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第四話・罠を仕掛けた男
Side・秋山 壮太・10
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あれから、月日が流れた。
亜貴も回復し、退院することになった。
本当にあの時、死んでくたばっていれば良かったのに、と何度思っただろう。
俺は玲子と離婚したけれど、亜貴の方はまだゆっちゃんと離婚をするつもりが無いらしく、現状そのままだった。
ただ、悪い事ばかりじゃない。嬉しい事があったんだ。
俺にとって何よりも欲しかった、ただ一つの願い――ゆっちゃんが亜貴と別れて、俺と一緒になることを決めてくれた。
ゆっちゃんは亜貴とのこと、相当悩んでいた。婚姻生活も長く続けてきて、彼の狂愛も知った上で、何とかやり直す事を考えたようだが、それについてはやはり、もう既に亜貴と一緒に居ることに限界を感じてしまっていて、再構築は出来なかったようだ。
玲子と関係を持った事が決定打になったのは、間違い無いだろう。
昨日今日の話じゃなく、ずっと培ってきた年月に対しての結果として、彼女が出した答えだった。
更に、亜貴の病床に玲子が何度も会いに来ている所を見て、彼等の愛を目の当たりにしたとも聞いた。
色々考えた上で、ゆっちゃん自身も俺を愛している事に気づいてしまった――だから、俺と一緒になりたいって、最終的には考えを決めてくれたんだ。
だから、ゆっちゃんが今後の事を考えて、事を荒立てずに離婚を進めたいって言うから、亜貴を訴えるような裁判は起こしていない。
亜貴はゆっちゃんの親父さんの会社の役員でもあるし、離婚となると、色々と立場的に大変なようだ。だから、彼女からの希望で静観を貫くしかない状態で、現状、身動きが取れないでいる。
アイツとどう決着つけるかを考えあぐねていたら、何とその諸悪の根源――亜貴から、俺のスマートフォンに着信があった。
『やあ、壮。元気かい?』
能天気にさえ聞こえる亜貴の声に、怒りが沸いた。
「一体、何時、ゆっちゃんと離婚してくれるんだよ」
『壮は口を開けば、由布ちゃんとの離婚を迫るんだね』
「当たり前だろう。俺に、ゆっちゃんを返せ!」
『由布ちゃんは、壮の所有物かよ。本当におめでたい男だね、お前は。・・・・まあ、いい。僕も、決めたんだ。由布ちゃんとは別れるよ。色々、折り合いもついたし』
「えっ・・・・!?」
この男が、こんなにあっさり離婚に応じるとは、どういう意図があるんだろう。
これは、罠かもしれない。亜貴の出方に気を付けよう。
『由布ちゃんと別れたら、玲子と再婚する。ずっと僕を支えてくれて、玲子の存在がいかに僕の中で大きなものかって、気が付いたんだ。もうお前のものでも何でも無いんだ。構わないだろ。彼女を貰うよ』
「なっ・・・・何だとっ!?」
『玲子を捨てたお前に、反対する権利なんて無いだろう? もう決めたんだ。お互い、良かったじゃないか。じゃあ、そういう事で』
「おいっ、亜貴――」
俺の返事なんか待たずに、プツッ、と通話が途切れ、ツーツーという機械音が流れて来た。
玲子と、再婚する・・・・確かに、亜貴はそう言ったな。
心が、ざわついた。
亜貴に・・・・玲子が盗られてしまう。いいや、玲子は俺のものでもないのに、盗られるなんて・・・・。
どうして亜貴なんだ、玲子。亜貴以外に、もっと他にも、良い男は沢山いるだろう。
俺が世界で一番憎んで、あれ程殺したいと思っている男と知っていて、それで、その男の元に行ってしまうのか。あんな死神みたいな男に、どうして・・・・。
でも、それは俺が口を挟める問題ではない。玲子が自分で決めた事を、俺がとやかく言う権利も、資格も無い。
ただ、苦しかった。
お前が亜貴のものになってしまうという事実が、俺の心を押しつぶそうとする。
本当に最低だ、俺は。
お前の事を愛してもやれず、自分勝手に放り出しておきながら、選んだ相手に嫉妬したりして。
何やってんだ!
玲子が犠牲になってまで作ってくれた道を、振り返ったりするな!!
ゆっちゃんと、幸せになるんだろ。
俺は十三年前に失われた時間を、幸せを、取り戻すんだ!
