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Office13・好きな男との食事は大いに悩む

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「わーかこさんっ」


 帰ろうとしている私の肩を叩いたのは、悪魔男の方だ。
 悪魔女の方は、早速ラブサプリの検証のため、今日はカレシとデートして、その後ヨロシクしてもらうことを頼んであるから、もう帰って会社には居ない。

「なによ。用事なら月曜日にして。もう帰るから」

 今日はナイトワンプロジェクトが本格的に始動したお陰で、定時には終わらなかった。
 週末だからそれも見越して、今日のデートは簡単に食事してバーで飲もうという事になっている。
 三輪さんの意図は解らないけど、私と色々な場所に行くことによって、何かを見つけようとしているみたい。


「なにか忘れてませんか?」

「なにも忘れてないけど?」

 口止め料のコト、言ってるんだわ。
 誰が払うもんですかっ。


「ふうん。払わないつもりなんですね」


 だから、心を読むなっつーの!!
 どいつもこいつも!


「わかりました。月曜日、オフィスでどうなってるか――」

 悪魔が笑った。
 恐ろしい笑顔だ。

「・・・・来て」

 顎でしゃくって、給湯室に行くように促した。
 払わなかったら、本当にバラすつもりだわ。

 何でこんな・・・・毎回毎回、無理やり・・・・。
 給湯室に入った途端、誰も入って来られないように鍵を掛け、真吾君に強く抱きしめられた。

「絶対、絶対、門限の十時までに帰って下さいね」

「あ、うん。約束・・・・したし・・・・」

 私を見つめる真吾君の顔が、何時もとは違って余裕のない苦痛に歪んだ顔をしている。
 ドキン、と心が跳ねた。
 どうしてそんな顔――・・・・


「困ったら、すぐ俺に電話してください。すぐ駆けつけますから」

「だ、大丈夫よ。困る事なんてない・・・・」

 真吾君が、本当に辛そうな顔で私を覗き込んだ。「貴女がもし傷つけられるような事があったら、俺、絶対に三輪さんを赦さないから」

「真吾君、三輪さんは、そんな事しないわ。それに、一線を越えるつもりもない。だから、心配しないで」

「心配ですよ! 貴女は本当に鈍いし、鈍感だし、解り易くアピールしている俺のキモチでさえ全く気が付かない程、酷い女性なんだ。これだけ俺にしておけって言ってるのに、言う事聞かないし・・・・」

 鈍い、鈍感、二回も言うなっ!
 同じ内容じゃないっ!!
 どうせ鈍いですよ。悪かったわね!
 
「でも、好きな男に誘われてそのまま流されたら、どうするんですか。・・・・好きなら、止められないでしょう?」

「みくびらないで。三輪さんとそんな関係になりたいワケじゃないもん。実はアヤネにも同じ内容の心配されたけど、もしそうなったら、私、三輪さんを引っぱたくと思う。それで止めてくれないような男なら、却って諦めもつくし、蹴っとばしてでも止めさせるから」

「相変わらず、豪快ですね」

 今日パスタ屋で見せてくれた素の顔で、真吾君が笑った。
 屈託のない少年みたいな顔。何時もの作ったカワイイ笑顔でもなく、悪魔でもない、本当の上山真吾。
 まあ、カワイイ後輩も、悪魔な真吾も、全部ひっくるめて真吾君なんだろうけど。
 悪魔は、一体幾つの顔を持っているのかしら。
 まだ知らない貴方が、どこかに潜んでいるのかもしれないわね。

「貴女を手に入れるには、どうすればいいんですか? 俺、どんなコトでもやります。貴女が、欲しい」

「どうすればいいって・・・・知らないわよ、そんなの。モノじゃないし、欲しいって言われても、あげられないわ」

 三輪さんと決着がつくまでは、自分でもどうにもならないと思うし。



「俺をこんなに苦しめて、絶対に赦しませんから」真吾君の顔が近づいた。「和歌子さん、好きです――・・・・」



 
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