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第六章 国王陛下と進む道

エピローグ.国王陛下と王妃のその後

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 王妃の補佐にはアイリーンがついてくれて、随分と力になってくれた。
 夫婦喧嘩すると私はルーラン伯爵邸へ逃げ帰ったけど、その日のうちにユーティスが迎えに来て連れ戻された。

 世襲制の廃止までには二年かかった。
 それから国民投票により、ユーティスが再び王の座に就いた。
 四年の任期を勤め上げた後は、ノールトが王となった。
 
「私はトップに立つ器ではないのです。王を補佐する役目こそが私の力を発揮する場なのです」

 と候補に担ぎ上げられたことをいつまでもぶちぶち言っていたけど、

「それなら隠居した俺を支えるためと思ってはげめばいい」

 とユーティスに言われ、嫌そうな顔をしたものの、堅実で律された世の中を整えた。

 法で定められても影で貴族の足の引っ張り合いはなくなりはしなかった。でも関与すれば自分も財産没収されてしまうことから、悪い働きかけがあっても乗らないという基盤ができつつあり、自浄作用も働くようになっていた。
 諜報担当カゲの働きもあって、悪だくみは順調に検挙されてるし、時間はかかるかもしれないけど先行きは明るく感じられた。

 で。
 四年の任期を終え、ノールトに引き継ぎを終えたユーティスは、私を連れて薬屋へと移り住むことになった。
 久しぶりの狭い家。
 ああ、落ち着く。
 だけど、いつまでもこの狭さで暮らせるわけがない。

「おがあざま゛あ゛あぁぁぁ、おどうざまがじゃまでおがあざまにだっこじでもらえないいぃぃぃ」

「あなたはいつまでもおこちゃまね。いい加減自立を覚えなさいよ」

「ぼぎゃああぁぁぁ(ミルクくれ)」

 はい。
 息子(4)と娘(5)と息子(0)です。

 子供三人と私とユーティス。
 それからしょっちゅうラスやエトさんやルーラン伯爵夫人がお茶をしにやってくるから、狭い薬屋の中はパンパンだった。

「新しい家、建てるか」

「ええ、どこに」

「どこでもいいぞ。おまえがいる場所ならな」

 そう言って私の額にキスをする。
 その私の胸元には、「ぼぎゃぁぁぁあああ(おしめ代えてくれ)」と泣く息子。

「はいはい、今キレイにしてあげますからねー。お父さんはちょっとどっか行っててくださいねー。邪魔ですよーと」

 手持ち無沙汰になったユーティスは息子(4)を抱っこして気を紛らわせていたが、娘(5)がとてとてとおしめをかえる私の前にやってきてかがんだ。

「ねえおかあさま。ずっと気になってたんだけれど、どうして右の耳にだけピアスをしてるの? おとうさまも左だけ」

「ああ、これはね」

「リリアが一生俺のものだという証だからだ」

 ユーティスがふふんと勝ち誇ったように言うのを、娘(5)がきょとんと首を傾げていた。

「そうなの。でも、じゃあ私もピアスの穴、あけて?」

「なんだと? その体に傷をつけることは許さん」

「おかあさまもおとうさまも空いてるじゃない」

「ねえ、誰か好きな人がいるの?」

 ものすごい矛盾にも冷静な指摘をつきつけた娘(5)に問えば、こともなげに「うん」と頷いた。

「えー、だれだれ? こっそり教えてー!」

 娘(5)は私の耳にそっと顔を近づけて言った。

「ラスよ」

 その言葉に、私は時を止めた。

 そしてそれから、「あー……」と目を泳がせた。

「おかあさま? どうしてそんな顔するの?」

「いや……。彼はちょっと、苦労するわよ? ユーティスに負けず劣らず腹黒いし。笑って平気で怖いこと言うし。わりと愛が重たいし」

「うん。全部知ってる。だからいいのよ」

 娘(5)はにこっと笑った。

 私はその笑顔を見て、ユーティスの血を色濃く継いだなと確信した。

「ラスの家、行ってきていい?」

 キラキラと光る目に、私は「気を付けて……」と送り出すほかなかった。
 ラスは隣に住んでいる。
 前国王の王妃である私の護衛という名目で。
 ちなみに、二人のカゲも近所に住んでいる。
 ユーティスの最初の護衛、隻眼でいつもオモテに立っていたカゲは、なんとアイリーンと結婚した。
 お互いにいつもユーティスの傍にいたから、話すことが多く、次第にそのような関係になったのだという話を、私は何故かルーラン伯爵夫人から目をきらきらとさせて聞かされた。
 ただ、オモテのカゲはたとえユーティスが国王ではなくなっても、一生ユーティスに仕えると決めていたから公爵家に入ることはできないと告げたそうだ。そうしたらなんとアイリーンは、兄と妹に家を任せ、家を出てしまったのだ。

「私もリリア様のように、心から添い遂げたいと思う人と一生を共にしたいと思ったのです」

 凛としてそう言ったアイリーンの頬は、愛らしく赤らんでいた。

 六年間様々なことがあった。
 だけど、私の目に見える世界は少しずつ明るくなっていると思う。
 ユーティスが建てた施療院の運営もうまくいっているし、治療を受けられなくて命が失われることは減った。

「うん。決めた。来週までに引っ越すぞ」

「へあ?! 何でまたそんな唐突に」

「あと一人くらい娘が欲しい。息子でもいいがな」

 そう言ってユーティスは背後から私を抱きしめた。
 私の頭の上に頭を置き、のしかかるように体重をかけてくる。
 甘えるな!
 重い!

「ちょ、ちょっと待って、まだここに乳飲み子がいるんですけど?!」

 ついでにもう一人子供みたいに甘えてくる人もいるんですけど。

「おまえが待てと言うなら待つ。だがとりあえず引っ越さんことにはすものもせんだろう」

 待てーい。
 すってなんだすって。

「俺がこの薬屋に初めて来た頃に、おまえ言ってただろう。一人っこだから兄弟がほしかったと。だから俺が来てくれて嬉しいと」

 あー……、そんなことも言ったような気はする。

「おまえに兄弟をつくってやることはできん。だから代わりに」

 そう言ってユーティスは私の頬に優しく口づけた。

「な?」

 「ハイハイ、そのうちね」と返事をした私に、ユーティスは目を細めて笑った。

「リリア。愛している」
「ハイハイ、私もよ」
「ちゃんと言え」
「子供たちの前だけど?!」
「親の仲がよくて困る子供がいるか?」

 度を過ぎなければね?
 用心するようにユーティスを見上げ、それからしぶしぶと口を開いた。

「私も。ユーティスを愛してるよ」

 ユーティスは抱き上げた息子(4)の目をそっとふさぎ、私の唇にそっと口づけを落とした。

 結局、いつまでもいいように振り回されてるのは私の方なんだろう。
 でも別に、それは嫌じゃない。
 母とお腹の中にいた兄弟をなくし、父をなくし、一人になった私にユーティスは家族をくれたのだから。

「ありがとう」

 突然ぽつりと呟いた私に、ユーティスはこの上もなく愛おしいほどに、緩やかに笑った。
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