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第1章

第5話 王太子の新たな婚約者って、誰のこと?

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「国境への兵士の配置は済んでいる。砦の建設も機能的なところは終えているから万一のことがあっても持ち堪えるだろう」
「先程、水晶もグニールに届いたと連絡がありましたので、これですべて配置できましたわ。あとは来週、陛下の演説を皮切りにして、各地の領主と城から使いにやった者とで人々に話を広めていくだけ。じきに新たな防御壁が広がることでしょう」

 向かいに座る国王陛下と王妃殿下がそう話すのを、何故私はレガート殿下の隣で聞いているのか。
 殿下はあちら側ではないのか。
 気にはなったものの、ようやっとここまで来たとほっとした気持ちが湧き上がる。

 今は現聖女である王妃殿下が防御壁を維持しているが、今後は物理的な守りとしての砦と兵士の配置、それらを覆う新しい防御壁の二層でこの国を守っていく。
 各地に水晶を配置し、それらに国民たちが祈り、魔力を注ぐことで国全体を覆うように防御壁を広げる。
 これまで国民たちの命は聖女一人に委ねられていたが、聖女が病気になったら、事故に遭ってしまったらと心配する必要もない。
 今後はそれを自分たちの力で維持していくのだ。
 それぞれがそれぞれの住む場所を守ることによって、地域の一体感も高まることだろう。

「レガートもローラも、よくやってくれましたね。最悪の事態を招かずにすみ、何よりもこの国の守りはより盤石となりました」

 王妃殿下にそう労われ、私は恐縮した。
 準備が進んでいたとはいえ、義姉が突然いなくなったせいで急がねばならなくなったのだから。
 当然お二人にも多大な迷惑をかけている。

「ありがとうございます。しかし義姉のしたことは――」
「ローラだけが気に病むことではないわ。私にも、次代の聖女にクリスティーナを選んだ責任があります」
「レガートの婚約者に彼女を選んだのも、我々の責だ」

 王妃殿下と国王陛下にかわるがわるそう言われて、私は一層恐縮するしかない。

「そう言っていただけることを心からありがたく思います。ですがやはり、義姉を諫め、役目を果たすよう促すことができなかったことは事実です」

 私程度の人間がとれる責任など多くはない。
 それでも覚悟を決め再び頭を下げた私に、しばらくの沈黙が下りた後、国王陛下が静かに口を開いた。

「そうだな。ローラがそのように考えているのならば、一つ責任をとってもらいたいことがある」
「ええ。やはりクリスティーナが空けた穴は埋めてもらわなければね」

 思わず顔を上げると、笑みを湛える王妃殿下の隣で国王陛下が厳めしい顔を作り、言った。

「ローラ・ファルコットよ。我が子レガートを支え、共にこの国を守っていってほしい」
「はい、もちろんです。できる限りの力を尽くさせていただきます」

 そう答えると、王妃殿下はにっこりと笑った。

「ありがとう。ではレガートの婚約者として、今後もよろしくね」

 聞き間違えかな、と思った。

 反射的に隣に座るレガート殿下を見るが、慌ても驚きもしていない。
 どういうことだ。
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