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Office19・本当のキモチ

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「っ・・・・ぁっ」


 ふっと息を吹きかけられて、吐息が震えた。
 どうしよう。ドキドキして、心臓が飛び出そう。
 器用に二つともピアスを外され、真吾君はそれを素早く回収してしまった。

「あっ、返してよっ」

 私が慌てて振り向くと、真吾君と目が合った。彼は私を愛おしそうな目で見つめて、嬉しそうなカワイイ顔をして笑っていた。意地悪な悪魔の顔ではなかった。

「やっと顔、見せてくれましたね」

「あ、いや、あの・・・・」

 真っ赤な顔をしている私の目の前に、オープンハートのティファニーのピアスが差し出された。色もローズゴールドで、お洒落でカワイイ。ティファニーでしかも18Kなんて、高かっただろうな。

「俺がつけてあげますから、動かないで下さいね。本当はプレゼントのラッピングしてたんですけど、目障りなピアスをさっさと俺の手で付け替えたかったので、勝手に開けちゃいました。折角の贈り物なのに、すみません」

 真吾君の細くて長い指に耳たぶが触れるだけで、ドキドキしてきた。
 お洒落で可愛いピアスを付けてもらって、耳が熱くなった。真吾君がくれたピアスだと思うと、このピアスにまで耳を噛まれるのではないかと、ドキドキしてしまう。
 こんなに可愛いティファニーのピアスが、まるで見張りの番犬のように思えるのが不思議だ。

「良く似合います。俺の見立て、最高」

 指先でオーケーマークを作って、真吾君がにっこり笑った。
 黙ってれば、カワイイのに。天使みたいな悪魔なのよね、この男。そのうち、尻尾や角が生えて来るんじゃないの?

「三輪さんからもらったピアス、返してよ。それ、私の」

「ダメです。返せません。過去の男からの贈り物は、持っていたらトラブルになります」

「何よ、過去の男って。私、三輪さんのコト――」

 確かに諦めたけど、って言おうと思ったら、真吾君に激しく口づけされた。


 ちょっ、この男っ!
 まだ人通りだってあるのよっ。こんな場面、誰かに見られたらどーすんのよっ!


「んっ・・・・っ、んんっ――・・・・」


 器用に唇を割り開かせられて、舌が滑り込んできた。
 ジョーマローンの真吾君の香りが、私を惑わせる。
 ドキドキして、昂って、それ以上欲しくなる。
 
「・・・・っ、ん、ぁっ・・・・」

 自分でも驚く程甘い声が漏れた。もっと真吾君に触れて欲しくて、身体が勝手に熱くなっていく。

 自分のキモチに気づいた途端、これはちょっと・・・・ムシが良すぎるわ。
 三輪さんへのキモチ、何年も一体何だったのってなるし、このまま雰囲気に流されちゃったら、ただの火遊びになっちゃうじゃない。

 もしかして貴方、まだ私がその手に堕ちるか、同僚とゲームしているだけなのかもしれないでしょう?



 ダメ。すごく不安になる。



「和歌子さん。その声、反則」

 強く抱きしめられて、耳元で囁かれた。「俺の負けです。他のオトコの名前なんて、もう二度と呼ばないで・・・・嫉妬でおかしくなりそう・・・・」

 悪魔が苦痛の顔を見せた。
 それは、もしかしたら演技かもしれない。


 ・・・・でも、もしそうだったとしても、それでもいいや。


 悪魔が苦しんだ顔をしているのを、見つめる方が辛い。

 


 あーあ、真吾君。貴方をギャフンと言わせたかったなぁ。



 ちゃんとケジメつけた上で、三輪さんとお付き合いして、ざまあみろって、勝ち誇った顔して、言い放ってやりたかったわ。
 貴方が、どうして俺じゃないんですか、って唇噛みしめて、悔しそうにする顔、見たかったわ。


 それができなくて、本当に残念。
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