そうは思っても、亜貴の元へ玲子が行ってしまうという事実に、何故か酷く心が痛むのだった。
亜貴も回復し、退院することになった。
本当にあの時、死んでくたばっていれば良かったのに、と何度思っただろう。
俺は玲子と離婚したけれど、亜貴の方はまだゆっちゃんと離婚をするつもりが無いらしく、現状そのままだった。
ただ、悪い事ばかりじゃない。嬉しい事があったんだ。
俺にとって何よりも欲しかった、ただ一つの願い――ゆっちゃんが亜貴と別れて、俺と一緒になることを決めてくれた。
ゆっちゃんは亜貴とのこと、相当悩んでいた。婚姻生活も長く続けてきて、彼の狂愛も知った上で、何とかやり直す事を考えたようだが、それについてはやはり、もう既に亜貴と一緒に居ることに限界を感じてしまっていて、再構築は出来なかったようだ。
玲子と関係を持った事が決定打になったのは、間違い無いだろう。
昨日今日の話じゃなく、ずっと培ってきた年月に対しての結果として、彼女が出した答えだった。
更に、亜貴の病床に玲子が何度も会いに来ている所を見て、彼等の愛を目の当たりにしたとも聞いた。
色々考えた上で、ゆっちゃん自身も俺を愛している事に気づいてしまった――だから、俺と一緒になりたいって、最終的には考えを決めてくれたんだ。
だから、ゆっちゃんが今後の事を考えて、事を荒立てずに離婚を進めたいって言うから、亜貴を訴えるような裁判は起こしていない。
亜貴はゆっちゃんの親父さんの会社の役員でもあるし、離婚となると、色々と立場的に大変なようだ。だから、彼女からの希望で静観を貫くしかない状態で、現状、身動きが取れないでいる。
アイツとどう決着つけるかを考えあぐねていたら、何とその諸悪の根源――亜貴から、俺のスマートフォンに着信があった。
『やあ、壮。元気かい?』
能天気にさえ聞こえる亜貴の声に、怒りが沸いた。
「一体、何時、ゆっちゃんと離婚してくれるんだよ」
『壮は口を開けば、由布ちゃんとの離婚を迫るんだね』
「当たり前だろう。俺に、ゆっちゃんを返せ!」
『由布ちゃんは、壮の所有物かよ。本当におめでたい男だね、お前は。・・・・まあ、いい。僕も、決めたんだ。由布ちゃんとは別れるよ。色々、折り合いもついたし』
「えっ・・・・!?」
この男が、こんなにあっさり離婚に応じるとは、どういう意図があるんだろう。
これは、罠かもしれない。亜貴の出方に気を付けよう。
『由布ちゃんと別れたら、玲子と再婚する。ずっと僕を支えてくれて、玲子の存在がいかに僕の中で大きなものかって、気が付いたんだ。もうお前のものでも何でも無いんだ。構わないだろ。彼女を貰うよ』
「なっ・・・・何だとっ!?」
『玲子を捨てたお前に、反対する権利なんて無いだろう? もう決めたんだ。お互い、良かったじゃないか。じゃあ、そういう事で』
「おいっ、亜貴――」
俺の返事なんか待たずに、プツッ、と通話が途切れ、ツーツーという機械音が流れて来た。
玲子と、再婚する・・・・確かに、亜貴はそう言ったな。
心が、ざわついた。
亜貴に・・・・玲子が盗られてしまう。いいや、玲子は俺のものでもないのに、盗られるなんて・・・・。
どうして亜貴なんだ、玲子。亜貴以外に、もっと他にも、良い男は沢山いるだろう。
俺が世界で一番憎んで、あれ程殺したいと思っている男と知っていて、それで、その男の元に行ってしまうのか。あんな死神みたいな男に、どうして・・・・。
でも、それは俺が口を挟める問題ではない。玲子が自分で決めた事を、俺がとやかく言う権利も、資格も無い。
ただ、苦しかった。
お前が亜貴のものになってしまうという事実が、俺の心を押しつぶそうとする。
本当に最低だ、俺は。
お前の事を愛してもやれず、自分勝手に放り出しておきながら、選んだ相手に嫉妬したりして。
何やってんだ!
玲子が犠牲になってまで作ってくれた道を、振り返ったりするな!!
ゆっちゃんと、幸せになるんだろ。
俺は十三年前に失われた時間を、幸せを、取り戻すんだ!
そうは思っても、亜貴の元へ玲子が行ってしまうという事実に、何故か酷く心が痛むのだった。
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