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Office06・ピアス

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「真吾君・・・・」

 出来る限り色っぽく名前を呼んで、彼の頬に手を当てた。
 眼鏡の奥の瞳と、目が合った。僅かな動揺が伺える。私がこんな風にキスしてくるなんて、思わなかったんでしょう。
 嫌がって、恥ずかしがって、無理矢理頑張るところを見て、楽しもうと思ったんでしょっ!

 そうはいかないんだからね。私は大人の女なのよっ。

 何時までも真吾君にばっかり、ドキドキさせられるワケにはいかないの。
 貴方が、私にドキドキしなさい。


 彼の首に腕を絡めて、私は自分から唇を重ねた。


 瞬間に見えた。少し驚いて見開く瞳。でも、すぐそんな驚きは消し去って、嬉しそうな瞳になる。

 貴方も、私がそんなに好きなのね。必死なのね。
 だから、こんな事しちゃうのね。

 でも、それじゃダメよ、真吾君。

 私の心は捕まえられないわ。


「もういいでしょ。いっぱい払ったわ」


 暫く重ねていた唇を離して、笑ってやった。
 どう反応して、切り返してくるのかしら。何か楽しみになってきた。

「悪い女ですね、和歌子さん」驚異的な悪魔の笑顔を湛えた真吾君は、私の耳元で囁いた。「俺の事好きでもないクセに、挑発したりして」

「――っ!」

 ピアスごと、耳たぶを甘噛みされた。「このまま噛みちぎってやりたいですよ。他の男の印なんて」

 真吾君の言葉に、ゾクゾクした。噛みつかれて痛いのか、快感なのか、そのセリフになのか、よく解らなかった。
 ふっと息を耳に吹き付けられて、身体がびくん、と反応する。

「和歌子さんは、それでいい。ずっと可愛い和歌子さんでいてください。無理して俺を挑発しないことです。そんな事したら、どうなるか知りませんよ。保証できませんからね」

 悪魔の方が、一枚上手だった。
 彼を呆然と見つめていると、鋭い瞳を解いて、またカワイく笑った。誰もが騙される、可愛い後輩の顔だ。私もずっと騙されてきた、その笑顔。


「タイムアップです。そろそろ行きましょう」


 真吾君はそのまま私を残して、給湯室を後にした。
 噛みつかれた、右の耳がチクリと痛みを訴えた。



 結局ギャフンと言わされたのは、私の方だった。



 

 
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