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第四話・罠を仕掛けた男

Side・秋山 壮太・11

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 それから、また月日は流れた。
 アイツの宣言からすぐ、ゆっちゃんと亜貴は離婚が成立し、法律の問題があるから半年の期間を経て、俺とゆっちゃんは再婚し、亜貴と玲子も再婚した。

 心にしこりが残ったままだったが、自分の犯した罪だと思う事にした。

 俺のクリニックの近くに、今までの貯蓄も使って新しい家をローンで買い、前に住んでいた家は引き払って、心機一転、ゆっちゃんと二人でここからスタートすることにした。
いよいよなんだ。これで、俺もゆっちゃんと幸せになれるんだ。
 仕事を終えて家に帰ると、ゆっちゃんが待っていてくれる。こんなに嬉しい事はないと、天にも昇る気持ちだった。
 ゆっちゃんは、中学の時と同じで何も変わっていなかった。


 ゆっちゃんは、よく笑って、よく喋って、よく怒る、可愛い女の子がそのまま大人になったような女性だった。


 俺も中学の時と同じように、何でも彼女には話した。たまにからかって冗談を言うと、何時ものようにムキになって反論してくる。全く同じだ。
 俺と君は、本当に相性がいいんだなって思う。飾らなくても、ありのままで楽しく過ごせるんだ。俺も、孤独な深い闇に堕ちていくこと無く、明るく、笑って暮らせるんだ。本当に、本当にゆっちゃんの傍にいると、幸せだなって思う。

 だから俺はそんなゆっちゃんを、毎晩のように愛した。
 正直に言うと、玲子の事を忘れたかったのもある。ゆっちゃんだけが大切なのだと、心に言い聞かせた。その為に今まで多くの犠牲を払い、辛く苦しい思いをしてまでここまで来たんだ。ゆっちゃんを見つめて歩いていく事しか、考えないようにしたかった。
 ただゆっちゃんは、本当に可愛くて、可愛くて、愛しくて、どうしようもないくらいに、彼女に溺れたのは嘘なんかじゃなく、本当の、本物の事実だった。
 やはりこの選択は間違っていなかったんだと、再確認した。


 ゆっちゃんも、たまに物思いにふけることはあっても、亜貴じゃなく本当に俺を愛してくれようと、頑張ってくれたと思う。
 俺が十何年も君だけを愛してきたように、ゆっちゃんだって俺と同じだけ、亜貴を見つめて愛してきたんだ。亜貴の事を忘れたくて、俺を受け入れてくれていたんじゃないか――そんな風にも思った。
 でも、それでも構わなかった。亜貴を君の心から完全に追い出すことができないのは、玲子の事を心から追い出すことが出来なかった俺には、理解できるから。


 ゆっくりでいい。二人で、新しい時間を築いていけたら、それでいいと俺は思っている。


 そんな風に思い過ごしてきたある日の事、ゆっちゃんの身体に異変があった。
 何やら心当たりがあるようで、朝から病院に行くと言っていたけれど、とても心配だった。
 正直、今日のカウンセリングに来た患者には、申し訳ない事をしたと思う。話が殆ど上の空で、どんな会話をしたか全く覚えていないんだ。こんな事は初めてだった。

 そんな風に仕事を終え、俺は一目散に家に帰って玄関のドアを壊す勢いで中に入った。

「ただいま、ゆっちゃん! 体調はっ? 大丈夫!? 俺もう、心配で心配で・・・・」

 とりあえず病院から帰って来ているゆっちゃんの姿を確認して、ほんの少しだけ安心した。勿論、メールは何回もして、大丈夫という事は聞いていたけど、顔を見るまで落ち着くことが出来なかった。
 ゆっちゃんを見ると、顔色が悪い訳ではない。むしろ紅潮していて、可愛い・・・・じゃなくて、俺は心配なんだっ!

「お帰りなさい。そんなに慌てて入って来なくても、大丈夫よっ。もう、壮くんって何時も大袈裟なんだからっ。ホントに心配性ね。でも、嬉しいよ。そんなに私のコト心配してくれて、ありがとう」

「そうなんだ! 本当に心配で、どうにかなりそうだよ、俺・・・・」

 悲愴な顔でゆっちゃんを覗き込む俺を、彼女が真剣に見つめ返してくれた。

「壮くん・・・・あのねっ、驚かないで、聞いてねっ?」

「何っ!? そんな真剣な顔してっ! 元気そうに見えるのに、そんなに病気の結果、悪かったんだっ!? 入院するのっ!? 俺、入院でゆっちゃんと離れるとか、絶対嫌だっ! ゆっちゃんが入院するなら、俺も入院するっ」

「んもうっ、違うしっ! 入院しないしっ!」怒られた。
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