もう神には頼りません ~偽聖女にされたら王子の偽婚約者になりました~

佐崎咲

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第三章 偽聖女なのに神殿とか

7.待ってた

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 それから一週間が過ぎた。
 私は旅に出ていた時と同じように、周囲の神官たちと打ち解けるよう、親しく話していた。
 そこからそれとなく大司教に関する話を集めた。

 大司教に対する反応は、およそ三種類に分かれた。
 単純に素晴らしい人だと崇める人。
 はっきりとは口にしないものの、何か思うところがありそうな人。
 そして距離をはかりながらその素晴らしさを伝える人。

 それで大体、誰が大司教の企みに加担していそうかはあたりがついた。
 どれくらいの人が大司教の裏の姿に勘付いているかも。
 それがわかっても、特定の誰かに近づくことはしなかった。
 探るつもりが探られてはたまらない。
 そもそも情報収集をしろなんて頼まれてもいないことをして、リヒャルトの足を引っ張ってしまうのは嫌だったから。

 だけど、純粋に神を信じ、祈りを捧げようとしている人たちがいると知れたことは救いだった。
 同時に、その人たちから信じるものを奪うことだけはしてはならないとも思った。
 神に祈り、奉仕活動をして過ごすことで、日々を前向きに生きて行ける人がいることを知ったから。
 それはあの家でアレクシアと文句を言って過ごしているだけではわからなかったことだ。

 いろんなことをリヒャルトに話したかった。
 けれどリヒャルトどころか、外部の人と会うことは一度もなかった。
 ただひたすらに祈りを捧げ、先達に教えを請う日々だった。
 それだけなのに、夜になって自室に戻ると、何故かいつもぐったりとしていた。

 ベッドにごろりと横になり、天井に掌を向けた。
 城にいた時は、リヒャルトは何かと時間を作って会いに来てくれた。
 何度も、この手を伸ばせば触れられる距離にいた。
 何でも話そうと思えば話せた。

 それなのに、本当に話さなければならないことは言えていないような、そんな焦燥感があった。
 こんなにも焦がれるように会いたいと思うのは、そのせいなのかもしれない。
 だけど会って何を言いたいのかがわからなかった。
 アレクシアに聞いても『さあね~』と流されるばかりで真面目に取り合ってはくれなかった。

 ぱたりと手を下ろし、静かに目を閉じた。
 夜の静寂には虫の音も聞こえない。

 それなのに。
 何かが風にはためくような音が聞こえた気がした。

 何故だか私ははっとして、ベッドから飛び起きた。
 窓をじっと見つめると、黒い影が下りた。

 咄嗟に私は窓辺に駆け寄った。
 それと同時に、そっと両開きの窓が開けられた。

 現れたのは、しぃ、と口元に指を当てたリヒャルトだった。

 私はその名を呼びたいのを堪えて、すとんと床に降り立ったリヒャルトに飛びついた。

「お待たせ。迎えに来たよ、ユリシア」

 リヒャルトは笑って、そっと私を抱きとめた。
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