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Office07・一触即発
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一触即発の気持ちを何とか押さえつけ、案内された何時もの事務室とは違う部屋に案内された。
そこは小さな応接部屋もどきだった。どちらかといえば、スタッフルームみたいな感じではある。あまり使用感は無い部屋だ。
「今、お茶を用意させてるから、もう少し待ってくださいね」
ベタベタ肩を触られたまま、更に小さな応接椅子に座らされ、事もあろうか和田さんも私の横に座って来た。
「あの・・・・離れてもらえませんか?」
さっきから中年のおじさん独特の香りが鼻腔をつく。不愉快だ。堪忍袋の緒が、切れそう。
「ん? あれー、久遠寺さん、そんな事言っていいのかなあ? この案件、通したいんでしょう?」
「・・・・」
黙ってしまった私が肯定したのとでも思ったのか、和田さん――いや、ハゲオヤジは、私の肩を更に撫で回してきた。
スーツ越しとはいえ、不愉快極まりないっ!!
イカン、私、ヤバイ。爆発する。
「久遠寺さん、ちょっとでいいんですよ。ちょっとそのまま黙っていてくれたら――・・・・」
ぶっちーん
私は自分の中で何かが切れる音を聞いた。
その瞬間、右手がオヤジの頬を張り飛ばしていた。
「ふざけんなっ、セクハラハゲオヤジ! 取引を盾に、同意も無く勝手に触るなっ!! 女、ナメんなよっ!!」
和田さんを怒りに任せてビンタしちゃった手前、事態の収拾をどうつけていいのかわからないから、さっさと部屋を出て行こうと思って出口の扉に向かおうと思ったら、おみごとー、とスマホをこちらに向けていた真吾君が、にこやかに近づいてきた。
「えっ、なっ・・・・なんで真吾君が・・・・」
っていうか、何時からいたの!?
「和歌子さんがこの部屋に連れ込まれるところを目撃しまして。助けに入ろうと思ったら、お見事解決という場面に出くわした、という訳です」
にっこり笑ってスマホをチラチラと見せた。「セクハラの証拠、押さえさせていただきました」
真吾君の言葉に、ハゲ――じゃなかった、和田さんは青ざめている。
「あ、あのっ・・・・これには深いワケが・・・・」
「和田さん。嫌がる女性にこのような事をする、どの様なワケがあるのですか? ねえ?」
お前が言うな――っ!! どの口が言うんじゃーいっ!!
私の怒りの視線を感じているにも関わらず、真吾君はまるで無視で和田さんに詰め寄った。
「コレ、どうさせていただきましょうか?」
「あ、あのっ・・・・どうかこの事は内密に・・・・」
和田さんは泣きそうな顔で、悪魔に懇願している。
「・・・・考えておきます。今日のプレゼン、宜しくお願いしますね?」
「はっ、はいっ!!」
「それでは、失礼します。和歌子さん、行きましょう」
真吾君は私の肩を抱いて、和田さんを残して部屋を出た。
人気のない所までそのまま連れてこられた。
「大丈夫でしたか?」心配そうにのぞき込まれた。
「平気よ。肩触られただけだから。我慢ならなくて、張り飛ばしちゃったけど」
「怖かったでしょう。離れてすみませんでした」真吾君に力強く包まれた。「一人にして、本当にすみませんでした」
「大丈夫よ。心配要らないわ。怖くは無かったけど、不愉快だっただけ」
真顔で言い放つ私のセリフに、真吾君は笑顔を見せた。
「気を付けないと、俺も張り飛ばされるんですかね?」
「知らないっ」
そうよね。真吾君だってセクハラよねっ。
でも、イケメンだから迫られてちょっと嬉し――・・・・いやっ、違う! 嬉しくない! ナニ考えてるの、私っ!!
「現時点で張り飛ばされてないから、俺は脈アリって思っておきます」
真吾君が、悪魔じゃないカワイイ天使の笑顔を見せた。
コイツ・・・・使い分けが上手い。
私がこの笑顔に弱いコト、解ってるんだもん。
「それより、どうするの? 和田さんのコト、セクハラしてたってみんなに言うの?」
「プレゼンが終わったら考えます。まあ、俺に任せておいてください。このコトは、三輪さんにも言っちゃダメですよ。言ったら――」
ニコニコしながら顔を覗き込まれた。「おしおき、しますからね」
おしおきって・・・・何でセクハラ受けた私が、再びセクハラを受けにゃならんのじゃ!
意味わからんわ!!
