16 / 47
第二話・壊れた男
Side・松田 亜貴・5
しおりを挟む
あれから大きな出来事も無く月日が流れ、世間は十二月――師走に入った。
年末で仕事も忙しくなり、家に帰る時間が極端に減った。
由布ちゃんと過ごす時間が少なくなるのは嫌だったけど、仕方ない。
僕はあくまでも表向きは仕事を頑張って家計を支える、良い夫でいなければならないんだ。
他人の評価は大切だからな。僕は全てを味方につけて、君が絶対に僕から逃げられないように計算しておかなきゃいけない。結構大変なんだよ。
でも、それも君をこの手に閉じ込めておくために必要な事なら、どんなことでも楽しいって思う。
由布ちゃんは僕がどんなに仕事が忙しくて何時の帰宅になっても、僕の為に食事を拵え、待っていてくれた。
それが玲子と関係を持った日でも、同じように変わらず、だ。
可愛い、可愛い、僕の由布ちゃん。
早く全てを僕のものにできたらいいのにって、最近特に強く思うようになった。
よく解らないけど由布ちゃんがあの同窓会の日から、何か別の緊張感を持っていて、それでいて研ぎ澄まされた感じが――僕が与えていた緊張感とはまた違うものを抱えているようで、それが異様にキラキラしていて綺麗に見えるんだ。
凄く心を刺激されて、由布ちゃんを抱きたいって思う。
興奮してる。でもこれは玲子とするセックスの方だ。普通じゃない。
そうなったら僕はスイッチが入ってしまって、止まらなくなるだろう。
もしかしたら僕はそのうち君を壊して、本当に殺してしまうかもしれない。
もしそうなってしまった時は、一緒に果てよう。
僕もすぐ逝く。死ぬのは怖くないけど、僕は君を失うのが怖いんだ。
君の居ない世界では、恐らく僕は生きてゆけないと思うから。
本当に罠に嵌められて捕らえられたのは、もしかしたら僕の方なのかも知れないな。
由布ちゃんという罠に――
※
昂る気持ちを抱えたまま、正月を迎えた。
忙しかった仕事も落ち着き、僕の実家と由布ちゃんの実家へ招かれたので、両方の家に顔を出しに行ってきた。
孫はまだか、と催促されたので適当にあしらっておいた。
どちらの両親も言う事は同じだ。毎回毎回よく飽きないな。
どうして結婚したら、子供を作らないといけないのだ。誰が決めたんだ。そんな法律は無いのだから、いちいち夫婦問題に口を挟まないで欲しい。
両親を満足させる為に、僕たちは生きている訳じゃない。
プライベートに土足で踏み込んでくる両親達にうんざりしている夫婦が、この国には山の様にいるだろう。まだ、自分が産んだ子供――僕たちの事を、自分の所有物だとでも思っているのだろうか。
そんなに赤ん坊が抱きたいなら、自分たちで勝手に作れ。
結婚して独立しているのだから、プライベートな問題については黙っていろ。
そうだ。今度そういう事を言われたら、僕が種無しなんです、僕が原因です、って言ってやろうかな。
どんな顔をするだろう。想像すると楽しくなった。
両親達の青ざめてオロオロする姿、今日見てやれば良かったかな。
あ、でも、種無しって言ってしまったら、由布ちゃんとの離婚を勧められるかもしれないな。それは困る。
子供の事だけれど僕は、僕みたいな狂った人間の遺伝子は絶対に残したくないから、子供は作らないつもりだ。
だから僕は早くに自分の遺伝子が残せないように、自らの手で遺伝子を処分した。だから種無しというのはでまかせなんかじゃなく、本当の事だ。
自分の子供だからって僕はきっと可愛がることもできないだろうし、遺伝子に未練は無い。
由布ちゃんはきっと、僕との子供が欲しいって思っているだろうけど。
僕の代わりに何か依存して愛する者ができれば、もう少しこの生活もマシになるだろう――そんな風に思っているんじゃないかな。でもそんなものは与えてあげられないし、あげるつもりも、無い。
そんな事になったら緊張感とか無くなってしまって、毎日つまらなくなりそうだ。
僕は退屈したら由布ちゃんを壊してしまうだろうし、色々良くないと思う。
だからそんな事にならないように、手は打っておいたから。君をもしこれからも抱くことがあったとしても、絶対に大丈夫だから安心してね。
それより何故か最近、由布ちゃんがどんどん綺麗になっていくんだ。
歪んだ――僕の闇の一部のようなものを纏って、キラキラ輝いている。
そんな由布ちゃんを、叩き壊したくなる衝動を抑えるのに必死なんだ。
きっと、壊れる日はもう近い。
僕の勘は結構当たるからな。何かが、起こる予感がする――
年末で仕事も忙しくなり、家に帰る時間が極端に減った。
由布ちゃんと過ごす時間が少なくなるのは嫌だったけど、仕方ない。
僕はあくまでも表向きは仕事を頑張って家計を支える、良い夫でいなければならないんだ。
