18 / 47
第二話・壊れた男
Side・松田 亜貴・7
しおりを挟む
僕は慌てて顔を上げた。僕の焦る顔を見て、待ってましたとばかりに壮は笑った。「調査表は、二年分あるぜ。いつ、どこで、どのような行為に及んだか、細かく記録してある。玲子は俺の妻(オンナ)だ。二年間よくもまあ、二人して俺を裏切ってくれたな」
勝ち誇るような壮の顔を見て、僕は確信した。
そうか、そうだったのか。
――玲子は、壮が僕に仕掛けた罠だったのか!
最初から、僕に玲子を近づけさせ、離婚させて由布ちゃんを奪い盗る為に――・・・・
「亜貴、年貢の納め時だ。この調査報告書をもって、裁判してもいい。裁判すれば、必ず俺が勝つ。浮気した挙句、自分の嫁には全く手つかずなんて知れたら――そうなると亜貴、お前が色々困るだろう? だから、親友のよしみとして、お前からの一方的な離婚だけで、手を打ってやる。理由は何でもいい。慰謝料も要らない。ゆっちゃんと離婚しろ。それが、裁判をしない条件だ。断るというなら、今すぐにでもお前を訴える」
この男は二年という長い歳月、息を殺してその存在をかき消し、僕を罠に嵌めて捕らえるその時を、じっと待っていたんだ。
僕に完全に言い逃れをできなくさせ、退路を断つ為に。
更に自分の妻との肉体関係が一切無い――そんな状態が証明されて裁判になれば、非を認めざるを得ない。僕は必ず裁判に負け、由布ちゃんとの離婚も余儀なくされるだろう。
だから壮は、僕にあんなアドバイスをしたんだ。
大切なものは大切に、欲は別の玩具で――僕が玲子と関係を持つように仕向け、由布ちゃんを間違っても抱いたり壊したりしないように。
「・・・・やってくれたな、壮」
「何の事だ。俺は傷ついているんだぜ? 親友からも、妻からも、両方から裏切られた、可哀想な男だからな」
僕は震えた。
凄い。こんなにエキセントリックな事、生まれて初めてだ。
僕が、壮の仕掛けた罠にまんまと引っかかるなんてな!
「あっははははっ!!」
僕は笑った。
凄いよ、壮。こんなにワクワクして、興奮して、昂った事、生まれて初めてだ。
玲子とのセックスなんか、遥かに凌駕してる。
凄い、凄いぞ!!
僕は、確かに自分の中で何かが壊れる音を聞いた。
もう、きっと誰も手が付けられないだろうな。
僕自身でさえも、自分がどんな行動に出るか解らない。
「何笑ってんだよ、亜貴。お前、自分の立場解ってんのか――・・・・」
僕は壮が話しているのも無視し、彼の胸倉を掴んで自分の方へ引き寄せた。「お前みたいなストーカー男に、由布ちゃんは絶対に渡さない。今度僕や由布ちゃんの回りをウロウロしてみろ。お前、殺すよ?」
生まれて初めて、純粋に、憎く、人を殺したいと思った。
壮なら、僕が手をかける相手には相応しい。良いかもしれない。
どんな苦痛を与えてやろうか、想像しただけで興奮する。
僕を罠にかけた罪を、身を持って味合わせてやるからな!
これ以上話すことは無い、と吐き捨てて僕は席を立った。飲み代をテーブルに置いて、バーを後にした。
壮、目障りなヤツ。
何時までも由布ちゃんを追いかけて、僕から取り上げようとするなんて。
この男の事が好きで気に入っているというのは、僕の大きな勘違いだった。彼の傷つく所を見るのはとても楽しみで仕方なかったから、そんな風に思ってしまったんだ。でも、それ以上に脅威の方を考えなかったのは、誤算だった。僕とした事が。
そんな勘違いをせず、もっと早くに、始末しておけば良かったんだ。
由布ちゃん。
君を壊す日は、まだ、もう少し先だと思っていたけど。
それは、今日だったんだね。
早く、君に逢いたい――
自分でも驚く程の胸の高揚を抱えながら、家へと急いだ。
勝ち誇るような壮の顔を見て、僕は確信した。
そうか、そうだったのか。
――玲子は、壮が僕に仕掛けた罠だったのか!
