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第四話・罠を仕掛けた男
Side・秋山 壮太・9
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それから、一日が経った。昨日は日曜日で仕事が休みだったから、幸いゆっちゃんの傍についていることができたけど、今日は月曜日。平日は仕事だから、俺は普通に自分のクリニックに出勤した。相変わらず仕事は忙しくて、時間が経つのがあっという間だった。
仕事が終わった後、様子が気になったから、亜貴の病室に向かう事にした。
ゆっちゃんに連絡を入れたら、丁度亜貴の着替え等を取りに自宅に帰っていて、今は居なかった。
彼女から、さっき亜貴が目を覚ました、という事を聞いた。複雑な胸中になったのは、言うまでもない。
亜貴の病室の前に立って静かに扉を開けたその時、話声が聞こえた。玲子の声だ。
彼女の声で、中に入ることを戸惑ってしまった。すると個室の仕切られたカーテンの向こう側に二人の影が映っているのが見え、話をしているのが伺えた。
――やあ。来てくれたんだ?
――もう、目覚めたの。しぶとい男ね、貴方も。
――僕を誰だと思っているんだよ。簡単には死なないさ。それより玲子が、僕を助けてくれたって?
――ええ。貴方を・・・・ずっと騙していたから。本当にごめんなさい。謝ろうと思って来たの。
――いいよ。玲子は悪くない。これは、僕と壮の問題なんだ。玲子を巻き込んで、悪かったね。
――亜貴・・・・。
――由布ちゃんから聞いたけど、さっさと別れて、僕をちょうだい、って言ったんだって? 結構大胆だね。
――ええ、言ったわ。だって貴方は常に脆く壊れそうだったし・・・・大きな闇を抱えて、ひとりぼっちの猫みたいだったから、何時も心配だったの。正直、由布子みたいな普通の女には、貴方みたいなクレイジーな男、手に余るわ。それに、由布子に捨てられたりしたら、貴方、どうなるかわからないでしょう?
――壮の為だけに、由布ちゃんにそんな事を言ったんじゃないんだ。僕の心配までしてくれて、優しいね、玲子。
――由布子とは離婚するの?
――さあ。どうだろうね。
――私じゃ、貴方のお姫様の代わりには、なれないの?
――玲子は、玲子だろ。代わりになんて、なる必要ない。それよりもっと、こっちにおいで。君こそ、壮に捨てられたんだろ。
――どうしてそれを・・・・? 壮太に聞いたの?
――いいや、壮には会ってないよ。そんな事、聞かなくても解るさ。玲子が、壮の罠だったからだよ。僕に近づいて、僕を罠に嵌めて、その後、君はどうなるの? 壮が由布ちゃんを手に入れたら、君は、独りになるだろう。可哀想な玲子。辛かっただろう? 僕が、慰めてあげるよ。
――本当に、勘の鋭い男ね。私の事だったら、大丈夫よ。全部、自分で決めたんだもの。後悔はしてないわ。
――でも、玲子、今すごく傷ついて、泣きそうな顔してる。そんな君の顔、初めて見た。可愛いよ、玲子。君のキレイなその顔、もっと僕に見せて。そう、もっと近くに・・・・
――亜貴・・・・んっ・・・・
――もっと僕の傍においで。
――っ、んっ・・・・っ・・・・ん、うっ・・・・あっ、んんっ・・・・
――はあっ・・・・玲子。っ、はっ・・・・もっと可愛い声、聞かせて?
――亜貴・・・・あ、っ、はぁっ、ん、あきっ・・・・
二人の影が近く重なり、深く激しい口づけの音や息遣いが聞こえて来た。
これ以上聞くのは耐えられなくなって、音を立てないように扉を閉め、病室を後にした。
玲子が亜貴に乱されるところなんて、見たくも無い。
大事な玲子が、死ぬほど憎んでいる亜貴の手で――考えるだけで、腸が煮えくり返りそうだ。自分勝手な嫉妬を燃やす資格なんて、俺には無い。今まで散々、玲子にそうさせてきたのは、この俺自身だというのに。
目の当たりにして、初めて気づいた。亜貴が玲子を乱すことに、嫉妬している、と。
一体、これからどうなるんだろう。
俺自身も、答えが出せない。
あれだけ欲しかったゆっちゃんが、もう目の前に、この手に掴めそうなのに。
何を迷っているんだろう。
俺は、取り返しのつかない事をしてしまったんじゃないかと、玲子を手放してしまった事について、何故か後悔の念を拭う事が出来なかった。
仕事が終わった後、様子が気になったから、亜貴の病室に向かう事にした。
ゆっちゃんに連絡を入れたら、丁度亜貴の着替え等を取りに自宅に帰っていて、今は居なかった。
彼女から、さっき亜貴が目を覚ました、という事を聞いた。複雑な胸中になったのは、言うまでもない。
亜貴の病室の前に立って静かに扉を開けたその時、話声が聞こえた。玲子の声だ。
彼女の声で、中に入ることを戸惑ってしまった。すると個室の仕切られたカーテンの向こう側に二人の影が映っているのが見え、話をしているのが伺えた。
――やあ。来てくれたんだ?
