【R18】Wの罠

さぶれ@6作コミカライズ配信・原作家

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第四話・罠を仕掛けた男

Side・秋山 壮太・8

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 あれから、半日が経った。亜貴は玲子の輸血で命を取り留めたが、まだ目を覚ましていない。本当にしぶとい男だ。生きながらえるとは。そのまま死ねば良かったのに、と心の底から思う。

 でも、ゆっちゃんの為にはまだ死んで貰っては困るんだ。亜貴を助けるのは苦渋の決断だったが、背に腹は代えられない。
 このまま一生目を覚まさなければいいのにと思うが、それはそれで、ゆっちゃんが亜貴の傍を離れなくなるだろう。さっさと目を覚ましてもらって、ゆっちゃんと離婚して貰わないと困る。本当に邪魔な男だ。存在自体が無くなればいいのに。

 玲子の方もかなり無理して血を採ったようだから、安静にするために別の部屋で眠っていたが、先ほど目を覚ましたようで、俺達に声がかかり、玲子の部屋に向かった。


「玲子、どうだ、大丈夫か?」


 リクライニングのあるベッドを起こしてそれに凭れている玲子は、顔色が少し悪かったが、しっかり目を開いている。無事で良かった。

「亜貴は、まだ目を覚まさないの?」

 玲子は俺の顔を見るなり、亜貴の容態を尋ねてきた。

「ああ。玲子のお陰で一命は取り留めた。でも、まだ目は覚ましていない。後は、待つしかないと思う」

「そう」

 玲子は一呼吸置いて、何か決心したように、俺達の方を向いた。

「由布子さん、少し話せる? 壮太も、ここに居て」

「えっ、あ、はい」

 ゆっちゃんも玲子の傍にやって来た。俺と並んで玲子を見た。
 
「由布子さん。貴女、長く亜貴の傍にいたクセに、彼の事、全然わかっていなかったでしょう? 私は、彼がクレイジーな男だってコトも、彼がどれだけの孤独を抱えて苦しんでいたかっていうコトも、最初から気づいていたわ。だから私が傍に居て、ずっと、抱きしめてあげていたのよ。彼には、私が必要なの。あんなクレイジーな男、私しか愛せないわ。それが、どういう事か解る?」

「どういう・・・・意味よ」

 挑戦的な玲子の態度に、ゆっちゃんも棘のある返事をした。

「何もわかってない由布子さんに、亜貴の相手は無理って事よ。さっさと別れてくれない? 私に亜貴を、ちょうだい?」

「貴女っ・・・・散々私の事を苦しめる片棒担いでおきながら、いきなり、何言い出すのよっ!!」

 ゆっちゃんが声を荒げて怒った。

「由布子さん。私の事、責める資格あるの?」玲子は、顔色ひとつ変えずに淡々と続けた。「私、知ってるのよ。由布子さんだって、亜貴を裏切って壮太と関係を持ったでしょう? 壮太の様子を見てれば解るわ。挙句、亜貴に黙ってコソコソ隠れて、壮太と頻繁に連絡取り合ったりしてるじゃない。壮太に気がなくちゃ、そんな事出来ないわよねぇ? 私と似たようなことしておきながら、自分の事を棚に上げて、私の事だけとやかく言われたくないわ。私だって、貴女に苦しめられてるの。お互い様でしょ」

「・・・・っ!」

 逆に、ゆっちゃんの顔色の方が変わった。
 亜貴と関係を持ったのは玲子の意志じゃないのに、そんな事を言うなんて――それは、全部俺の為なんだな。

 ごめんな。お前、そんな女じゃないのに。もっとすごく、イイ女なのに。
 お前に、そんな悪女みたいな真似までさせてしまって、俺のせいで、本当にごめんな、玲子――


「由布子さん。私達きっと、結婚する相手を間違えてしまったのよ。だから・・・・やり直しましょう。私、壮太とはもう別れたの。私じゃ、壮太を幸せにすることはできなかったから・・・・だから・・・・由布子さん。壮太の事を本当に大切に思っているなら、どうか・・・・どうか、宜しくお願いします」

 泣き虫の玲子が、ゆっちゃんに頭を下げ、涙も見せずに言い放った。


 俺の方が泣きそうになった。


 玲子はどんな思いで俺の為に、そんな事を言ってくれたんだろう。
 どれだけ俺の事、愛してくれているんだろう。

 計り知れない玲子の愛に、胸が震えた。

「亜貴の事、何も迷うこと無いでしょう? 由布子さんには壮太が居るし、亜貴の傍には私が居るから、いいじゃない。だから、早く離婚してね」

 玲子は一方的にそれだけ言うと、まだ疲れてるから休みたいの、出て行ってくれない、と俺達を部屋から追い出した。



 玲子・・・・



 俺に捨てられて、でも、それでも俺を愛して、独りで泣くのか、お前。


 彼女を想うと、苦しみで心が押しつぶされそうだった。


 でも、お前がそこまで覚悟を決めて俺の為にやってくれたんだ。
 それをさせた張本人の俺が、台無しにするわけにはいかない。
 どんなに心が痛んでも、苦しくても、顔に出すな。
 堪えろ!

 亜貴を罠に嵌める時、玲子を使った時点で、俺はもう既に玲子を踏み台にしていたんだ。
 それを忘れるな!

 そこまでしてでも、ゆっちゃんを手に入れたいと思ったんだろ!


 振り向くな。絶対に、振り向くな。


 俺は玲子の部屋に背を向けて、ゆっちゃんの手を引いて歩き出した。
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