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Office05・進展アリ?

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 後は適当にウィンドウショッピングをした。オススメの居酒屋を教えてくれと言われたので、思い切ってアヤネと良く行く居酒屋に行った。
 そこは小さな路地にある純日本風な居酒屋で、隠れ家的な店だ。しかし味はなかなかのもので、結構繁盛している。今の時間は忙しいかと思ったけど、丁度団体と入れ違いに入れたので、難なく座れた。並んでいる事が多いから、ラッキーだった。
 アヤネと二人で贔屓にしているから、マスターとは顔なじみだ。職場の上司の方を連れて来たと言うと、気を使って、一番奥の座敷を使わせてくれた。
 この店はしきりもあるから、簡易個室のようになるのが好きだったけど、三輪さんを目の前にしてるから緊張する。もっと別の、開放的な居酒屋の方にすれば良かったと後悔した。


「やっぱり、ビールで乾杯かな」


 三輪さんは、生ビールを二つ注文して、メニューに視線を落とした。
 枝豆とか、冷奴とか、好きなんだって。日本食を愛するオヤジのようだけど、三輪さんが好きならそれもかっこよく思えるのが不思議。

 三輪さんの好きな枝豆とビールが運ばれてきて、乾杯となった。
 枝豆を一口食べて三輪さんは、うまい、と声を漏らした。

 
「いやあ、これは丹波の黒豆だ。居酒屋でこんな良い枝豆出しているところもあるんだな」

 三輪さんが美味しそうに枝豆を食べている姿を見て、普段の格好いい姿とはまた違う一面を見れた。何だか可愛らしい。微笑んでいると、三輪さんも笑顔を見せた。「すまない。子供みたいに興奮してしまった。あまりに枝豆が美味かったから、つい・・・・」

「解ります。好きなメニューが美味しかったら、テンション上がりますよね。枝豆も美味しいですけど、他の料理も美味しいですよ」

「良いお店だね。とても気に入ったよ。僕も今後、使わせて貰ってもいいかな?」

「勿論です! マスター、喜びます」


 三輪さんは嬉しそうにビールを飲み、枝豆を食べている。
 良かった。気に入って貰えて。


「和歌ちゃんに、お礼をしなきゃいけないな」

 ニコニコしながら三輪さんは、スーツの胸ポケットをまさぐり、綺麗にラッピングされた小さな箱を取り出した。

「受け取ってくれないか」

「えっ・・・・わたし、に、ですか?」

「そうだよ。一週間も貴重な時間を僕のために割いてくれているお礼」
 
「そ、そんな、受け取れません! そんなつもりでお付き合いしているワケじゃ――」

「いいから。これは、僕の気持ちだから。それに、男が一度出したものを引っ込めさせるようなマネを、ステキなレディーはしないはずなんだけどな」

 上手に断れないように、三輪さんに言われちゃった。
 嬉しい反面、そんな事をされたら――私にだってチャンスがあるのかもって、期待、しちゃうじゃない。
 私の事、少しは気にしてくれてるのかも、って思っちゃうじゃない。

 真吾君が何度も繰り返した、火遊びのフレーズを思い出した。



 私が、三輪さんと・・・・深い仲に――・・・・




――和香ちゃん、いいかな?

――三輪さん・・・・





 


 キャー、私ったら何考えてるのっ!



 違うっ、違うのっ!
 そんな風になりたいけど、それは夢見ちゃうけど、桃香さんを悲しませるような事は、絶対に出来ないんだから!



 三輪さん。もうやめて。こんな事しないで。
 貴方のこと早く忘れたいのに、忘れられなくなっちゃう。
 私は今、貴方の事を忘れる為に限定デートを引き受けて、今、ここに居るのに。

 こんな事されても、嬉しい反面――想い出が残ってしまって、辛くなる。


 どうしたらいいんだろう。



 この選択は、限定デートを引き受けたのは、間違いだったのかもしれない。



 もっと深みにハマって、抜け出せなくなってしまうだけだったのかもしれない。



 笑顔を見せつつ、私の心はずぶずぶと深く真っ黒な暗い沼地に落ちていった。



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