――もう、目覚めたの。しぶとい男ね、貴方も。
――僕を誰だと思っているんだよ。簡単には死なないさ。それより玲子が、僕を助けてくれたって?
――ええ。貴方を・・・・ずっと騙していたから。本当にごめんなさい。謝ろうと思って来たの。
――いいよ。玲子は悪くない。これは、僕と壮の問題なんだ。玲子を巻き込んで、悪かったね。
――亜貴・・・・。
――由布ちゃんから聞いたけど、さっさと別れて、僕をちょうだい、って言ったんだって? 結構大胆だね。
――ええ、言ったわ。だって貴方は常に脆く壊れそうだったし・・・・大きな闇を抱えて、ひとりぼっちの猫みたいだったから、何時も心配だったの。正直、由布子みたいな普通の女には、貴方みたいなクレイジーな男、手に余るわ。それに、由布子に捨てられたりしたら、貴方、どうなるかわからないでしょう?
――壮の為だけに、由布ちゃんにそんな事を言ったんじゃないんだ。僕の心配までしてくれて、優しいね、玲子。
――由布子とは離婚するの?
――さあ。どうだろうね。
――私じゃ、貴方のお姫様の代わりには、なれないの?
――玲子は、玲子だろ。代わりになんて、なる必要ない。それよりもっと、こっちにおいで。君こそ、壮に捨てられたんだろ。
――どうしてそれを・・・・? 壮太に聞いたの?
――いいや、壮には会ってないよ。そんな事、聞かなくても解るさ。玲子が、壮の罠だったからだよ。僕に近づいて、僕を罠に嵌めて、その後、君はどうなるの? 壮が由布ちゃんを手に入れたら、君は、独りになるだろう。可哀想な玲子。辛かっただろう? 僕が、慰めてあげるよ。
――本当に、勘の鋭い男ね。私の事だったら、大丈夫よ。全部、自分で決めたんだもの。後悔はしてないわ。
――でも、玲子、今すごく傷ついて、泣きそうな顔してる。そんな君の顔、初めて見た。可愛いよ、玲子。君のキレイなその顔、もっと僕に見せて。そう、もっと近くに・・・・
――亜貴・・・・んっ・・・・
――もっと僕の傍においで。
――っ、んっ・・・・っ・・・・ん、うっ・・・・あっ、んんっ・・・・
――はあっ・・・・玲子。っ、はっ・・・・もっと可愛い声、聞かせて?
――亜貴・・・・あ、っ、はぁっ、ん、あきっ・・・・
二人の影が近く重なり、深く激しい口づけの音や息遣いが聞こえて来た。
これ以上聞くのは耐えられなくなって、音を立てないように扉を閉め、病室を後にした。
玲子が亜貴に乱されるところなんて、見たくも無い。
大事な玲子が、死ぬほど憎んでいる亜貴の手で――考えるだけで、腸が煮えくり返りそうだ。自分勝手な嫉妬を燃やす資格なんて、俺には無い。今まで散々、玲子にそうさせてきたのは、この俺自身だというのに。
目の当たりにして、初めて気づいた。亜貴が玲子を乱すことに、嫉妬している、と。
一体、これからどうなるんだろう。
俺自身も、答えが出せない。
あれだけ欲しかったゆっちゃんが、もう目の前に、この手に掴めそうなのに。
何を迷っているんだろう。
俺は、取り返しのつかない事をしてしまったんじゃないかと、玲子を手放してしまった事について、何故か後悔の念を拭う事が出来なかった。
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