最初から、僕に玲子を近づけさせ、離婚させて由布ちゃんを奪い盗る為に――・・・・
「亜貴、年貢の納め時だ。この調査報告書をもって、裁判してもいい。裁判すれば、必ず俺が勝つ。浮気した挙句、自分の嫁には全く手つかずなんて知れたら――そうなると亜貴、お前が色々困るだろう? だから、親友のよしみとして、お前からの一方的な離婚だけで、手を打ってやる。理由は何でもいい。慰謝料も要らない。ゆっちゃんと離婚しろ。それが、裁判をしない条件だ。断るというなら、今すぐにでもお前を訴える」
この男は二年という長い歳月、息を殺してその存在をかき消し、僕を罠に嵌めて捕らえるその時を、じっと待っていたんだ。
僕に完全に言い逃れをできなくさせ、退路を断つ為に。
更に自分の妻との肉体関係が一切無い――そんな状態が証明されて裁判になれば、非を認めざるを得ない。僕は必ず裁判に負け、由布ちゃんとの離婚も余儀なくされるだろう。
だから壮は、僕にあんなアドバイスをしたんだ。
大切なものは大切に、欲は別の玩具で――僕が玲子と関係を持つように仕向け、由布ちゃんを間違っても抱いたり壊したりしないように。
「・・・・やってくれたな、壮」
「何の事だ。俺は傷ついているんだぜ? 親友からも、妻からも、両方から裏切られた、可哀想な男だからな」
僕は震えた。
凄い。こんなにエキセントリックな事、生まれて初めてだ。
僕が、壮の仕掛けた罠にまんまと引っかかるなんてな!
「あっははははっ!!」
僕は笑った。
凄いよ、壮。こんなにワクワクして、興奮して、昂った事、生まれて初めてだ。
玲子とのセックスなんか、遥かに凌駕してる。
凄い、凄いぞ!!
僕は、確かに自分の中で何かが壊れる音を聞いた。
もう、きっと誰も手が付けられないだろうな。
僕自身でさえも、自分がどんな行動に出るか解らない。
「何笑ってんだよ、亜貴。お前、自分の立場解ってんのか――・・・・」
僕は壮が話しているのも無視し、彼の胸倉を掴んで自分の方へ引き寄せた。「お前みたいなストーカー男に、由布ちゃんは絶対に渡さない。今度僕や由布ちゃんの回りをウロウロしてみろ。お前、殺すよ?」
生まれて初めて、純粋に、憎く、人を殺したいと思った。
壮なら、僕が手をかける相手には相応しい。良いかもしれない。
どんな苦痛を与えてやろうか、想像しただけで興奮する。
僕を罠にかけた罪を、身を持って味合わせてやるからな!
これ以上話すことは無い、と吐き捨てて僕は席を立った。飲み代をテーブルに置いて、バーを後にした。
壮、目障りなヤツ。
何時までも由布ちゃんを追いかけて、僕から取り上げようとするなんて。
この男の事が好きで気に入っているというのは、僕の大きな勘違いだった。彼の傷つく所を見るのはとても楽しみで仕方なかったから、そんな風に思ってしまったんだ。でも、それ以上に脅威の方を考えなかったのは、誤算だった。僕とした事が。
そんな勘違いをせず、もっと早くに、始末しておけば良かったんだ。
由布ちゃん。
君を壊す日は、まだ、もう少し先だと思っていたけど。
それは、今日だったんだね。
早く、君に逢いたい――
自分でも驚く程の胸の高揚を抱えながら、家へと急いだ。
0
お気に入りに追加
56
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
抱きたい・・・急に意欲的になる旦那をベッドの上で指導していたのは親友だった!?裏切りには裏切りを
白崎アイド
大衆娯楽
旦那の抱き方がいまいち下手で困っていると、親友に打ち明けた。
「そのうちうまくなるよ」と、親友が親身に悩みを聞いてくれたことで、私の気持ちは軽くなった。
しかし、その後の裏切り行為に怒りがこみ上げてきた私は、裏切りで仕返しをすることに。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
【R18】今夜、私は義父に抱かれる
umi
恋愛
封じられた初恋が、時を経て三人の男女の運命を狂わせる。メリバ好きさんにおくる、禁断のエロスファンタジー。
一章 初夜:幸せな若妻に迫る義父の魔手。夫が留守のある夜、とうとう義父が牙を剥き──。悲劇の始まりの、ある夜のお話。
二章 接吻:悪夢の一夜が明け、義父は嫁を手元に囲った。が、事の最中に戻ったかに思われた娘の幼少時代の記憶は、夜が明けるとまた元通りに封じられていた。若妻の心が夫に戻ってしまったことを知って絶望した義父は、再び力づくで娘を手に入れようと──。
【共通】
*中世欧州風ファンタジー。
*立派なお屋敷に使用人が何人もいるようなおうちです。旦那様、奥様、若旦那様、若奥様、みたいな。国、服装、髪や目の色などは、お好きな設定で読んでください。
*女性向け。女の子至上主義の切ないエロスを目指してます。
*一章、二章とも、途中で無理矢理→溺愛→に豹変します。二章はその後闇落ち展開。思ってたのとちがう(スン)…な場合はそっ閉じでスルーいただけると幸いです。
*ムーンライトノベルズ様にも旧バージョンで投稿しています。
※同タイトルの過去作『今夜、私は義父に抱かれる』を改編しました。2021/12/25
秘密 〜官能短編集〜
槙璃人
恋愛
不定期に更新していく官能小説です。
まだまだ下手なので優しい目で見てくれればうれしいです。
小さなことでもいいので感想くれたら喜びます。
こここうしたらいいんじゃない?などもお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる