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第二話・壊れた男
Side・松田 亜貴・8
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家に帰ると、由布ちゃんがリビングのテーブルセットの椅子にじっと座ったまま、待ってくれていた。
家がきちんと、いつも以上に綺麗に整頓されていた。
由布ちゃんは綺麗に化粧をして髪も整えて、僕の好きな清楚な白い服に身を包んでいた。
「亜貴くん、お帰りなさい。話があるの。そこに座って」彼女の向いに座るよう、指示された。
凄い。僕が昂っているだけじゃない。由布ちゃんから、何時もは感じない、憎しみと怒りの気迫のようなものを感じる。
研ぎ澄まされていて、触れたら傷ついて一瞬で鮮血が飛び出そうな――まるで鋭い刃物みたいだ。
今の君になら、刺されてもいいって思う。
ただ、刺されるのは壮を始末してからじゃないとダメだ。罠にかかった獲物として、負けて終わる訳にはいかない。僕という障害がなくなって、壮が君ともし一緒になって幸せに暮らすようなことが、あるかもしれないだろ。
壮はもしかしたら、僕より異常かもしれないな。結婚までしている手の届かない女にここまで固執できるのは、並大抵の精神力ではできない筈だ。
この僕を罠に嵌める程の周到さ、明るく人懐っこい笑顔の下で、それらをやってのけるのだとしたら、もしかしたら僕と同じ人種じゃないのか、壮。いや、お前は、僕以上に狂っているのかもしれない。
そんな男に、由布ちゃんは絶対に渡せない。
壮に渡すくらいなら、今、この場で由布ちゃんを僕の手で始末する。
「話って何かな?」
僕はわざととぼけた。リビングテーブルの上に置かれている、緑色の渕の用紙――離婚届も見ないフリをした。
「私と、離婚してください」
由布ちゃんが僕の方へ、自分の名前を記載し、印鑑まで捺印した離婚届を突きつけてきた。
「どうして? 僕たち、こんなに仲良く暮らしているのに、離婚なんて、そんな事言うんだよ、由布ちゃ――」
「仲良く? よくそんなしらじらしい事言えるわねっ! 私をずっと裏切ってたクセにっ!!」
僕の言葉を遮って、由布ちゃんが大声を上げた。苦痛に顔を歪めている。由布ちゃんは、目に涙をいっぱいためながら、叫んだ。「亜貴くんの事、もう無理なの! 私は貴方に愛して貰えなくて、ずっと辛くて、苦しくて、淋しかったのに、他の女の人を抱くなんて酷いよぉっ! しかもその相手が、よりにもよって壮くんの奥さんなんて、どうしても赦せないのよ――っ!!」
涙をぼろぼろと零しながら、苦しむ由布ちゃんの顔、とてもキレイだ。僕が欲情する、とても好きな顔だ。
「どうして・・・・私を抱いて、愛してくれなかったの? 亜貴くん・・・・どうして、私を裏切ったりしたの・・・・・・・・」
ドクン、と心臓が跳ねた。
あぁ――・・・・今、初めて君を、こんなにも狂おしい程に愛しく、欲しい、抱きたいって、思うなんて。
今までにない昂りが、僕の全身を包んでいた。こんな事は初めてだ。
色々あったから、細胞全てが刺激されているかの様だ。
由布ちゃんが、欲しい。
今すぐ、欲しい。
「玲子との事、壮から聞いたんだ?」
「ええ。できれば知りたくなかった。亜貴くんを、信じてたのに・・・・」
顔を歪めて、泣きながら狂った微笑みを浮かべる由布ちゃんに、僕は堪らなく欲情している。
僕は黙って立ち上がり、何時もの優しい王子の仮面をはぎ取って、狂気を剥き出しにしたままの男の姿で、由布ちゃんに近づいた。
「――来ないでっ!」
彼女が叫んでも、無視して近づいた。
「いやっ、来ないでっ!!」
由布ちゃんも立ち上がって、僕から逃げようとする。
「亜貴くんっ、いやぁっ!」
ふわふわの栗色の髪。
「由布ちゃん」
大きな瞳が憎悪に燃え盛っていて、僕を見据えている。その瞳は今、僕の狂気の前に怯えているんだ。
「キレイだ」