他人の評価は大切だからな。僕は全てを味方につけて、君が絶対に僕から逃げられないように計算しておかなきゃいけない。結構大変なんだよ。
でも、それも君をこの手に閉じ込めておくために必要な事なら、どんなことでも楽しいって思う。
由布ちゃんは僕がどんなに仕事が忙しくて何時の帰宅になっても、僕の為に食事を拵え、待っていてくれた。
それが玲子と関係を持った日でも、同じように変わらず、だ。
可愛い、可愛い、僕の由布ちゃん。
早く全てを僕のものにできたらいいのにって、最近特に強く思うようになった。
よく解らないけど由布ちゃんがあの同窓会の日から、何か別の緊張感を持っていて、それでいて研ぎ澄まされた感じが――僕が与えていた緊張感とはまた違うものを抱えているようで、それが異様にキラキラしていて綺麗に見えるんだ。
凄く心を刺激されて、由布ちゃんを抱きたいって思う。
興奮してる。でもこれは玲子とするセックスの方だ。普通じゃない。
そうなったら僕はスイッチが入ってしまって、止まらなくなるだろう。
もしかしたら僕はそのうち君を壊して、本当に殺してしまうかもしれない。
もしそうなってしまった時は、一緒に果てよう。
僕もすぐ逝く。死ぬのは怖くないけど、僕は君を失うのが怖いんだ。
君の居ない世界では、恐らく僕は生きてゆけないと思うから。
本当に罠に嵌められて捕らえられたのは、もしかしたら僕の方なのかも知れないな。
由布ちゃんという罠に――
※
昂る気持ちを抱えたまま、正月を迎えた。
忙しかった仕事も落ち着き、僕の実家と由布ちゃんの実家へ招かれたので、両方の家に顔を出しに行ってきた。
孫はまだか、と催促されたので適当にあしらっておいた。
どちらの両親も言う事は同じだ。毎回毎回よく飽きないな。
どうして結婚したら、子供を作らないといけないのだ。誰が決めたんだ。そんな法律は無いのだから、いちいち夫婦問題に口を挟まないで欲しい。
両親を満足させる為に、僕たちは生きている訳じゃない。
プライベートに土足で踏み込んでくる両親達にうんざりしている夫婦が、この国には山の様にいるだろう。まだ、自分が産んだ子供――僕たちの事を、自分の所有物だとでも思っているのだろうか。
そんなに赤ん坊が抱きたいなら、自分たちで勝手に作れ。
結婚して独立しているのだから、プライベートな問題については黙っていろ。
そうだ。今度そういう事を言われたら、僕が種無しなんです、僕が原因です、って言ってやろうかな。
どんな顔をするだろう。想像すると楽しくなった。
両親達の青ざめてオロオロする姿、今日見てやれば良かったかな。
あ、でも、種無しって言ってしまったら、由布ちゃんとの離婚を勧められるかもしれないな。それは困る。
子供の事だけれど僕は、僕みたいな狂った人間の遺伝子は絶対に残したくないから、子供は作らないつもりだ。
だから僕は早くに自分の遺伝子が残せないように、自らの手で遺伝子を処分した。だから種無しというのはでまかせなんかじゃなく、本当の事だ。
自分の子供だからって僕はきっと可愛がることもできないだろうし、遺伝子に未練は無い。
由布ちゃんはきっと、僕との子供が欲しいって思っているだろうけど。
僕の代わりに何か依存して愛する者ができれば、もう少しこの生活もマシになるだろう――そんな風に思っているんじゃないかな。でもそんなものは与えてあげられないし、あげるつもりも、無い。
そんな事になったら緊張感とか無くなってしまって、毎日つまらなくなりそうだ。
僕は退屈したら由布ちゃんを壊してしまうだろうし、色々良くないと思う。
だからそんな事にならないように、手は打っておいたから。君をもしこれからも抱くことがあったとしても、絶対に大丈夫だから安心してね。
それより何故か最近、由布ちゃんがどんどん綺麗になっていくんだ。
歪んだ――僕の闇の一部のようなものを纏って、キラキラ輝いている。
そんな由布ちゃんを、叩き壊したくなる衝動を抑えるのに必死なんだ。
きっと、壊れる日はもう近い。
僕の勘は結構当たるからな。何かが、起こる予感がする――
0
お気に入りに追加
59
あなたにおすすめの小説
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。


会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

ナイトプールで熱い夜
狭山雪菜
恋愛
萌香は、27歳のバリバリのキャリアウーマン。大学からの親友美波に誘われて、未成年者不可のナイトプールへと行くと、親友がナンパされていた。ナンパ男と居たもう1人の無口な男は、何故か私の側から離れなくて…?
この作品は、「小説家になろう」にも掲載しております。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる