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Office18・三輪さんの告白

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 その時、真吾君の顔が浮かんだ。


 貴方のその悪魔の顔を、可愛い笑顔を、私のせいで歪めてしまうのだと思うと、胸が苦しくなって、そのまま押し潰れそうになった。


 気が付くと、三輪さんを押しのけていた。唇が離れて、自由になって息ができる事に安堵した。


 ああ、本当に残念だわ。


 あの悪魔を、ギャフンと言わせる唯一のチャンスを、自らの手で潰してしまう事になるなんて。
 でも、それ以上に、貴方を失ったりできないんだって。
 私を狂わせる程激しいキスができるのは、真吾君しか居ないんだって事に、こんな場面で気が付くなんて――


 私は全てにおいて、本当に鈍感なのね。


 三輪さんのキモチも、真吾君のキモチも、何一つ気が付かないで――自分のキモチにさえ、たった今、気が付くんだから。


 涙が一筋、零れた。
 
「三輪さん・・・・ごめんなさい。嬉しいです。私を・・・・そんな風に思って下さっていたなんて、本当に嬉しいです。私も、貴方が好きでした。本当に、本当に大好きでした。でも・・・・今は、私をとっても大切に想ってくれている男性が居るんです。私も、彼が必要なんです。彼を、悲しませたくない・・・・」

 三輪さんにキスされて、それに気が付くなんて。
 本当にバカだわ。

「私も、この限定デートを引き受けたのは、三輪さん――貴方を忘れる為でした。私は、貴方にずっと憧れていたんです。手に入らない高嶺の花だから、ずっと好きで、恋していました。でも・・・・私を必要としてくれている彼は、違うんです。寄り添って、歩いていける。大切にしたいって、今、ハッキリ思いました。どうしてこんな局面になって気づくんでしょうね。本当に私・・・・鈍感で、ごめんなさい」


「そうか」三輪さんは、何時もの優しい顔を見せてくれた。


 ああ、その顔、私の好きな顔。
 貴方の声。
 しぐさ。
 優しいところ。



 全部、好きでした。
 
「私達、両想いだったんですね。ずっと前から、お互い、好きだったんですね。もっと早くに気づいていたら、結果は変わったのかもしれません。でも今――交わることが出来なかった。本当に残念です。ずっと好きでした。本当に、貴方だけ・・・・」


 三輪さんが好きだった――もう、知らない間に、私の中で過去形になっていたのに、それにさえ、今まで気が付かなかったなんて。


 今、この瞬間に、真吾君の事を好きになっていたって、初めて気が付くなんて。


 あの悪魔の、一体ドコがいいのかわかんない。
 意地悪だし、エスパーだし、強引だし、エロいし、三輪さんとは全然ちがう。本当に勿体ないって思う。
 私、悪趣味すぎじゃない?
 ずっと好きだった男性と両想いだったって判ったのに、その手を取れないなんて。本当に、勿体ない。


「もう、どうにもならないんだね?」

 三輪さんが、名残惜しそうに私を見つめた。

「ごめんなさい」

 私は頭を下げた。
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