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第二話・壊れた男
Side・松田 亜貴・5
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あれから大きな出来事も無く月日が流れ、世間は十二月――師走に入った。
年末で仕事も忙しくなり、家に帰る時間が極端に減った。
由布ちゃんと過ごす時間が少なくなるのは嫌だったけど、仕方ない。
僕はあくまでも表向きは仕事を頑張って家計を支える、良い夫でいなければならないんだ。
他人の評価は大切だからな。僕は全てを味方につけて、君が絶対に僕から逃げられないように計算しておかなきゃいけない。結構大変なんだよ。
でも、それも君をこの手に閉じ込めておくために必要な事なら、どんなことでも楽しいって思う。
由布ちゃんは僕がどんなに仕事が忙しくて何時の帰宅になっても、僕の為に食事を拵え、待っていてくれた。
それが玲子と関係を持った日でも、同じように変わらず、だ。
可愛い、可愛い、僕の由布ちゃん。
早く全てを僕のものにできたらいいのにって、最近特に強く思うようになった。
よく解らないけど由布ちゃんがあの同窓会の日から、何か別の緊張感を持っていて、それでいて研ぎ澄まされた感じが――僕が与えていた緊張感とはまた違うものを抱えているようで、それが異様にキラキラしていて綺麗に見えるんだ。
凄く心を刺激されて、由布ちゃんを抱きたいって思う。
興奮してる。でもこれは玲子とするセックスの方だ。普通じゃない。
そうなったら僕はスイッチが入ってしまって、止まらなくなるだろう。
もしかしたら僕はそのうち君を壊して、本当に殺してしまうかもしれない。
もしそうなってしまった時は、一緒に果てよう。
僕もすぐ逝く。死ぬのは怖くないけど、僕は君を失うのが怖いんだ。
君の居ない世界では、恐らく僕は生きてゆけないと思うから。
本当に罠に嵌められて捕らえられたのは、もしかしたら僕の方なのかも知れないな。
由布ちゃんという罠に――
※
昂る気持ちを抱えたまま、正月を迎えた。
忙しかった仕事も落ち着き、僕の実家と由布ちゃんの実家へ招かれたので、両方の家に顔を出しに行ってきた。
孫はまだか、と催促されたので適当にあしらっておいた。
どちらの両親も言う事は同じだ。毎回毎回よく飽きないな。
どうして結婚したら、子供を作らないといけないのだ。誰が決めたんだ。そんな法律は無いのだから、いちいち夫婦問題に口を挟まないで欲しい。
両親を満足させる為に、僕たちは生きている訳じゃない。
プライベートに土足で踏み込んでくる両親達にうんざりしている夫婦が、この国には山の様にいるだろう。まだ、自分が産んだ子供――僕たちの事を、自分の所有物だとでも思っているのだろうか。
そんなに赤ん坊が抱きたいなら、自分たちで勝手に作れ。
結婚して独立しているのだから、プライベートな問題については黙っていろ。
そうだ。今度そういう事を言われたら、僕が種無しなんです、僕が原因です、って言ってやろうかな。
どんな顔をするだろう。想像すると楽しくなった。
両親達の青ざめてオロオロする姿、今日見てやれば良かったかな。
あ、でも、種無しって言ってしまったら、由布ちゃんとの離婚を勧められるかもしれないな。それは困る。
子供の事だけれど僕は、僕みたいな狂った人間の遺伝子は絶対に残したくないから、子供は作らないつもりだ。
だから僕は早くに自分の遺伝子が残せないように、自らの手で遺伝子を処分した。だから種無しというのはでまかせなんかじゃなく、本当の事だ。
自分の子供だからって僕はきっと可愛がることもできないだろうし、遺伝子に未練は無い。
由布ちゃんはきっと、僕との子供が欲しいって思っているだろうけど。
僕の代わりに何か依存して愛する者ができれば、もう少しこの生活もマシになるだろう――そんな風に思っているんじゃないかな。でもそんなものは与えてあげられないし、あげるつもりも、無い。
そんな事になったら緊張感とか無くなってしまって、毎日つまらなくなりそうだ。
僕は退屈したら由布ちゃんを壊してしまうだろうし、色々良くないと思う。
だからそんな事にならないように、手は打っておいたから。君をもしこれからも抱くことがあったとしても、絶対に大丈夫だから安心してね。
それより何故か最近、由布ちゃんがどんどん綺麗になっていくんだ。
歪んだ――僕の闇の一部のようなものを纏って、キラキラ輝いている。
