上 下
63 / 96
Office14・週末のバー

しおりを挟む
 
『こらこらー。和歌子さん、酔ってます? お持ち帰りオーケーなんてダメですよ。イイ女は、貞操を大事にしないと。俺の為に大事な操、取っておいてくださいよ。解禁許可頂けたら、いっぱい、愛してあげますから』

「結構でーすっ。もう、寝まーすっ。おやすー」

『ちょっと待ってください。明日、ドコ行かれるんですか? まだ聞いていません。それから、門限までには帰って来てくださいよ?』

「明日はお昼に銀座でショッピングして、三輪さんの奥様のお誕生日プレゼント見てぇー、それから、天空のおさかなを見るのでーす! じゃあ、そういうコトで!」

『奥様にプレゼント・・・・そうですか。和歌子さん・・・・そしたら週明けの月曜日、美味い飯でも一緒に食いに行きま――』

 ヤツが話している最中だったけど、声のトーンが変わったので電話を切った。
 酔ってたのもあるけど、私がバカで可哀想なオンナなんて、真吾君に言われたくなかった。言われなくても、バカだって自分で解ってるから。

 他人に指摘されて、これ以上惨めになりたくない。
 同情して、慰めの言葉をかけるソレの雰囲気の声だったから。私はそんなの、要らない。
 

 もう寝よ。


 でも、デートがあるからスキンケアは欠かせない。こんなに日本酒飲んじゃって、明日お肌がむくんだりしないかしら。


 心配する自分の心を別の自分が見つめて、笑いがこみ上げた。


 バカじゃないの。
 どうしたいのよ、私。
 どうせね、どうにもならないんだから、たとえブサイクなパンパンのむくんだ顔でデートに行ったって、好きになってもらえないんだから、それでもいいじゃない。


 でも、やっぱり好きな男の隣を歩くなら、最高の自分でいたい。
 綺麗にお洒落して、誰にも負けない自分でいたい。


 それが、私。


 ガサツでオヤジで豪快でも、やっぱりお洒落は手抜きしたくない。



 銀座で三輪さんの隣を歩くなら、彼に恥ずかしい思いをさせないように、綺麗にしておかなきゃって思い直した。
 酔ってるから少しぬるめのシャワーを浴びて、さっぱりして、何時もより時間をかけてスキンケアをした。待ち合わせは昼からだし、少しくらい朝寝坊できるから。
 諸々をようやく終え、寝ようと思ってベッドに入り、充電器にスマホを挿そうと思って本体を見ると、いつの間にかラインのメッセージが入っていた。真吾君だった。


――相手のペースにばかり合わせないで、たまには振り回してやりましょう。月曜日、飯行きましょうね。おやすみなさい。最高のイイ女(和歌子さん)を早く彼女にしたい、最高のイイ男(真吾)より愛を込めて


 ブッ、と噴き出した。
 真吾君は私のコト、バカにもしていないし、それでも好きだって思ってくれてるんだ。


 たまには振り回してやりましょう、か。
 いい言葉だ。

 下手な慰めとか、同情とか、そんなのは要らない。
 何だか真吾君の一言のお陰で、どん底に惨めにならずにすんだ。


 悩んだ挙句、ありがとう、とだけ返事を入れておいた。
 イイ女は、追いかけて貰ってナンボよね。


 そうよ。私は、私らしく。



 豪快に、図太く、輝いてやるんだから――



 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】新皇帝の後宮に献上された姫は、皇帝の寵愛を望まない

ユユ
恋愛
周辺諸国19国を統べるエテルネル帝国の皇帝が崩御し、若い皇子が即位した2年前から従属国が次々と姫や公女、もしくは美女を献上している。 既に帝国の令嬢数人と従属国から18人が後宮で住んでいる。 未だ献上していなかったプロプル王国では、王女である私が仕方なく献上されることになった。 後宮の余った人気のない部屋に押し込まれ、選択を迫られた。 欲の無い王女と、女達の醜い争いに辟易した新皇帝の噛み合わない新生活が始まった。 * 作り話です * そんなに長くしない予定です

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~

矢野りと
恋愛
ある日王太子妃は夫である王太子の不貞の現場を目撃してしまう。愛している夫の裏切りに傷つきながらも、やり直したいと周りに助言を求めるが‥‥。 隠れて不貞を続ける夫を見続けていくうちに壊れていく妻。 周りが気づいた時は何もかも手遅れだった…。 ※設定はゆるいです。

月城副社長うっかり結婚する 〜仮面夫婦は背中で泣く〜

白亜凛
恋愛
佐藤弥衣 25歳 yayoi × 月城尊 29歳 takeru 母が亡くなり、失意の中現れた謎の御曹司 彼は、母が持っていた指輪を探しているという。 指輪を巡る秘密を探し、 私、弥衣は、愛のない結婚をしようと思います。

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...