのね。なんておかわいそうなのかしら」
スフィーナはぐっと拳を握り締め、ミリーをきつく睨んだ。
「あら? どうなさったの? グレイグにとっては名誉なことですのに。それに王命ですもの、逆らうことはできませんわ。まさか国を守る騎士が行きたくないなどと口にするはずもありませんし。そのお覚悟をお姉さまが無駄にしてしまうなんてことはありませんわよね?」
ミリーは許せなかったのだろう。
アンリーク邸では邪魔者だったはずのスフィーナが、ラグート邸に優しく迎え入れられたことが。
満ち足りた日々を送っていたことが。
だから、こんなことを――。
スフィーナはミリーが許せなかった。
グレイグまで巻き込んだことが。
「スフィーナ……」
気づかわしげな友人の声に、スフィーナは少しだけ平静を取り戻し、一つ息を吐き出した。
そして静かにミリーを見つめる。
「そうね。グレイグが生きて帰らなければ、私は傷心のあまりどなたにも嫁ぐことはできなくなるでしょうね。そうなったら女当主としてアンリーク家を継ぐことにするわ。私は長女だもの。当然のことよね。子供は養子をとりましょう」
「何を仰るの?! アンリーク家の次期当主は私と決まってますのよ!」
「それは私がラグート家に嫁ぐことが決まっていたからにすぎないわ。お義母さまも大層残念がるでしょうね。きっとこんな未来は望んでいらっしゃらないと思うのだけれど」
びくりとミリーの肩が揺れた。
きっと、既に義母から叱責を受けているのに違いない。
勝手なことをするな、と。
これは義母の思い描いている道とは違うはずだ。
あの義母が意趣返しのためだけにそんな穴だらけの道を選ぶとは到底思えなかった。
「そ、そんな、婚約者であるお姉さまがまるでグレイグが生きて帰らないようなことを仰るなんて、ひどいわ」
「さっきミリーが教えてくれたんじゃない。生きて帰る方は少ない、と。婚約者だもの、そんなことを言われてはそれは心配するに決まっているわ」
スフィーナの冷たい怒りを帯びた視線と、ミリーの熱く激昂した視線が絡み合い、そして離れた。
「行きましょう、ゲイツ様。お昼休みが終わってしまいますわ」
上から見下ろすような笑みを向けたゲイツとその背中にも怒りがあらわなミリーとを見送り、一同は細く長い息を吐き出した。
スフィーナがこれほどまでに怒りを抑えきれないと思ったのは初めてだ。
怒りに目がくらんだ。
全ての思考が支配されそうになっていた。
口汚く罵るところだった。
だがスフィーナは、なんとか踏みとどまることができた。
気遣う友人たちの目があったから。
おかげで、ミリーと義母と同じ場所に落ちずにすんだ。
「スフィーナ……」
友人の気づかわしげな声に、スフィーナはついに堪え切れない涙をあふれさせた。
背を撫でてくれる手が優しかった。
「みんな、ごめんね。ありがとう」
スフィーナにはグレイグだけではない。
たくさんの友人がいる。
ダスティンがいる。
アンナや、リン、たくさんの使用人たちもいる。
そしてたとえグレイグがいなかったとしても、ケリーもオスマンもスフィーナを変わらず可愛がってくれるだろうことはわかっている。
それでも。
グレイグを失うかもしれないと思うと、スフィーナは怖くてたまらなかった。
スフィーナに何ができるのか。
どうしたらグレイグを失わずに済むのか。
考えているうちに夜は明け、翌日。
事態は急展開を見せた。
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