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第六章 国王陛下と進む道

最終話.国王陛下の側近の愚痴から始まる結婚式

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「どーーーおせこうなるとは思ってたんですよ。誰からも命を狙われなくなったからと言って学園に通うついでに女の元へと足しげく通うようになってから、嫌な予感しかしておりませんでした」

「リリアを巻き込みたくはなかったんだが、ほっとくと他の奴にかっさらわれるだろう。幼い時から周りに邪魔なガキ共がうろちょろしていたのは知っていたからな」

 相変わらずノールトの敵意は収まるところを知らないな。
 そしてユーティスが存外嫉妬深かったことを知った。ラスには「いまさらだよ」と肩をすくめられたけれど。

「あのまま父王がもう少し生きながらえていれば、リリアが狙われることもなかったんだがな。まったくの想定外だったわけでもないんだが、それでもリリアをほっとくことはできんかった。命と等しく大事なものというものも時に存在する」

 なんか難しい言葉で煙に巻こうとしてないか。
 まあ、結果的に無事だったし、私もユーティスに会いたかったからいいんだけど。
 とか私はツンデレか。
 デレてないデレてないデレてなどいない。

「どれだけ見目麗しく陛下が心を奪われた方なのかと思えば、何にも知らないかまととぶった顔して、とぼけるわ泣くわでさんざんですし。それで結局陛下を奪って行くんですから、本当にやってられませんよ」

「奪ってはいないよ」

 冷静に返す私に、ノールトはキッと鋭い視線を向けた。

「陛下ほど国王として相応しい人などいないというのに。あなたはその陛下を王の座から引きずり下ろすのですよ」

「ノールト。俺は王には向いていない。俺にとって国民はすべてリリアの顔に見える。守るべきリリアだと思うから国のために働けるのだ。何より、いざとなれば俺は多数の国民よりもリリアを選ぶだろう。そんな奴は王に相応しくない」

「その一人の女が世界平和を望めば叶えてしまうんでしょう? そこの女は町でのんびり安穏と生きたただの一人の国民ですから、勿論この国の安寧を求めるでしょう。だから結局あなたは国王として誰よりも力を尽くしてしまうんですよ。その結果が今じゃないですか」

「さすがノールトはよくわかってるじゃないか。そういうことだ。リリアを含めて俺はやっとまともな王たりえるのだ。だからリリアに冷たくするな。しまいには俺がおまえに冷たくするぞ」

「陛下に冷たくされたってなんてことはありませんよ。どうせ今までだってあなたはリリアリリアリリアとその女のことばかりで、すべてその女を中心にまわっていて、それなのに当人は『私なんて期間限定の嘘婚約者だしぃ』とかかまととぶっててああ腹立つったらありゃしません」

「わかった。ごめん、ノールト。今は反省してるから傷をほじくるのはやめて」

 罵る言葉のチョイスとして『かまととぶった』は殊の外ダメージが大きい。
 そんなつもりは全くなく、ユーティスがいくつも仮面をかぶりまくってるせいで本心が全然見えないのがいけないんであって。
 だからどういうつもりで言ってるのかわかんなくて、全部聞き流してきたわけで。
 はっきり好きとも言われてもいないのに、自分のいいようにとるのもイタイじゃないか、と私はノールトに言いたい。あと気づくのが遅いというのを理由にあの日からさんざんアレしてきたユーティスにも。うわあ思い出すのはやめよ。顔を赤らめてたらそれこそノールトに何を言われるか――。

 はっと見るとノールトがこれ以上ないくらいに冷たいまなざしをはるか高みから浴びせていた。
 ゴゴゴゴゴ――、と背後から効果音が聞こえる気がする。

「やめませんよ。どうせあなたは現在脳内お花畑でロクに私の言葉など聞こえていないようですし? あと少しであなたは正式にこの国の王妃となってしまうんですから。そうしたら文句も八割しか言えなくなります。今のうちに言いたいことは言わせていただきます」

 あ、八割は言うんだ。
 王妃になっても関係なくない?
 そう思ったけど勿論黙っておいた。

 延々と続くノールトの愚痴なのか文句なのかわからない言葉を聞き流す私に、ヴェールを整えてくれていた侍女ズがそっと声をかけてくれた。

「リリア様、とてもよくお似合いです」
「元がお綺麗でいらっしゃるから、シンプルな白のウエディングドレスはよく映えます」
「涙が出てしまったときは、こちらのハンカチでそっと拭ってくださいね」

 準備も整ったのに、それでもまだ細々と身の回りを整えてくれる侍女ズに、私はありがとうと笑みを返した。
 正式な王妃の専属護衛騎士の制服を身にまとったラスが、鏡の向こうで笑みを浮かべていた。

「リリア、すっごく綺麗だよ。俺、バツイチでも気にしないからさ。陛下にイラッとしたら俺のお嫁に来なね。ちゃんと攫ってあげるから」

 振り返って、後ろに立つラスにありがとうと告げる。

「おい。聞き捨てならんな」

「契約は反故にしないって言いましたよね、陛下?」

「言ったが。リリアの意思に沿わないことはしないんだろう? なら大丈夫だな」

「そうですよ。だからリリアが俺を好きになればいいわけで。うかうかしてると人妻だって攫いますよ俺は。前みたいに、あんなボロクソに泣かせたら次は許しませんからね」

「お前だってわかっていていろいろと黙っていたくせに」

「なんでわざわざ敵に塩を送るようなことしなきゃいけないんですか。あれでリリアが薬屋まで逃げてくれたら俺の勝ちだったのに」

「リリアの真意がどこにあるかわかっていてそんな真似ができるほど度胸もないくせに」

「度胸がないんじゃなくて、真に想ってるからこそ幸せになってほしかっただけです」

 この二人って、相思相愛なのかな? って思うくらい、実はお互いによくわかってるよね。
 とりあえずこそばゆいからそろそろやめようか。
 止めに入ろうとしたら、ずっと黙ってにこにこと成り行きを見守っていたルーラン伯爵夫人が、「ふふふふふふふふふ」と笑みを漏らすのが聞こえた。

「とっても素敵な香りがするわ」

 何故かわからないけど、ルーラン伯爵夫人は頬に手を当て、ひたすらにこにことユーティスとラスの二人を眺めていた。時々ちらりと私を見る。「うふっ」と。
 最近新しい小説にはまりだしたと聞いたのだけど、今度私も借りてみよう。

「ユーティス国王陛下、リリア様。そろそろお時間のようです」

 隻眼のカゲが部屋の扉の外に立ち、声をかけてくれた。
 ふと人の気配を感じて窓の方を振り返れば、逆さになって顔だけを出している黒づくめのカゲがいた。
 いってらっしゃい、というようにひらひらと手を振り、またすっと姿を隠す。
 諜報担当のカゲだけは、姿を見たことがなかった。もしかしたら今もこの王宮の中に紛れているのかもしれない。

「行くぞ、リリア」

 ぼんやりと窓を振り返っている私に、ユーティスはそっと手を差し出した。

「うん」

 そうして私は自らの意思と足でユーティスの隣に立ち、国王陛下の王妃になりました。
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