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第四話・罠を仕掛けた男
Side・秋山 壮太・7
しおりを挟むでも、そんな事をすれば、ゆっちゃんは酷く傷つき、ずっと、一生自分を責めるだろう。
もう二度と、心からの太陽の笑顔で、笑ってくれなくなるだろう。
亜貴を想って、俺の傍で泣き続けるだろう。
もしかしたら、俺の傍にいることさえ、亜貴に遠慮して拒まれてしまうかもしれない。
――本当に、死に際でさえゆっちゃんに憑りついて、亡霊のような男だな。黙ってくたばり、存在そのものが消滅すればいいのに。
ゆっちゃんの笑顔を失う訳にはいかない。
亜貴を、助けるしか他に道はなかった。ゆっちゃんを救う為にも、俺は迷わず玲子をここへ呼んだんだ。
色々な意味で、出来れば来て欲しくないのが本音だが。
涙を流して亜貴の無事を祈るゆっちゃんを抱きしめ、大丈夫だから、と励まして背中を撫でていると、慌てた様子で玲子がやって来た。
「あの・・・・亜貴の奥様――由布子さんね?」
「そうですけど・・・・貴女が亜貴くんの・・・・壮くんの、奥さんなの?」
「ええ、そうよ。私が、秋山玲子。亜貴の事、一刻を争うと聞いたわ。どうぞ、私の血で良ければ、使って?」
ゆっちゃんは唇を強く噛みしめ、玲子を睨むようにして、宜しくお願いします、と呟いた。
玲子は亜貴に輸血をする為に、別の部屋へ一人連れられて行ってしまった。
再び待合椅子には、俺とゆっちゃんが残された。
「・・・・綺麗な女性(ひと)ね、壮くんの奥さん」
ぽつりとゆっちゃんが呟いた。「私なんかと、全然違うわ。男の人はみんなあんな女性が好きになる――」
「何言ってるんだ、ゆっちゃん!」俺が彼女の言葉を遮った。「俺は十三年も前から、可愛い君に死ぬほど惚れて、君が好きだって言ってるだろ! 玲子と違って当たり前なんだ。もっと自分に自信持てよ!! ゆっちゃんは、誰よりもキレイだし、魅力ある女性なんだ!」
ゆっちゃんは、でも、と何かまだ言いたげだったが、俺は彼女の自虐的なセリフを言わせないように、言葉を続けた。「それに、玲子はもう俺の奥さんじゃない。ついさっき別れた。俺と玲子は離婚するんだ」
「えっ・・・・!?」
「前にも言っただろ。もう、自分のキモチに嘘はつけないって。これまでにゆっちゃんには何度も伝えたと思うけど、俺は君以外、何も欲しいものはない。俺は亜貴に遠慮して、自分の気持ちを君に伝えなかっただけなんだ。でも、こうなった以上、君を諦めることはできない。だから、亜貴が助かったら、これまでに決めていたように、ちゃんとアイツと別れてくれないか? 今こんな状態の時に、こんな事を言われても困るとは思うけど、俺をもし・・・・少しでも愛してくれているなら、ゆっちゃんは絶対、俺が幸せにする。亜貴と別れて、俺と一緒になろう。回り道しちゃったけど、俺は十三年も前から・・・・初めて俺を助けてくれたその時から、君だけを愛しているんだ」
「壮くんっ・・・・」
ゆっちゃんの大きな瞳から、再び涙が零れ落ちた。優しく拭って、髪を撫でた。
「返事は、急がないから。亜貴が助かって、ちゃんと、ケリついてからでいい。俺との事、真剣に考えてくれないか」
ゆっちゃんは、黙って俯いてしまった。
亜貴がこんな状態になってしまったんだ。これからの事や俺との事なんて、今すぐどうこう、考える余裕も無いのは解っている。
別に、もう焦る必要はない。後は流れに身を任せるしかないだろう。
やるだけの事はやった。
これでダメなら潔く身を引いて、一生独りでゆっちゃんを想い続けて、生きて行こう。
俺にとって大事な女である玲子でさえ、愛せなくてダメだったんだ。
俺は君以外、他の女を愛せるとは思えない。
だから、君が俺を愛してくれないなら、もう、君の事はこれできっぱり諦めようと思う。
愛し合った確かな時間を胸に刻んで、君の前にはもう二度と現れない様にする。
でも、もし君が俺を選んでくれるなら、俺は一生、君だけを大切に愛したい。
その為に、今まで多くの犠牲を払って来たんだ。ゆっちゃんが俺を選んでくれたら、俺はどんなことでもやってみせると誓うから――
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