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Office02・限定デートの始まり

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 彼は、私のドコが気に入ったのかは解らないけど、本当に最近よく私に絡んでくる。多分、好意を持ってくれているのだろう。それは有難いし、もし付き合おうって言われたら・・・・こんな私に、そんな素敵な男の子が好意を寄せてくれてるってだけでも有難いのだけれど。


 でも、ダメ。


 三輪さんの片思いにケリをつけられない限り、私は前に進めない。
 だからもうこれ以上、こんなにいい子を傷つけちゃダメだ。


「あの・・・・ゴメンね」

「何がですか?」


 運ばれてきたアイスコーヒーを美味しそうに飲みながら、真吾君が笑顔を返してきた。

「あの、デートとかよく誘ってくれるけど、もう誘わないで欲しいの」意を決して私は言った。「私、好きな人居るの! だから――」

「何だ、そんな事」真吾君は眼鏡を中指で調えながら平然と言った。「知ってますよ」

  
「えっっ!?」

「どうせ、三輪さんへの気持ちが整理できてないのに、俺と付き合うなんて無理――そんな所ですか?」


――アヤネのヤツぅ! バラしたなぁっ!!


「ご心配なく。アヤネさんからは、一言も聞いてませんよ」

 何、この子っ。私の考えが読めるなんて、エスパー!?

「エスパーじゃありませんよ。和歌子さんは、本当に解りやすい女性(ひと)だ」

 クスクス笑われてるんだけど!!
 ちょっと、バカにされてない?
 ていうか、どうして私が三輪さんが好きだなんて解るワケ!?

「見ていたら解りますよ、貴女が三輪さんの事を好きなんだなって事くらい」

「そんなに解りやすい?」

「ええ、そりゃあもう」

 笑顔で全肯定されちゃったよ。・・・・トホホ。
 三輪さんに自分のキモチがバレてるんじゃないかと思うと、気が気じゃなくなってきた。

「まあ、この際だからハッキリ言っておきます。俺、和歌子さんが好きです。だから、待ってますから。和歌子さんの気持ち整理つくまで、待ちますから。とはいえ、あまり辛抱強い方じゃないんですけどね」


 あっさり好きとか言いやがった!
 このオトコ・・・・侮れない!!


 返答に困っていると、真吾君が屈託のない笑顔を見せた。「俺、和歌子さんと一緒で諦め悪いタチなんで、勝手に待ってますから。それじゃ、今後もよろしくお願いします」

 アイスコーヒーを飲み終えた真吾君は、伝票を手に取り、それじゃあお先です、と私の前を去って行った。


 何をよろしくするんだよーっ!!


 叫びたいのをグッと堪え、改めて私はとんでもない後輩に好かれたのだと実感した昼下がりだった。




 ※




 現在、午後六時。
 今日は流石に昨日のように五時には仕事が終わらなかったので、とりあえず本日の報告を提出して、帰宅準備を始めた。ロッカーで着替えを終えて外に出ると、何と真吾君が立っていた。

「もうお帰りですか?」

「え、ええ。まあ」


 真吾君て、何か苦手だよーっ!!


「三輪さんとのデート、あまり頑張らないで下さいね」

「なっ・・・・!!」

 驚いた顔を見せると、真吾君は笑い出した。「ホラ、解りやすい」

「ちょっ・・・・からかわないで!」

「そんな可愛い所も好きですよ、和歌子さん」

 屈託のない天使のような笑顔だと思っていたけど、急にヤツの笑顔が悪魔の笑顔に見えてきた!


「やっ、やめてよ! 誰かに聞かれたらどーすんのよっ、バカ!!」


 絶対からかわれてるわ!
 この悪魔に!!
 散れッ! 悪霊退散!!

 
「俺だってもう遠慮しませんからね。和歌子さんの事。三輪さんには負けませんから」

「勝ち負けじゃないでしょ!」

「そんなに騒いでたら、誰か来ちゃいますよ? 例えば三輪さんとか」

「もうっ!! お疲れさまっ!!」

 プイ、とそっぽを向いて歩き出そうとする私を、真吾君が強引に抱き寄せた。


「なっ・・・・!!」

「おまじないです」


 耳たぶに、ちゅっ、とキスされた。




「――――っ!!」




 耳まで真っ赤にしてうろたえる私に、三輪さんに和歌子さんは渡さないから、と囁いて、スタコラ自分の持ち場へ帰って行った。




 なんなのアイツ――――っ!!




 ハンカチでゴシゴシと耳を拭いて、とりあえず待ち合わせ場所に向かった。
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