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第二話・壊れた男
Side・松田 亜貴・9
しおりを挟む「いやあぁっ! 離してっ、離し――・・・・」
両腕を掴んで逃げられないように捕らえ、リビングの床に乱暴に押し倒して、激しく口づけた。
何時も軽く触れる程度のキスを、数えるほどしかしなかった僕たちが、初めて本能剥き出しの口づけを交わしている。
「んっ、あっ・・・・あきくっ・・・・ん、んっ・・・・んうっ・・・・!!」
舌と舌を絡め、僕は由布ちゃんの口内を犯し、貪った。
何度も、何度も、激しく。
着衣していた彼女の白いブラウスを下着ごと引きちぎり、乱れた衣類のそこから露になった肌に口づけた。
、
「あきくっ・・・・やっ! やめてっ!! っ・・・・あぁ、んっ、はあっ・・・・あきくんっ、だめっ・・・・あぁっ、んぁっ、はっ・・・・!」
敏感な胸先部分に唇を這わすと、卑猥な甘い声が漏れる。
たった少しの刺激で、こんなに彼女の身体が反応して、興奮しているのが伝わってくる。
これは多分――僕以外の男と関係を持った証だ。
僕はこんな風に、由布ちゃんに刺激を与えた事が無いからな。
由布ちゃんがそんな関係を持つ男は、壮以外に居ないだろう。でもそれは一体、何時、どうやって――・・・・そう思って、気が付くことがあった。
同窓会だ。
壮は仕事で忙しいから、同窓会には最初から来ないと聞いていた。だから安心していたんだ。
でも、それも罠だったんだ。周到に用意された、壮が仕掛けた罠のうちの、ひとつだったという訳だ。だから二年もの間、玲子の事も含めてそんな罠が疑われたりしないよう、音信不通を貫いたんだ。
連絡も無いから大丈夫だろう、と僕を安心させておいた上で、同窓会の時に由布ちゃんに接触して僕と玲子の事を教え、僕との関係に限界を感じていた由布ちゃんを壊し、彼女の心の隙に入り込んで、もう既に待ちきれず、由布ちゃんを抱いて、手に入れていたんだな。
それで、僕の前にようやくその姿を現したんだ。
壮に抱かれ、開発された――だから、由布ちゃんがあの日以来、とても綺麗でキラキラして輝いて見えたんだ。
僕への激しい憎しみを抱き、女としての悦びを、愛を、壮から与えられ、今日まで黙って過ごしてきたという訳か。
僕は全てを理解した。
壮。僕の知らない間に、ずけずけと僕の領域に踏み込んできて、勝手に踏み荒らすなんて――やっぱりあの男、殺しても、殺し足りない。今すぐ息の根を、この手で止めてやりたい。
さっき、殺して帰ってくれば良かった。
僕の大切な由布ちゃんを穢すなんて、絶対に、絶対に赦せない!!
「壮と、寝たの?」顔を上げて、しっかり由布ちゃんを見据えて、静かに聞いた。
壮への怒りしか、沸いてこなかった。
由布ちゃん。どうせ心の隙につけ込まれ、壮にそそのかされ、流されたんだろう。
僕がちゃんと愛してあげられなかったから、壮がくれる快楽には、抗えなかったのだろうな。
壮に乱されてしまったんだね。迂闊だった。僕が、もっとちゃんと、君を誰にも触れさせないようにしておけば良かったんだ。僕の責任だ。
君が自ら、僕を裏切る訳が無い。だから、由布ちゃんに罪はない。
こんな事になってしまったのも、全て、僕が悪いんだ。
大切な君を、歪んだ形でしか、僕は愛してあげられなかったから。
彼女を見やると、怒りの中に、怯えと動揺の色が浮かんでいる。否定も肯定もせず黙っているが、それは肯定したのと同じことだった。
僕の中で、想像が確信に変わった。
パチン、と何かが弾けて、壊れた。
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