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第三話・罠になった女
Side・秋山 玲子・7
しおりを挟む二年前、計画が始まった。
壮太は、人を助ける仕事をする為、カウンセラーになっていた。彼は話し上手で聞き上手な所があったから、人の様子を見る力に長けている所があった。
そんな彼が、亜貴にはどうも普通でない何かしらの秘密がありそうだと、亜貴の性癖について確信があったようで、私に調べてくれないか、と頼んできたのだ。
但し、それは常識を逸脱した方法しかない、と。
私を傷つけ、利用することになってしまう、と。
恐ろしく頭の良い亜貴を欺き、罠にかけ、由布子を奪い盗るには、懐に飛び込んで寝首をかくしかない。彼の、オンナに――浮気相手になってくれないか、と。
何でもやる、と私は答えた。
貴方と結婚して、貴方の傍に要る為なら、どんなことでもやれると思った。
偽物でも構わなかった。
たとえ利用されても、たとえ他の男に抱かれても、平気だった。
短い期間だとしても、壮太の傍に居られるその時間こそが、私にとって全てだったから。
秋山玲子として、貴方の傍で過ごす時間は、最高だった。
壮太と同じ時を過ごし、同じ空間に生きている――それだけで、私は満足だった。
壮太に言われた通り、私はすぐに亜貴に近づいて、関係を持つことに成功したわ。
亜貴を見た瞬間、恐ろしい程の闇を抱えた男だということが、私には何故だかすぐに解った。
匂いというべきか・・・・私も同じような香りを放っていたから、亜貴にはあまり警戒されなかった。私はこの計画に、適任だったというわけよ。
亜貴は亜貴で、私を抱いている時は彼の愛するお姫様を頭に描き、私は私で、彼に抱かれている時は、壮太との情事を思い浮かべていたから、お互い様だった。
亜貴はクレイジーだけど、可愛いところがあった。
誰にも懐かないひねくれた猫のような男で、近づくもの全てをその鋭い爪でひっかき傷つけ、愛に背を向ける、愛され方を知らない、壊れそうな男だった。
それはまるで、自分を見ているみたいだった。だから、つい、抱きしめたくなることが多かった。
彼が本当に壊れてしまったら、私が責任をもって抱きしめてあげよう、と思う程に。
私が亜貴に近づけば近づく程、亜貴と由布子の仲が壊れ、壮太の為になるのだと思うと、頑張ることが出来た。
壮太は、由布子を愛しているから。
絶望の淵から私を救ってくれた壮太を、心から愛する私のように、
彼もまた、同じように絶望の淵から彼を救ってくれた由布子を、
心から愛しているから――・・・・
想い出に浸っていたら、玄関の鍵が開錠される音がして、続いて入口の扉がキイ、と音を立てて開き、バタン、と音を立てて閉まる音がした。壮太が、帰って来たんだわ。
「お帰りなさい」
部屋から出て、玄関に立つ壮太に声をかけた。
こうやって出迎える事も、今日で最後なのね。
「ただいま。終わったぜ。ようやくだ――・・・・長かった。まあ、亜貴は全然納得してなかったけどな。亜貴のヤツ、ホンキで俺の事殺すとか言って来たんだぜ? アイツ、ブッ飛んでんな。マジでイカれてる。クレイジーだ。ま、俺も似たようなモンだけど」
「そんなイカれた男の相手をずっとさせていたのは、誰よ」
最後だから、ちょっぴり嫌味を言ってやった。
「・・・・そうだったな。悪かった」
私の言葉を聞いて、壮太は傷つき、心の底から、本当に申し訳なさそうな顔をした。
貴方にそんな顔をさせるつもりで、言ったんじゃないんだけれど。
「ごめんなさい。そういうつもりで言ったんじゃないの。解ってて引き受けたのは、私よ。貴方は悪くないわ。だから、そんな顔しないで?」
これは、私の問題でもあるの。
貴方をどうしても忘れられない私が、貴方を忘れる為に選んだ道だから。
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