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第三話・罠になった女
Side・秋山 玲子・5
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食堂に行くと、本当は食べる時間が決まっているのに、事情を話すと、食堂の人が壮太の分の食事を早く出してくれた。
壮太がわざわざ食堂でご飯を食べようと言ってくれたのは、面と向かって構えて真剣な話をしようとせず、あくまでも食事をしながらリラックスして世間話をするような形で、彼が私の話を聞いてくれようとしたからだった。
それに、食堂には時間外で誰も居なかったから、これも計算してくれていたんだと思う。
私はまだ精神的に食事ができる状態じゃなかったから、壮太の食事についていたパックのアップルジュースを貰う事にした。
食堂のテーブルに壮太と向かい合わせで座り、助けてくれてありがとう、と壮太に礼を告げた。
「別に。俺もちょっと前、ある人に助けてもらったからな。ま、今までは違ったけど、本当に困ってる人間見たら、これからはその子を見習って、助けることに決めたんだ。俺、その子のお陰で、死なずに今の生活ができてんだ」
人懐っこい笑顔で、壮太は笑った。ドキン、と私の心は再び音を立てた。
私の心臓は、どうしてしまったのだろう。
壮太が笑うと、ドキドキする。
「・・・・だから、そんなに綺麗になったの?」
無遠慮に尋ねた言葉に、壮太は一瞬、驚く程冷たい氷のような鋭い目を私に向けたが、すぐそれを解き、そうだ、と答えた。
「玲子、同じ中学だよな? 学年は?」
「うん。同じ二年。私はGクラス。壮太とは別のクラスよ」
「俺の転校当時の状況、知ってるんだ?」
「・・・・噂で少し。大変だったみたいだね」
「まあな。でも、クラスにたった一人だけ、ひとりぼっちの俺を助けてくれた女の子が居たんだ」
彼は嬉しそうに笑った。「俺みたいな底辺の人間にも、すげえ優しくしてくれて、この施設に入れるように手配してくれて、親から離れること、勧めてくれたんだ。俺、あのまま放っておかれたら、自殺するか、いじめがエスカレートしすぎて、多分殺されてたと思う。もう本当に悲惨で、ヤバかったから」
私以上にひどい目に遭っているにも関わらず、どうしてこんなに彼は笑いながら、そんな事を話せるのだろう。
「その子が、俺を死の淵から救ってくれたんだ。お陰で、こうやって生きてる。だからさ、玲子。我慢しないで辛い事、吐き出せよ。じゃないと、死ぬぞ。お前、今、死にそうな顔してる」
ドキリとした。そんなに死にそうな顔してたんだ、私。
まあ、そうかもしれない。実際、死のうと思っている訳だから。
「話聞いてくれる人が居るだけでも、助かるんだ。だから、俺に話せるんだったら、話してみろよ。俺に話しにくかったら、この施設の職員でもいい。何でもいいから、言えよ」
「ありがとう。でも・・・・恥ずかしい話なの・・・・その・・・・」
「無理にとは言わない。でも、話してくれたら、力になれるかもしれない」
「壮太・・・・あの・・・・あのねっ・・・・」
自分が汚されてしまった事を彼に言う事を、躊躇った。汚い女と思われたくない。
だから、壮太には言えない。
一旦は口を開こうと思ったけれど、やっぱり彼に、自分がもう綺麗な女でない事を知られたくないって、何故か強く思った。それが、死ぬより辛い事のように思えた。
「どうした、玲子。俺で良かったら、全部話せよ。折角俺がお前の事、見つけて拾ったんだ。俺が、お前の力になりたい。お前を、死なせたくない!」
真剣な目で私を見つめ、彼はそう言ってくれた。
嬉しくて、涙が溢れた。
死にたくない!
助けて欲しい!
もう二度と、黒い手に私の身体を触らせたくない!!
壮太がわざわざ食堂でご飯を食べようと言ってくれたのは、面と向かって構えて真剣な話をしようとせず、あくまでも食事をしながらリラックスして世間話をするような形で、彼が私の話を聞いてくれようとしたからだった。
それに、食堂には時間外で誰も居なかったから、これも計算してくれていたんだと思う。
私はまだ精神的に食事ができる状態じゃなかったから、壮太の食事についていたパックのアップルジュースを貰う事にした。
食堂のテーブルに壮太と向かい合わせで座り、助けてくれてありがとう、と壮太に礼を告げた。
「別に。俺もちょっと前、ある人に助けてもらったからな。ま、今までは違ったけど、本当に困ってる人間見たら、これからはその子を見習って、助けることに決めたんだ。俺、その子のお陰で、死なずに今の生活ができてんだ」
人懐っこい笑顔で、壮太は笑った。ドキン、と私の心は再び音を立てた。
私の心臓は、どうしてしまったのだろう。
壮太が笑うと、ドキドキする。
「・・・・だから、そんなに綺麗になったの?」
無遠慮に尋ねた言葉に、壮太は一瞬、驚く程冷たい氷のような鋭い目を私に向けたが、すぐそれを解き、そうだ、と答えた。
「玲子、同じ中学だよな? 学年は?」
「うん。同じ二年。私はGクラス。壮太とは別のクラスよ」
「俺の転校当時の状況、知ってるんだ?」
「・・・・噂で少し。大変だったみたいだね」
「まあな。でも、クラスにたった一人だけ、ひとりぼっちの俺を助けてくれた女の子が居たんだ」
彼は嬉しそうに笑った。「俺みたいな底辺の人間にも、すげえ優しくしてくれて、この施設に入れるように手配してくれて、親から離れること、勧めてくれたんだ。俺、あのまま放っておかれたら、自殺するか、いじめがエスカレートしすぎて、多分殺されてたと思う。もう本当に悲惨で、ヤバかったから」
私以上にひどい目に遭っているにも関わらず、どうしてこんなに彼は笑いながら、そんな事を話せるのだろう。
「その子が、俺を死の淵から救ってくれたんだ。お陰で、こうやって生きてる。だからさ、玲子。我慢しないで辛い事、吐き出せよ。じゃないと、死ぬぞ。お前、今、死にそうな顔してる」
ドキリとした。そんなに死にそうな顔してたんだ、私。
まあ、そうかもしれない。実際、死のうと思っている訳だから。
「話聞いてくれる人が居るだけでも、助かるんだ。だから、俺に話せるんだったら、話してみろよ。俺に話しにくかったら、この施設の職員でもいい。何でもいいから、言えよ」
「ありがとう。でも・・・・恥ずかしい話なの・・・・その・・・・」
「無理にとは言わない。でも、話してくれたら、力になれるかもしれない」
「壮太・・・・あの・・・・あのねっ・・・・」
自分が汚されてしまった事を彼に言う事を、躊躇った。汚い女と思われたくない。
だから、壮太には言えない。
一旦は口を開こうと思ったけれど、やっぱり彼に、自分がもう綺麗な女でない事を知られたくないって、何故か強く思った。それが、死ぬより辛い事のように思えた。
「どうした、玲子。俺で良かったら、全部話せよ。折角俺がお前の事、見つけて拾ったんだ。俺が、お前の力になりたい。お前を、死なせたくない!」
真剣な目で私を見つめ、彼はそう言ってくれた。
嬉しくて、涙が溢れた。
死にたくない!
助けて欲しい!
もう二度と、黒い手に私の身体を触らせたくない!!
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