「ホラ、早く行きましょう。もうすぐプレゼンの時間です。絶対成功させますからね。俺の隣で見ていてください」
何か言いたそうにキツく真吾君を睨んでいる私を促し、二人で事務所へと急いだ。
そこは小さな応接部屋もどきだった。どちらかといえば、スタッフルームみたいな感じではある。あまり使用感は無い部屋だ。
「今、お茶を用意させてるから、もう少し待ってくださいね」
ベタベタ肩を触られたまま、更に小さな応接椅子に座らされ、事もあろうか和田さんも私の横に座って来た。
「あの・・・・離れてもらえませんか?」
さっきから中年のおじさん独特の香りが鼻腔をつく。不愉快だ。堪忍袋の緒が、切れそう。
「ん? あれー、久遠寺さん、そんな事言っていいのかなあ? この案件、通したいんでしょう?」
「・・・・」
黙ってしまった私が肯定したのとでも思ったのか、和田さん――いや、ハゲオヤジは、私の肩を更に撫で回してきた。
スーツ越しとはいえ、不愉快極まりないっ!!
イカン、私、ヤバイ。爆発する。
「久遠寺さん、ちょっとでいいんですよ。ちょっとそのまま黙っていてくれたら――・・・・」
ぶっちーん
私は自分の中で何かが切れる音を聞いた。
その瞬間、右手がオヤジの頬を張り飛ばしていた。
「ふざけんなっ、セクハラハゲオヤジ! 取引を盾に、同意も無く勝手に触るなっ!! 女、ナメんなよっ!!」
和田さんを怒りに任せてビンタしちゃった手前、事態の収拾をどうつけていいのかわからないから、さっさと部屋を出て行こうと思って出口の扉に向かおうと思ったら、おみごとー、とスマホをこちらに向けていた真吾君が、にこやかに近づいてきた。
「えっ、なっ・・・・なんで真吾君が・・・・」
っていうか、何時からいたの!?
「和歌子さんがこの部屋に連れ込まれるところを目撃しまして。助けに入ろうと思ったら、お見事解決という場面に出くわした、という訳です」
にっこり笑ってスマホをチラチラと見せた。「セクハラの証拠、押さえさせていただきました」
真吾君の言葉に、ハゲ――じゃなかった、和田さんは青ざめている。
「あ、あのっ・・・・これには深いワケが・・・・」
「和田さん。嫌がる女性にこのような事をする、どの様なワケがあるのですか? ねえ?」
お前が言うな――っ!! どの口が言うんじゃーいっ!!
私の怒りの視線を感じているにも関わらず、真吾君はまるで無視で和田さんに詰め寄った。
「コレ、どうさせていただきましょうか?」
「あ、あのっ・・・・どうかこの事は内密に・・・・」
和田さんは泣きそうな顔で、悪魔に懇願している。
「・・・・考えておきます。今日のプレゼン、宜しくお願いしますね?」
「はっ、はいっ!!」
「それでは、失礼します。和歌子さん、行きましょう」
真吾君は私の肩を抱いて、和田さんを残して部屋を出た。
人気のない所までそのまま連れてこられた。
「大丈夫でしたか?」心配そうにのぞき込まれた。
「平気よ。肩触られただけだから。我慢ならなくて、張り飛ばしちゃったけど」
「怖かったでしょう。離れてすみませんでした」真吾君に力強く包まれた。「一人にして、本当にすみませんでした」
「大丈夫よ。心配要らないわ。怖くは無かったけど、不愉快だっただけ」
真顔で言い放つ私のセリフに、真吾君は笑顔を見せた。
「気を付けないと、俺も張り飛ばされるんですかね?」
「知らないっ」
そうよね。真吾君だってセクハラよねっ。
でも、イケメンだから迫られてちょっと嬉し――・・・・いやっ、違う! 嬉しくない! ナニ考えてるの、私っ!!
「現時点で張り飛ばされてないから、俺は脈アリって思っておきます」
真吾君が、悪魔じゃないカワイイ天使の笑顔を見せた。
コイツ・・・・使い分けが上手い。
私がこの笑顔に弱いコト、解ってるんだもん。
「それより、どうするの? 和田さんのコト、セクハラしてたってみんなに言うの?」
「プレゼンが終わったら考えます。まあ、俺に任せておいてください。このコトは、三輪さんにも言っちゃダメですよ。言ったら――」
ニコニコしながら顔を覗き込まれた。「おしおき、しますからね」
おしおきって・・・・何でセクハラ受けた私が、再びセクハラを受けにゃならんのじゃ!
意味わからんわ!!
「ホラ、早く行きましょう。もうすぐプレゼンの時間です。絶対成功させますからね。俺の隣で見ていてください」
何か言いたそうにキツく真吾君を睨んでいる私を促し、二人で事務所へと急いだ。
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