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Office13・好きな男との食事は大いに悩む

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 まるで魔法が――いや、魔術か――かけられたみたいに、動くことが出来なかった。
 ジョーマローンの香りが鼻腔を掠めた途端、真吾君の熱い唇に包まれていた。

 熱い。触れられた箇所から勝手に身体が熱くなって、昂って、ドキドキする。

 そういえば、万が一三輪さんに無理やりされたら蹴っ飛ばす、とかさっき言ったけど、よく考えたら、この男も無理矢理してるわよね!

 でも、どうしてなの。
 どうしてこの男には、何時もの私がするみたいに、それができないんだろう。


 どうしていつも真吾君に無理やりキスされるのに、ちっとも嫌って思わないんだろう――


「今日、待ってます。貴女から電話がかかってくるまで、ずっと待っています。俺、和歌子さんを、信じていますから」

 唇が離され、ぎゅっと強く抱きしめられた。耳元が近いから、行かせたくない、って苦しそうに呟くのが聞こえた。


 なによ。
 どうして私が責任感じて、こんなに胸を痛めなきゃいけないのよ!


「ごめんね、もう行くわ。三輪さんとの待ち合わせに遅れちゃう」

 捨て犬みたいなカワイソウな顔をした真吾君を置き去りにして、私は給湯室を後にした。

 ちょっとカワイソウだったかな。
 でも、しょうがないよね。
 私は三輪さんと約束があるんだし、どうしようもないわ。

 気を取り直して、待ち合わせの場所へ向かった。
 今日は私の方が早く来て、三輪さんを待つことが出来た。
 十分もしないうちに、三輪さんが現れた。
 時間に正確ね。流石三輪さんだわ。約束の五分前だった。

「お待たせ。待ったかい?」

「いいえ、待っていません。大丈夫です。三輪さん何時も時間より早くいらっしゃるんだもの」

「和歌ちゃんこそ」

 現在午後七時。週末の丁度ご飯時だから、待ちは覚悟しなきゃね。
 バーで飲む前に、軽くイタリアンレストランへ行った。三輪さんが予約を入れておいてくれたんだ。ピザとかパスタとか、美味しいの食べれるんだって!
 でも、パスタか。お昼にパスタ食べちゃったけど、好きだからまあいいわ。
 今日は志向を変えてピザというのもアリ・・・・ってダメよ、和歌子!
 大口開けて、三輪さんの前で食事するつもりなのっ!?

 ノー、それはムリ! できませーん。

 結局、無難なパスタにすることにした。クリームパスタは飛び散って服が汚れたらイヤだから止めたし、トマトソースのヤツは今日の昼食べたから却下、ええと・・・・どれにしよう。


 真吾君と約束した門限もあるし、さっさと決めないと。
 悩みだしたらドツボにハマるタイプだから、メニューを見もせずにシェフのおすすめパスタに決めた。何の味のパスタが出て来るか、ちっともわからない。私はこういう時、大抵自分の好みでないものが出てきて、ガッカリする。

 ああ、それよりも心配なのは、パスタ食べてガサツな所、三輪さんに見られないかしら。
 ピザにすれば良かったな?
 でも、ピザの方が食べる時、パスタ以上に豪快さが表れてしまうような気がする。
 大口開けなきゃいけないもんね。


 そう考えたら、真吾君はラクでいいわね。ぶっちゃけ私の全てを知っているし、おしとやかにする必要も無いし、そんなガサツ女を好きとか言うんだもん。かなり奇特だわ。

「和歌ちゃん、どうしたの。難しい顔してるけど」

「あ、あ、いいえっ、何でも、ないんです。あ、その、そうだナイトワン! あの、櫻井さんとナイトワンの企画、どこまで進めましたか? こちらも報告あるんです」

 アヤネにラブサプリ開発のためのモニター頼んだこと、まだ報告できてないし。

「仕事熱心だね。気合入ってるな、和歌ちゃん」

「当然です! 三輪さんの右腕として頑張りますっ」

「和歌ちゃんは頼もしいな」

 三輪さんがステキな笑顔を見せてくれた。
 キャー! 乙女のハートがきゅんきゅんしますっ。
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