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Office03・知れば知るほど

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「そうなのか。それじゃあ久遠時君にしっかり指導してもらえ」


 三輪さんは私に、よろしく頼むと微笑を寄越し、その場を去っていった。
 狼狽も、嫉妬の色も、何も見せずに。


 ・・・・そりゃ、そうよね。


 限定デートだって別に火遊びなんかのつもりでもないし、ましてや三輪さんが、私とどうこうなろって目的のお付き合いでも何でもないんだし。私一人で浮かれて・・・・なんか、バカみたい。

「離してよっ!!」

「ちょっと和歌子さん、待って。今はまずいですよ」

 真吾君は私の目を軽く抑えて、給湯室の方へ連れて行ってくれた。
 幸い誰も居なかった。

「ゴメン、和歌子さん。泣かせるつもりじゃなかった」

「泣いてないわよっ!!」

 怒鳴った拍子に、目にいっぱい溜めていた涙が、ボロボロと零れ落ちた。
 ヤダ。知らないうちに、涙出てたんだ。恥ずかしい。


「すみません。ちょっとやりすぎました。でも、俺だってそれだけ余裕無いんです。貴女が、三輪さんとデートしてるってだけで、俺は嫉妬で気が狂いそうなんですから」

「けどっ、こんなやり方って無いよ!」


 ダメ。仕事前だっていうのに、涙、止まらないよ・・・・。
 これからプレゼンの資料作って、やることいっぱいあるのに。
 その前に、化粧しなおさなくちゃ。でも、そんな時間あるかな・・・・。

 真っ赤な鼻して化粧も崩れたままミーティングに参加なんてできないし、さっさと泣き止まなきゃいけないのに。でも、涙、止まらない。

 いい年した大人が、何オフィスで涙なんか流してんのよ。ホント、バカだ。
 でもなんか、ものすごく惨め。
 一人で舞い上がっていただけの私が、ホントに哀れだ。
 解っていたのに、今、また思い知らされたんだ。そのことがショックで堪らない。


「和歌子さん、泣かないで下さい。俺が、涙の止まる魔法、かけてあげるから・・・・」


 真吾君の顔が近づいたと思った瞬間。彼に、キスされてた。



 ちょっぴり強引で、熱い、口付け――・・・・



 って、何でこんな展開になってんのよ!!


「いい加減にしてッ!!」


 気が付くと、彼の頬に平手打ちをかましていた。「アンタなんか、ダイッキライ!!」

 慌ててお手洗いに駆け込んで、鏡を見る。ちょっと化粧が崩れかかっているけど、まだ修復可能な顔がそこに映っていた。若干、鼻の頭が赤い。けど、驚いて怒ったせいで、涙は引っ込んでいた。



――私の涙を止めるために、わざと?



 いやいやいやいや。
 そもそもこーなったのは、アイツ(真吾)のせいだっ!
 物事を都合よく解釈しても、得になんかならないわっっ。
 それに、勝手にキスなんかしやがって!
 頭来たッ!!

 私は慌てて化粧を直し、始業のチャイムと同時に自分の席に滑り込んだ。
 斜め後ろの席から視線を感じたので、見ると真吾君が手を振っていたからヤツに向かって思い切りアカンベーをして、自分の仕事に取り掛かった。
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