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第三話・罠になった女

Side・秋山 玲子・3

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「とりあえず来い」

 自分が濡れるのも構わずに、彼は私を遊具の下から引っ張り出して、そのまま背負ってくれた。
 彼は傘を持っていたが、私を助けたものだから一緒に激しい雨に打たれて、一瞬でボトボトに濡れてしまった。

「お前、何か捨て猫みたいだな。制服もボロボロだし。家は? 送ってやる」

 彼が家を聞いてきたので、私は黙っていた。家には帰りたくなかった。
 夢中でイヤイヤと首を振った。


「オーケー。じゃ、俺の家来いよ。って、施設だけど」


 彼は私を背負ったまま、自分が住んでいるという施設まで連れて行ってくれた。

「お帰り、壮太。あれっ、誰、その子」

 施設から出て来た恰幅の良い熊のように大きな男性が、彼に背負われた私を見て尋ねてきた。

「公園で拾った」

「拾ったぁ!?」

「うん。こいつ、捨て猫。ボロボロだからさ、風呂、入れてやって」

「何言ってんだ! お嬢さんが捨て猫なワケないだろ! それに、お前も濡れてるだろっ。壮太もとっとと服脱いで、風呂入れ! 風邪ひくぞっ」

 男性が私の所にやって来て、寒かっただろう、先ずはお風呂に入って温まろうね、と優しく声をかけてくれた。

 
「あの・・・・でも・・・・私、お金・・・・持ってないんです・・・・着替えも無くて・・・・」

「いいよ、そんな事気にしなくて。服はいっぱいあるし、温まったら、話聞くから。話できそうなら、話してくれたらいいよ」

 優しく髪を撫でられて、私は涙腺が壊れた。
 涙があとからあとから溢れて、声も出せずに泣いた。

「辛かったね。よく頑張ったね。お風呂、入っておいで。こっちだよ」

 優しく背中を撫でられて、女性用のお風呂場まで案内してもらった。私を背負ってくれた少年は、既に男性用のお風呂の方へ行ってしまって、今はもう居ない。

 私は泣きながらその温かいお風呂に入らせてもらって、黒い手に汚された自分の身体を必死に洗った。
 見た目は綺麗になったけれど、取れる事のない黒い汚れは、傷のようになって心を覆いつくし、黒く塗りつぶした。



 綺麗な身体や心に、もう二度と戻れないのだと思うと、悲しくてまた涙が溢れた。



 あの黒い手を、どうにかしなきゃ。
 でも、たった十四歳の幼い私には、何をどうすることも出来なかった。
 お風呂から上がったら、あの男の居る家に戻されるのかもしれないと思うと、この場で死にたくなった。
 でも、こんなところで自殺なんかして、見ず知らずの私に優しくしてくれた人達に、迷惑をかけるわけにはいかない。

 死ぬなら、誰にも迷惑のかからない場所で死ぬしか――・・・・
 


 探そう。私に相応しい死に場所を。



 最後に優しくされて、良かったと思いながら死ぬのは、黒い手に苦痛を与えられたまま死ぬより、遥かに良い。

 私は決心して、温かい湯船から上がった。
 鏡を見ると、胸元辺りに赤い斑点が幾つも付いていた。黒い手に付けられた跡だ。
 洗っても洗っても落ちないから、かきむしってやった。赤くミミズ腫れみたいになったけれど、あの男の凌辱の跡よりずいぶんマシになったと思う。

 お風呂から上がると、白くて綺麗なバスタオルとフェイスタオルが着替え棚の上に置かれていた。更に服を持っていない私が着替えられるように、私と同じ学校指定のジャージが置いてあり、白い女性用下着で無地のものがパッケージに入ったまま、そのジャージの横に置かれていた。
 
 ジャージのゼッケンには、秋山壮太と書いてある。

 秋山壮太――そうだ、何処かで見たと思ったら、春先に別のクラスに転校してきて、随分酷いいじめに遭っていた、暗く臭い少年だったことを思い出した。だから、なんとなく知っているような気がしたのに、すぐに解らなかったのだ。
 ジャージは彼が貸してくれたもののようだ。

 壮太が随分綺麗な男になったのは、お風呂で洗ったからなんだ、と納得した。
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