そんな由布ちゃんを、叩き壊したくなる衝動を抑えるのに必死なんだ。
きっと、壊れる日はもう近い。
僕の勘は結構当たるからな。何かが、起こる予感がする――
年末で仕事も忙しくなり、家に帰る時間が極端に減った。
由布ちゃんと過ごす時間が少なくなるのは嫌だったけど、仕方ない。
僕はあくまでも表向きは仕事を頑張って家計を支える、良い夫でいなければならないんだ。
他人の評価は大切だからな。僕は全てを味方につけて、君が絶対に僕から逃げられないように計算しておかなきゃいけない。結構大変なんだよ。
でも、それも君をこの手に閉じ込めておくために必要な事なら、どんなことでも楽しいって思う。
由布ちゃんは僕がどんなに仕事が忙しくて何時の帰宅になっても、僕の為に食事を拵え、待っていてくれた。
それが玲子と関係を持った日でも、同じように変わらず、だ。
可愛い、可愛い、僕の由布ちゃん。
早く全てを僕のものにできたらいいのにって、最近特に強く思うようになった。
よく解らないけど由布ちゃんがあの同窓会の日から、何か別の緊張感を持っていて、それでいて研ぎ澄まされた感じが――僕が与えていた緊張感とはまた違うものを抱えているようで、それが異様にキラキラしていて綺麗に見えるんだ。
凄く心を刺激されて、由布ちゃんを抱きたいって思う。
興奮してる。でもこれは玲子とするセックスの方だ。普通じゃない。
そうなったら僕はスイッチが入ってしまって、止まらなくなるだろう。
もしかしたら僕はそのうち君を壊して、本当に殺してしまうかもしれない。
もしそうなってしまった時は、一緒に果てよう。
僕もすぐ逝く。死ぬのは怖くないけど、僕は君を失うのが怖いんだ。
君の居ない世界では、恐らく僕は生きてゆけないと思うから。
本当に罠に嵌められて捕らえられたのは、もしかしたら僕の方なのかも知れないな。
由布ちゃんという罠に――
※
昂る気持ちを抱えたまま、正月を迎えた。
忙しかった仕事も落ち着き、僕の実家と由布ちゃんの実家へ招かれたので、両方の家に顔を出しに行ってきた。
孫はまだか、と催促されたので適当にあしらっておいた。
どちらの両親も言う事は同じだ。毎回毎回よく飽きないな。
どうして結婚したら、子供を作らないといけないのだ。誰が決めたんだ。そんな法律は無いのだから、いちいち夫婦問題に口を挟まないで欲しい。
両親を満足させる為に、僕たちは生きている訳じゃない。
プライベートに土足で踏み込んでくる両親達にうんざりしている夫婦が、この国には山の様にいるだろう。まだ、自分が産んだ子供――僕たちの事を、自分の所有物だとでも思っているのだろうか。
そんなに赤ん坊が抱きたいなら、自分たちで勝手に作れ。
結婚して独立しているのだから、プライベートな問題については黙っていろ。
そうだ。今度そういう事を言われたら、僕が種無しなんです、僕が原因です、って言ってやろうかな。
どんな顔をするだろう。想像すると楽しくなった。
両親達の青ざめてオロオロする姿、今日見てやれば良かったかな。
あ、でも、種無しって言ってしまったら、由布ちゃんとの離婚を勧められるかもしれないな。それは困る。
子供の事だけれど僕は、僕みたいな狂った人間の遺伝子は絶対に残したくないから、子供は作らないつもりだ。
だから僕は早くに自分の遺伝子が残せないように、自らの手で遺伝子を処分した。だから種無しというのはでまかせなんかじゃなく、本当の事だ。
自分の子供だからって僕はきっと可愛がることもできないだろうし、遺伝子に未練は無い。
由布ちゃんはきっと、僕との子供が欲しいって思っているだろうけど。
僕の代わりに何か依存して愛する者ができれば、もう少しこの生活もマシになるだろう――そんな風に思っているんじゃないかな。でもそんなものは与えてあげられないし、あげるつもりも、無い。
そんな事になったら緊張感とか無くなってしまって、毎日つまらなくなりそうだ。
僕は退屈したら由布ちゃんを壊してしまうだろうし、色々良くないと思う。
だからそんな事にならないように、手は打っておいたから。君をもしこれからも抱くことがあったとしても、絶対に大丈夫だから安心してね。
それより何故か最近、由布ちゃんがどんどん綺麗になっていくんだ。
歪んだ――僕の闇の一部のようなものを纏って、キラキラ輝いている。
そんな由布ちゃんを、叩き壊したくなる衝動を抑えるのに必死なんだ。
きっと、壊れる日はもう近い。
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