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第三章 魔王と人々

3.協力者

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「いやタマちゃんって急に何。近所のおばあちゃんに呼ばれてる猫みたいなのでタマミでよろしくお願いします」

 珠美のゼノンへ向けたそんな言葉ではセレシアの意識を逸らすことはできなかった。

「ゼノン、お久しぶりですわね。あなた、今とても失礼なことを仰らなかった?」

 眉を顰めたセレシアに、ゼノンは「うん?」と視線を向けた。

「おー、セレシア嬢。いつぶりかな。相変わらず主張が激しいね」

 すたすたと執務室に入ってきたゼノンは、ソファに「よーこらしょっと」と腰を下ろすと、ふうと息を吐いた。
 カゴに乗る時もそうだったが、まるでおじいちゃんだ。

「タマ様。何か健康に不安でも抱えていらっしゃるの?」

 心配そうに眉を寄せたセレシアに、何と応えるべきか迷った。
 しかしその間にゼノンがのんびりと口を開いた。

「いやあ、この間クルーエルでけっこう緻密な魔法使ったでしょ。寿命縮んでんじゃないかなーって思って」

 セレシアの眉間の溝が一層深まった。

「あれ? かと思ったら、なんか成長してんねー。ああそっかそっか、何年分か体が戻ったんだねー。戻れるのは嬉しいだろうけど代わりに寿命縮むんだから嬉しくないような、複雑だねー」

 あははと笑ったゼノンに、セレシアがゆらりと背後に立った。

「ゼノン……? それはどういうことですの? 魔法を使うと寿命が縮む、ですって?」

 あっ! と思ったときにはゼノンはあっさりと答えていた。

「ああ、うん。そう」

 思わず珠美は額を抑えた。
 セレシアは確認するように、小さく訊ねた。

「それはタマ様のことだけではなく、クライア様も同じ……ということですわね?」

「そうだよー。だから日本に行ったんだろうね。自分がいつ死ぬかわかんないから」

 珠美の気遣いを返してほしい。
 全部無駄になった。

 おろおろとセレシアを見れば、愕然としたように俯いている。

「セ、セレ……」

 声をかけようとして、珠美は声を引っ込めた。
 セレシアは泣いていた。
 ほろりほろりと、大粒の涙が床に零れ落ちていく。

「少しだけ……そんな気はしていました。前代の魔王様もお若いうちに亡くなられましたし……。ただ、魔法を使っているせいだとは、思いも……。悔しいのです。知らずにクライア様に、魔法で頼りきって……」

 珠美は静かにほとほとと涙を流すセレシアにそっと声をかけた。

「セレシア。私は、魔法に頼らなくてもいい国にしたいと思っているの。だから、セレシアも協力してくれない? まだどうしたらいいかわからないことだらけなの」

 そっと、そう訊ねればセレシアが涙に濡れた瞳を向けた。

「私に……できることがあるかしら」

 ぐすりとしゃくりあげながらもしっかりと珠美を見たセレシアに、ほっとして肩を下げた。

「私もまだ何ができるかわからない。初めてのことだから、手探りなの」

 そう笑うと、セレシアも小さく笑って、頷いてくれた。

「私も協力いたしますわ。そうですわね。過ぎたことを嘆くよりも、帰ってきたクライア様の力になれるよう尽力すべきですわね。タマ様、よろしくお願いいたしますわ!」
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