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第四話・罠を仕掛けた男

Side・秋山 壮太・13

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 それから暫く経ったある日の事。亜貴から俺のスマートフォンに着信があった。
 俺の仕事が終わる時間を見計らってかけて来たんだろう。その着信があった時刻は、夜の七時を過ぎていた。
 それは、最後の患者の相談や話が終わったところで、仕事終わり直後だった。

 亜貴の用件は、何でも、玲子と亜貴の間にできた子供が、今日産まれたらしい。
 話もあるし、是非、病院まで来て欲しいと言われたので、指定された病院へ祝い金を持って急いだ。

 俺の奥さん――ゆっちゃんには勿論、この事をすぐに話した。隠し事は絶対にしないと二人で決めたんだ。ゆっちゃんには、どんな些細な事でも、何でも話す約束をしている。だからお互い、信頼して安心できるんだ。
 ゆっちゃんからも、亜貴や玲子によろしく伝えてくれ、と病院へ向かう事、快く返事を貰った。


 指定された病院に到着し、松田玲子の病室を聞き、そこへ向かう途中で、亜貴が俺を待っていた。

「やあ。わざわざ来てくれてありがとう。急に、悪いね」

「いや、別に構わないさ。それより子供、産まれたんだな。おめでとう。これ、俺たちからの祝いだ、取っといてくれ。あと、俺達も子供が出来たんだ。今、二か月目。また産まれたら、知らせるから」

「そうか。それは良かったね、おめでとう」

 笑顔で祝いの言葉を述べてくれた亜貴に、祝儀袋を手渡した。
 子供が出来た――それで玲子は亜貴との再婚を決めたのかと、知らせを聞いて、来る途中に二人の選んだこれからの未来について、納得したんだ。
 玲子、元気にしてるのかな。亜貴の元で、幸せに暮らしているのかな。
 俺もようやく、玲子を手放した事、ふんぎりがついたんだ。
 心のしこりが、随分なくなったように思う。ゆっちゃんとの幸せな毎日や、これから産まれてくる、新しい命のお陰だろう。

 そうそう。食べれるか解らないけれど、玲子はプリンが好きだったから祝い金とは別に、土産として何個か買って持ってきたんだ。これは後で、玲子に渡してやろう。
 玲子の体調が良くて話せる状態なら、沢山、色んな話を聞きたいと思った。今ならきっと、玲子の事をちゃんと祝福できると思うから。


「祝い金なんて良かったのに、壮は律儀な男だね。本当、壮らしいな。ありがとう。折角だから受け取っておくよ。今日はちょっと重要な事を聞いておきたくて、来てもらったんだ。少し話そう」

 亜貴が待っていてくれた、病室へ向かう途中にあるフリースペースで雑談するように促された。

「俺に聞いておきたい事って、何だよ」

 フリースペースに設置されている簡易椅子に腰かけながら、俺は亜貴に尋ねた。



「玲子とは寝たの?」



 あまりに突然の質問と内容に、耳を疑った。
 この男は、このタイミングで一体何を聞いてくるのだろう。意図が読めない。
 絶句していると、亜貴は俺の回答を促してきた。
 
「これは本当に重要な事なんだ。もし万が一なんて事があったら、困るだろう? 確かめておきたいんだ」

 鋭い亜貴の目線があまりに真剣で、仕方なくしぶしぶ答えた。

「・・・・玲子と関係を持った事は、一度だけある」

「僕の想像通りで良かった。避妊は?」


 ・・・・どこまで突っ込んで聞いてくるんだ、この男は。しかも、想像通りで良かったとは、一体、どういうつもりだ。これは、こんな席で聞くような事なのか?
 普通、前夫との情事話なんて、そんな事、聞くのはイヤだろ。訳が解らない。


「勿論、したさ。無責任な事は出来ないからな」

 亜貴の鋭い目線が俺の回答を求めてくるから、これも仕方なく、しぶしぶ正直に答えた。

「だろうね。壮の性格なら、それくらいの事を当たり前にすることは、容易に察しがつくよ・・・・」

 どうしてこんなおめでたい日に、そんな情事話を聞いてくるのだ。察しがついてるなら、わざわざ聞くなよ。
 本当にこの男は、普通じゃない。
 やっぱりクレイジーだ。頭がおかしくなってしまったのか。

 ああ、そうか。頭のネジが飛んでるんだな、きっと。
 死にかけた時に、黄泉の国にネジを何本か落としてきたんだ。そのままお前もネジと一緒に落ちて、向こう側に残れば良かったのに。このままもう一度、黄泉の国へと旅立ってくれないかな。
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