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第一話・壊れた女

Side・松田 由布子・10

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 途端にドキン、と心臓が跳ねて、全身が、かあっ、と熱くなった。
 突然の事過ぎて、拒むことも忘れてしまった。

 唇が離されたから、目を開いて壮くんを見つめた。
 どうして? ドキドキしている。どうしよう。
 衝撃で、言葉が出てこない。

「ゆっちゃん、君は誰よりも綺麗だ。こんなイイ女、手も出さずに放っておいて、何年も辛い思いさせた挙句、裏切るなんて、俺、絶対に亜貴を赦せない!! 亜貴が君のこと要らないっていうなら、俺がもらう」

 今度は、激しく口づけされた。舌が押し入ってきた。

「ん、んんっ・・・・そう・・・・くっ、ん・・・・っ!」

 口づけされたまま軽々と抱き上げられ、傍のシングルベッドに押し倒された。
 弾みで、握りしめていた写真が宙に舞い、ヒラヒラと舞い落ちていった。
 その時、落ちていく写真に写った亜貴くんと、目が合った気がした。



――亜貴くんは、どんな思いで私を裏切って、どんな風に壮くんの奥さんを抱いたの?



 考えようと思ったけれど、再び壮くんの唇が下りて来た。
 何度も何度も壮くんに口づけされて、舌と舌が絡まって、くぐもった吐息が漏れた。
 離れようと思っても、出来なかった。何度も唇を求められ、ゾクゾクと快感が全身を襲う。

 こんなに激しく求められたのは、初めてだった。
 

「ゆっちゃん・・・・めちゃくちゃ可愛い。ごめん・・・・俺もう、止められない。今日、君を見て思った。やっぱり俺は、今でも、ゆっちゃんが好きだ――・・・・」


 私は、さっきの衝撃でおかしくなってしまったのだろう。
 辛すぎて、逃げたくて、頭が麻痺しているのだろう。

 壮くんとこんな事をしているというのに、嫌だと叫んで拒むこともせず、亜貴くんの事も考えられずに、ただ、壮くんを受け入れて、気持ちいいって感じてしまうなんて――


「あっ・・・・そうくっ・・・・んっ、あっ・・・・」

 キスだけで凄く感じてしまって、喘ぎを含んだ甘い嬌声になる。

「ゆっちゃん・・・・はっ・・・・凄い、可愛い」

 背中に手を回され、着衣していたドレスワンピースのファスナーを一気に下ろされた。

「あっ、ダメ! もうっ・・・・それ以上・・・・っ」

 鋭い瞳をした男の壮くんに見つめられて、私はドキドキした。
 どうしてドキドキなんかするの?
 私、今、凄くショック受けて、亜貴くんに裏切られたって知って、泣き叫んで発狂してた筈でしょう?



 ああ、そっか。


 もう、壊れちゃったんだ。思考回路。


 だったら、何も、考えなくて、いいのね?




 もしかしたらこれは、わるいゆめなのかもしれない・・・・




 
「じゃあ、このまま亜貴にも抱いてもらえず、一生、亜貴に飼い殺しにされて、一人で淋しく過ごすのかよ? そんなの、我慢できないだろ。全部、俺のせいにしていいから。俺が勝手に、君を求めたんだ。それに、亜貴は好き勝手にやってんだから、罪悪感なんか感じる必要無いぜ。悪いのは、全部俺のせいにして、ラクにして? 俺はもう、自分のキモチに嘘は付けない。亜貴からゆっちゃんを返してもらう。先に裏切ったのは向こうの二人だ。俺等を責めたりできないだろ。俺は君を必ず、亜貴から取り返して、手に入れる」

 好きな人に求められず、淋しくひとりぼっちで何年も放っておかれた私にとって、壮くんの言葉は凄く嬉しかった。


 でも、色々ありすぎて、今、この現状も受け入れる事ができない。


 どうして、壮くんとこんなイケナイ事してるのか。
 私達どちらも、大切な伴侶がいる筈なのに。
 裏切られて、傷つけられて、それで残った者同士で抱き合うの?

 間違ってるとは思う。
 頭と体がバラバラで、上手くついていけないの。

 でも、いいよね。

 どうせ壊れたんなら、もっと壊れてしまっても、別に構わないわよね。
 壊れてしまったものは、二度と元には戻せないのだから。
 
「あっ・・・・壮くんっ! だめっ・・・・」

 下着ごとドレスワンピースをずり下げられ、乱れた衣類から覗く敏感な胸の突起の左側を熱い舌で転がされた。
 空いた右胸は優しく揉まれ、刺激された。

「んあっ・・・・はあっ、ぁあっ・・・・」

 こんなに身体が熱くなる愛撫、初めてだ。

 何年も愛する夫に抱いてもらえず、枯れかけた身体には、壮くんの与えてくれる刺激は麻薬のようだった。
 拒むことなんて、出来なかった。

 頭の芯から痺れて、真っ白になりそう。
 気持ちよくて、壮くんを何度も甘い声で呼んだ。
 壮くんも、私の名前を何度も呼んで、何度も深く口づけを交わした。

 舌が絡まって、唾液が零れて、随分卑猥なキスだったけど、気持ちよかった。

 私、亜貴くんにこんな事、された事無い。

 初めてだった。
 激しく求められて、女としてまだ終わってないんだって、乱れてもいいんだって、嬉しくて涙が溢れた。
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