上 下
83 / 96
Office19・本当のキモチ

しおりを挟む
 
「そうよ、そこに居るわ。じゃ、迎えに来させてあげる。飲みたい気分なの。つきあって」


『「了解です」』


 電話と普通に会話で聞こえる音声がハモった。途端、背後からいきなり抱きしめられた。

 何時もの、香り。



――ジョーマローンの、香り。



 途端に、身体が熱くなった。
 ドキドキと心拍数が跳ねあがる。

「どう・・・・してココに?」

「さあ、どうしてでしょう?」


 耳元で囁かれて、ゾクゾクした。何時ものエキゾチックな香りが、私を惑わそうとする。

 魅惑の、悪魔の香り。

 危険だったのね、この香り。
 全然知らずに無警戒だったから、知らない間に誘惑されて、捕らえられてしまっていたのね。
 
「お二人の行動パターンなんて、大体わかりますよ。デートのシメといえば観覧車でしょう。横浜でデートする事は、昨日の水族館でお二人の会話が聞こえてましたから、事前にリサーチ済でした。それで、横浜で観覧車ならコスモクロック21辺りで待っていたら間違いないと思いまして。見覚えのある三輪さんの車、駐車場に止まっていましたし、予想通りでした。それにさっき、和歌子さん一人で歩いていくのが見えましたからね。俺、自分でも思いますよ。探偵向いてるなって。どういうワケか、勘が働くんです」

 悪魔はクスクス笑っている。でも、そんな悪戯な笑顔はすぐ消えた。

「三輪さんのトコ、行かなかったんですね。良かった」

悪魔が、安堵のため息を吐いた。「和歌子さんを盗られたら、どうしようかと思った」

「盗られるって・・・・そんな、私は・・・・」

「フッたのか、フラれたのかは知りませんが、もう終わりですよね? もう、三輪さんとデートなんて、しませんよね?」

 どこまでも、この男は解っているのね。
 エスパーだから、私がもう既に貴方の手に堕ちてるって、見抜いているんだろうな。
悔しい。


 悔しいのに――触れられて、ドキドキする。


 だからせめて、少しくらい、意地悪言ってもいいでしょっ。
 何時も年下の貴方に言われっぱなしなんだもん。
 年上の威厳が崩れちゃうのよ。


「三輪さんと、またデートするって言ったら?」

「その回答は、困りますね。三輪さんとは終わったから、ここに一人でいるんでしょう? 俺は誤魔化せませんよ」

 くすぐるように、耳たぶにキスされた。「三輪さんと終わったなら、さっさとこの目障りなピアス、外してくれませんか? 噛みちぎりますよ」

 なかなかハードで恐ろしいセリフを、カワイイ笑顔を湛えたままヤツは言う。

「これに付け替えてくださいね。俺がやってあげますから、こっち向いて下さい」

「ダメ」

「じゃあ、向かせるまでだ」

 耳たぶに舌が伸びて、くすぐられたと思ったら、軽く噛みつかれた。
 勿論加減はしてくれてるけど、怒らせたら本気で噛みちぎられそうで怖い。

 でも今は、貴方のキモチに気づいてしまった今なら、そんな甘美な痛みを伴う刺激でさえ、私に火をつける。

 ちっとも、嫌じゃない。



 むしろ、もっと――・・・・



 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】捨ててください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。 でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。 分かっている。 貴方は私の事を愛していない。 私は貴方の側にいるだけで良かったのに。 貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。 もういいの。 ありがとう貴方。 もう私の事は、、、 捨ててください。 続編投稿しました。 初回完結6月25日 第2回目完結7月18日

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

【完結】新皇帝の後宮に献上された姫は、皇帝の寵愛を望まない

ユユ
恋愛
周辺諸国19国を統べるエテルネル帝国の皇帝が崩御し、若い皇子が即位した2年前から従属国が次々と姫や公女、もしくは美女を献上している。 既に帝国の令嬢数人と従属国から18人が後宮で住んでいる。 未だ献上していなかったプロプル王国では、王女である私が仕方なく献上されることになった。 後宮の余った人気のない部屋に押し込まれ、選択を迫られた。 欲の無い王女と、女達の醜い争いに辟易した新皇帝の噛み合わない新生活が始まった。 * 作り話です * そんなに長くしない予定です

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

処理中です...