太陽の天使が憎しみを知り、怒りに心を支配され、歪むその姿――なんて美しいんだろう。
僕はこんなに美しい由布ちゃんを、見たことが無い。
家がきちんと、いつも以上に綺麗に整頓されていた。
由布ちゃんは綺麗に化粧をして髪も整えて、僕の好きな清楚な白い服に身を包んでいた。
「亜貴くん、お帰りなさい。話があるの。そこに座って」彼女の向いに座るよう、指示された。
凄い。僕が昂っているだけじゃない。由布ちゃんから、何時もは感じない、憎しみと怒りの気迫のようなものを感じる。
研ぎ澄まされていて、触れたら傷ついて一瞬で鮮血が飛び出そうな――まるで鋭い刃物みたいだ。
今の君になら、刺されてもいいって思う。
ただ、刺されるのは壮を始末してからじゃないとダメだ。罠にかかった獲物として、負けて終わる訳にはいかない。僕という障害がなくなって、壮が君ともし一緒になって幸せに暮らすようなことが、あるかもしれないだろ。
壮はもしかしたら、僕より異常かもしれないな。結婚までしている手の届かない女にここまで固執できるのは、並大抵の精神力ではできない筈だ。
この僕を罠に嵌める程の周到さ、明るく人懐っこい笑顔の下で、それらをやってのけるのだとしたら、もしかしたら僕と同じ人種じゃないのか、壮。いや、お前は、僕以上に狂っているのかもしれない。
そんな男に、由布ちゃんは絶対に渡せない。
壮に渡すくらいなら、今、この場で由布ちゃんを僕の手で始末する。
「話って何かな?」
僕はわざととぼけた。リビングテーブルの上に置かれている、緑色の渕の用紙――離婚届も見ないフリをした。
「私と、離婚してください」
由布ちゃんが僕の方へ、自分の名前を記載し、印鑑まで捺印した離婚届を突きつけてきた。
「どうして? 僕たち、こんなに仲良く暮らしているのに、離婚なんて、そんな事言うんだよ、由布ちゃ――」
「仲良く? よくそんなしらじらしい事言えるわねっ! 私をずっと裏切ってたクセにっ!!」
僕の言葉を遮って、由布ちゃんが大声を上げた。苦痛に顔を歪めている。由布ちゃんは、目に涙をいっぱいためながら、叫んだ。「亜貴くんの事、もう無理なの! 私は貴方に愛して貰えなくて、ずっと辛くて、苦しくて、淋しかったのに、他の女の人を抱くなんて酷いよぉっ! しかもその相手が、よりにもよって壮くんの奥さんなんて、どうしても赦せないのよ――っ!!」
涙をぼろぼろと零しながら、苦しむ由布ちゃんの顔、とてもキレイだ。僕が欲情する、とても好きな顔だ。
「どうして・・・・私を抱いて、愛してくれなかったの? 亜貴くん・・・・どうして、私を裏切ったりしたの・・・・・・・・」
ドクン、と心臓が跳ねた。
あぁ――・・・・今、初めて君を、こんなにも狂おしい程に愛しく、欲しい、抱きたいって、思うなんて。
今までにない昂りが、僕の全身を包んでいた。こんな事は初めてだ。
色々あったから、細胞全てが刺激されているかの様だ。
由布ちゃんが、欲しい。
今すぐ、欲しい。
「玲子との事、壮から聞いたんだ?」
「ええ。できれば知りたくなかった。亜貴くんを、信じてたのに・・・・」
顔を歪めて、泣きながら狂った微笑みを浮かべる由布ちゃんに、僕は堪らなく欲情している。
僕は黙って立ち上がり、何時もの優しい王子の仮面をはぎ取って、狂気を剥き出しにしたままの男の姿で、由布ちゃんに近づいた。
「――来ないでっ!」
彼女が叫んでも、無視して近づいた。
「いやっ、来ないでっ!!」
由布ちゃんも立ち上がって、僕から逃げようとする。
「亜貴くんっ、いやぁっ!」
ふわふわの栗色の髪。
「由布ちゃん」
大きな瞳が憎悪に燃え盛っていて、僕を見据えている。その瞳は今、僕の狂気の前に怯えているんだ。
「キレイだ」
太陽の天使が憎しみを知り、怒りに心を支配され、歪むその姿――なんて美しいんだろう。
僕はこんなに美しい由布ちゃんを、見たことが無い。
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